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  • 2017/11/09 掲載

過疎自治体が出生率トップ級に! 岡山県「奈義町の奇跡」に何を学ぶべきか

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全国の地方自治体で少子化が深刻さを増す中、岡山県奈義町が2014年、町独自の試算で2.81という非常に高い合計特殊出生率(女性が一生に産む子どもの数)を達成した。国内で最も合計特殊出生率が高い九州、沖縄の離島部に匹敵する数値で、その後も本州トップクラスの2.0前後を記録している。岡山大経済学部の岡本章教授(人口経済学)は「2014年の数値は出生数が少し増加すると数値が急激にはね上がる小規模自治体の特性によるものだろうが、その後も他の自治体と比べると高い」と分析する。「奈義町の奇跡」ともいわれる高い合計特殊出生率はどうやって生まれたのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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出産前から高校卒業まで切れ目のない子育て支援策を展開する奈義町役場。2014年は2.81という非常に高い合計特殊出生率を記録した
(写真:筆者撮影)


子どもが「多ければ多いほど」手厚くなる子育て支援

 岡山県北部の中心都市・津山市から車で30分。鳥取との県境に位置する奈義町は鉄道も通らない山あいの町だ。人口は約6,000人。基幹産業は農畜産業で、65歳以上のお年寄りが全人口に占める割合を示す高齢化率は、既に3割を超えている。

 はた目には何の変哲もない過疎自治体としか見えないのに、町が試算した2014年の合計特殊出生率2.81は、全国1位の鹿児島県徳之島にある伊仙町と同じ。2015年は2.27、16年が1.85で、ともに14年を下回ったものの、高い数値を記録した。岡山県が独自にまとめた2011年から5年間の合計特殊出生率も1.98に達し、県内では飛び抜けて高い。

 町が出生率上昇を目指して打ち出したのは、子育て支援の充実だ。町のパンフレットには、不妊治療への助成、出産祝い金、保育料助成、ひとり親助成、高校への通学費助成、チャイルドホームでの子育て相談、高校生までの医療費助成など子育て支援策がずらりと並ぶ。それも出産前から高校卒業まで切れ目がない。

 たとえば、出産祝い金だと第1子10万円、第2子15万円、第3子20万円、第4子30万円、第5子以降40万円と多子になるほど増えていく。保育料の軽減も第1子が国基準の55%、第2子が半額なのに対し、第3子以降は無料。多子世帯にターゲットを向け、3人以上の子どもを持ってもらおうとしてきたわけだ。

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奈義町の主な子育て支援策
(出典:奈義町「定住・子育て支援対策」)


 若者の定住にも力を入れた。若者向け住宅を21世帯分新築したほか、雇用促進住宅を買い上げて60世帯分を確保、新婚家庭の町外流出に歯止めをかけた。町職員の採用では県外枠を設け、外部の血も入れている。

 2014年に第3子の女児を出産した有宗千夏さん(39)=同町滝本、自営業=は「もともと子どもを3人欲しかったが、町の支援制度があり、助かった」と喜んでいる。町は他の自治体より三世代同居世帯が多く、正規雇用者の割合が74%と高い。これらの点も出生率向上を後押ししたとみられている。

高齢者から「子育て予算を使い過ぎ」の声も

 大胆な子育て支援に踏み切った背景には、町が置かれた厳しい状況がある。町は2002年、住民投票で平成の大合併に参加しないことを選択した。ところが、2005年の合計特殊出生率は1.41。1955年に9,000人近かった人口は6,000人ほどまで減少し、町民から「子どもの声が聞こえなくなった」という声が上がるようになる。

 「このままだと町が消滅する」。町役場を支配したのは強い危機感だった。そこで、2012年に「子育てするなら奈義町で」というキャッチフレーズを掲げて子育て応援を宣言、本格的な支援強化に乗り出した。

 町には陸上自衛隊の駐屯地や演習場があり、施設整備に対する補助金は他の自治体より恵まれているが、それだけで子育て支援の費用をまかなえない。同時に行政改革も進め、最盛期に120人以上いた町職員を88人に削減した。

 2016年度予算では1億2,500万円以上を子育て支援につぎ込んでいる。しかし、国や県の補助金は1,000万円に満たない。過疎対策事業債を一部活用したものの、大半は苦しい財政の中から予算をひねり出した町の単独事業だ。その結果、以前は町予算全体の2%程度しか子育て支援に回せなかったが、3%以上に増額されている。

 高齢者から「子育て予算を使い過ぎている」と批判の声が出たこともある。急激に膨らむ子育て予算に驚いたからだが、町は2016年の町議会全員協議会で高齢者向け予算を削減していないことをデータで示し、理解を得た。

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町独自の子育て支援策について説明する笠木義孝奈義町長。「町が生き残るには子どもを増やすしかない」と語る
(写真:筆者撮影)


 町は合計特殊出生率2.6、人口6,000人維持を目標に掲げている。笠木義孝町長は「町が生き残るには出生率を上げ、子どもを増やすしかない。今後も子育て支援を充実させ、継続して目標達成できるようにしていきたい」と意気込んでいる。

【次ページ】人口維持に遠く及ばない日本の合計特殊出生率

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