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  • 2018/03/02

就活戦線、人ではなく「人工知能に落とされる」時代が到来へ

3月1日、2019年卒の大学・大学院新卒者の就職戦線が本格的にスタートしたが、就活生が人間ではなくAI(人工知能)によって選ばれる時代が来た。エントリーシートの書類選考で、AIによる合否判定を導入した企業が増えてきたのだ。AI選考は人間心理のぶれに左右されないメリットがあるが、現状「完全無人化」とまではいかない。それでも万単位の応募者から絞り込む必要がある就職人気上位企業には有効な方法だろう。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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AIで就職活動は変わるのか?
(©chombosan - Fotolia)

膨大な数にのぼる「エントリーシート」をどうさばくか

 経団連が加盟企業に通達した「採用選考に関する指針」によると、3月1日は2019年卒の大学・大学院新卒者を対象とする会社説明会、自社サイトへの登録、エントリーシートの提出・受付、Web上でのテストの実施などが一斉に解禁され、就職戦線が本格的にスタートする日になった。就活生の出欠をとって行うような直接的な個別接触は6月1日までできないが、水面下では選考が進む。

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2019年卒の大学新卒者の採用活動スケジュール

 選考の最初の段階の主役は、就活生が志望動機や自己PRなどを自筆で書いて提出する「エントリーシート(ES)」だ。

 応募総数は、上場企業で素材メーカーのような知名度がそれほど高くない企業でも数千通、就職人気企業ランキングで上位に顔を出す企業では数万通、十数万通に及ぶこともある。企業はエントリーシートを書類選考のふるいにかけるが、それは就活生にとっては就職戦線の「第一関門」であり、企業の人事部にとっては会社説明会の開催とともに、採用戦線の「最初のヤマ場」になる。

 その時期、人事部員は毎日、何百通ものエントリーシートに目を通して合否の「○×」をつける。多少、字が汚くても日本語がおかしくても、やりたい仕事が明確など「キラリと光る何か」を感じさせるものは○。

 達筆で論理的な文章を書いていても内容が月並みで退屈で、どこかで見たようなものは×……などと言えばサマになるが、経験者によればエントリーシートの大部分は甲乙つけがたい出来なので合否の判定はかなり迷い、最後に大学名を見て自分の出身大学や、それより「いい大学」なら○にすることもあるという。

 そうやってふるいにかけ、応募者を3分の1、5分の1、企業によっては10分の1に絞り込んで、「面接に呼び出す」など次の段階に進める候補者を選び出す。

 エントリーシートの大量読みは疲れるし、何より飽きる。もちろん良い人材に×をつけて取り逃していないかというプレッシャーもある。生身の人間が行うには心理的にきつい作業だが、いま、そのエントリーシートの書類選考をAI(人工知能)にさせる企業が現れ始めた。

 就活生が人間にではなく、AIによって志望企業に「足切り」される時代がやってきた。

2017年はソフトバンク、今年はサッポロが導入

 AI(人工知能)は言うまでもなく、いま最もホットで、最も期待される成長分野である。世界の4大会計事務所の一つ、英アーンスト・アンド・ヤング(EY)のレポート「人工知能が経営にもたらす『創造』と『破壊』」によると、世界全体のAIの市場規模は2015年から2020年までの5年間で16.2倍に、2030年までの15年間で23.7倍になると予測されている。

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世界のAI市場の成長予測

 IDC Japanのレポート「国内コグニティブ/AIシステム市場予測」によると、日本国内のAIの市場規模は2016年から2021年までの5年間で15.7倍になり、年間にならすと73.6%の高い成長率をマークすると予測されている。

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日本国内のAI市場の成長予測

 そのAIを、大学・大学院新卒者(総合職)の採用選考に導入すると最初に発表したのがソフトバンクだった。2017年5月、IBMの「Watson(ワトソン)」を肉筆ではなくデータの形で提出されるエントリーシートの合否判定に使い始めた。

 Watsonは「自然言語分類(NLC)」の分野で、文章データの分析、評価や添削修正を行ってきた実績がある。ソフトバンクの過去のエントリーシート選考について学習した後で、採用の現場に投入された。

 ソフトバンクでは例年、2つの設問で合計1200字のエントリーシートを約1万人の学生が書いて提出し、それを採用部門の約10人のスタッフが手分けして読み、合否の判定をつけていた。

 その時間はのべ800時間超。単純計算で1人が約1000人分のエントリーシートを読み、判定に80時間以上をかけ、学生1人にかける時間は4.8分。5分足らずで文章を読んで「○×」もつけなければならない。この苛酷な業務の「助っ人」として、AIが初めて導入されたのである。

 AIの活用はまず、過去数年の採用活動で提出された大量の「通過したエントリーシート」「落とされたエントリーシート」を学習させることから始まった。その上で、無作為に抽出した過去のエントリーシートをAIに判定させ、その結果を採用部門のスタッフによる実際の合否判定結果と突き合わせたところ、ほぼ一致した。それがAI導入決定の決め手になったという。

 ソフトバンクはAIを導入すると、エントリーシートの合否判定に必要な時間を約800時間から約200時間へ約75%、4分の3も削減できた。その分、スタッフの労力が軽減され、面接など応募者との直接的なコミュニケーションのほうに力を入れられるようになったという。

 応募者への合否の通知も早くなったが、短期決戦の就職戦線では、結果が早くわかるのは合否にかかわらず、応募者にとってメリットになる。

 視点を変えれば、人事部門の採用スタッフの労力や拘束時間を軽減できるので、AIという助っ人の活用は、いま話題の「働き方改革」の上でも望ましいと言えそうだ。

 2017年10月、総合飲料メーカーのサッポロHDが、2019年卒の大学・大学院新卒者の採用活動で書類選考にAIを導入すると発表した。同社の場合、2018年卒の採用活動では約6000人の正式エントリー(応募者)があり、履歴書など応募書類を書類選考することで約3割の1800人に絞り込み、その次の面接やグループディスカッションなどの採用プロセスに送り込んだという。

 前年度は書類選考で約6000人のうち約4200人に×をつけたというが、それにのべ約600時間が費やされた。そこへAIが導入されると時間が4割削減できると見込んでいる。浮いた約240時間を書類選考後の面接などに振り向ければ、応募者の適性や長所をじっくり見極められ、判断の精度が向上するとサッポロHDの人事部は期待している。

 すでに前年度、書類記入事項、そのチェックポイント、面接の選考ポイントなどをAIに学習させてテスト済み。書類選考で採用スタッフがつけた合否とAIがつけた合否がほぼ一致し、思ったより好結果だったという。

 IT企業は、AIシステムを人事部門に売り込んでいる。過去の応募者の履歴書、エントリーシートと書類選考の合否結果をAIに学習させ、応募者の履歴書、エントリーシートが「合格者のそれに近いか、不合格者のそれに近いか」で判定するシステムを2015年に開発したNECは、すでに人材紹介会社など10社以上で導入実績があると明らかにしている。

 ドイツのSAPも応募書類の「レジュメ解析」を行って応募者の能力順、適性順のランキング表をつくるシステムを開発した。AIによる性格診断ソフトを、ANAは2018年卒の新卒採用から事務職の採用で導入している。

 「人間でなく人工知能なんかにダメ出しされるのか?」などと批判されかねないので公表は控えていても、今年の採用活動でAI選考を導入する企業は、秘かに増加しそうだ。

【次ページ】AIのメリットは「客観性、公平性の確保」

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