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  • 2018/04/13 掲載

SAP ERPの保守切れ「2025年問題」、4つの選択肢のどれを選ぶべきか

連載:次世代ERPによるビジネス変革

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ERPベンダーのトップ、SAP。そのSAPユーザーに今、「2025年問題」という危機が迫っています。日本では2000社以上が導入しているとされるSAP ERPの保守サポートが2025年で終了するのです。企業におけるその存在感ゆえに、今回の切替には大きな時間とリソース、コストがかかることが予測されます。本稿ではSAPユーザーに与えられている選択肢と、具体的な対応方法について考察していきます。

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役。 同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウデュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(組立工場、化学プラントなどの業務知識・経験)、基幹系(ERP/SCMなど)、クラウド(エンタープライズ系:PaaS、SaaSなど)、製造現場システム(MES/MOM/IoTなど)の調査・企画・開発・導入の支援に携わる。一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)のサポート会員であり、IVIのエバンジェリストをつとめる。

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保守サポートが切れる「2025年」まで、残り7年を切った
(© Olivier Le Moal – Fotolia)


SAPユーザーに迫る「2025年問題」とは何か?

 国内大手企業を中心に4,000社以上の導入実績がある老舗のERPベンダー、SAP。最近はERPビジネスよりも、クラウドサービスやプラットフォームビジネスのほうが伸びていますが、「ERPベンダーのトップ」として今なお君臨しています。

 そのSAPを使うユーザー企業(およそ2000社)を悩ませているのが、「2025年問題」です。これはSAP ERPや同製品を同梱したSAP Business Suiteなどの保守サポートが2025年で終了することを指します。

 SAP ERPはその前進となるSAP R/3が1992年に登場して以来、実に20年以上も業界トップを走り続けてきた製品です。SAP R/3という古いバージョン(バージョン1.0~4.Xまで)から、SAP ERP(バージョン5.0~7.X)において、バージョンアップが行われてきました。旧バージョンながら、企業向け基幹システムとしての実績と信頼性がありますが、この保守サポートが2025年で終了してしまうのです。

 中でも問題なのが、SAP ERPはUNIX、Windows、汎用機、Linuxなど複数OS、複数データベースで稼働するマルチプラットフォーム対応だったのに対して、新製品のSAP S/4HANAのデータベースは、SAP HANAのみの対応となることです(SAP S/4HANAはERPパッケージの名称、SAP HANAはインメモリデータベースの名称です)。

 後述する他の事情もあって、移行に伴うユーザー企業の負担は非常に大きくなると予想されます。さらに、2025年問題が完全に「ベンダー都合」であることも、ユーザー企業の担当者にとっては悩ましいポイントでしょう。

SAP ERP「2025年問題」の背景

 そもそも、なぜSAP ERPからSAP S/4HANAへの切り替えが必要とされるのでしょうか。SAP ERPは、企業向けの基幹システムとして25年以上にわたって市場をリードしてきた製品です。きめ細かいバージョンアップによる機能拡充を続けていますから、機能の網羅性については問題ないでしょう。

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SAP ERPの変遷

 一方、SAPが新しいERP製品「S/4HANA」を開発した背景には、ビジネス環境の変化と機能の充実によって、リアルタイム性が欠如し、システムが肥大化してしまったという問題があります。

 ERPシステムは基幹システムですから、さまざまな業務や法制度への対応が求められます。機能要件は増え続ける一方ですが、過去の機能を利用しているユーザーもいるため、新しいバージョンでも古い機能を減らすことはできません。つまり、システムは肥大化し続けることになります。

 さらに、SAP ERPは1つの伝票データを、強みである「財務会計」と「管理会計」の両方に利用していますが、そのデータの整合性を維持するためには、定められたプロセスに沿った処理が必要となり、膨大な中間ファイルや処理データが作られることとなります。

 その結果、利用すればするほどシステムとデータが肥大化してリアルタイム性が無くなっていくというわけです。

 IoT時代に入れば、企業が取り扱うデータ容量は飛躍的に増えることが予想され、従来の仕組みの延長線上では限界が近いと言われています。そこで、SAPが出した結論が、新しいアーキテクチャでERPを新しく作り直すという発想でした。

SAP S/4HANAとはどんなERPなのか?

 SAPが新たに開発したSAP HANAという独自開発のデータベースは、SAPのプラットフォームビジネスの基盤となるSCP(SAP Enterprise Cloud Platform)と新しいERP製品であるSAP S/4HANAのベースに用いられています。

 SAP S/4HANAでは、システム肥大化の原因となっていたSAP ERPのテーブル構成(テーブル数が数十万以上となっていた)を大幅に見直してスリム化するとともに、あらかじめ処理した集計データを中間ファイルとして保持する仕組みを見直しました。集計データは、要求されたタイミングでオンデマンド集計処理する仕組みになっています。こうすることで、シンプルかつリアルタイムに最新の情報を入手できる仕組みを目指しています。

 ただ実際には、機能をシンプルにしすぎて、ユーザーから「機能が足りないから不足を追加してほしい」という要望があり、再び機能を増やすという試行錯誤をしているのが現況です。

 また、複数データベースに対応していたSAP ERPに対して、SAP S/4HANAのデータベース対応はSAP HANAのみです。これによって、他のデータベース製品が使えなくなるデメリットはありますが、マルチプラットフォーム対応に割かれていた膨大な開発リソースとサポート体制を抑えることが可能となります。

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SAP S/4HANAのデジタルコアに含まれるロジスティクス機能領域。これまで別システムであったSAP APO(MRP所要量計算やSNP需給連鎖計画など)の機能もデジタルコアには含まれている

 ちなみに、欧州のユーザーコミュニティでは、Oracleデータベース対応のS/4HANAを出してほしいという要望もあるようですが、旧製品SAP ERPとS/4HANAはまったく異なる仕組みで稼働しています。そのため、バージョンアップというよりは、マイグレーションのような大掛かりな事態となってしまうでしょう。

 SAPがS/4HANAをリリースしたのは2015年で、SAP ERPのサポート終了は2025年ですから10年間の移行期間があります。カウントダウンまで残り7年となりましたが、ユーザー企業はそろそろ具体的な計画を策定しなければなりません。

 ただ、企業向けシステムとしての存在感が高いことからも、S/4HANAへの移行は簡単ではありません。グループ会社へ展開している場合には、複数年にまたがる時間とリソースが必要となります。

【次ページ】継続するべきか、それとも辞めるべきか?4つの選択肢

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