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- 2018/05/25 掲載
北米スマートシティ事例、“グーグル化”のサイドウォークラボと新市場狙うウーバー
連載:シリコンバレー発 米テックレポート
サイドウォークラボが、トロントを“グーグル化”させる
サイドウォークラボは米アルファベットが創設した、元ニューヨーク市の経済発展副市長であるダニエル・ドクトロフCEOなど都市の政策エキスパートと、グーグルの一流エンジニアによって構成された、スマートシティに特化したグーグルの兄弟会社だ。同社はニューヨーク市で、Wi-Fiキオスクを設置した実験が話題になった。このキオスクは観光客らに無料のWi-Fiサービスを提供し、その広告収入を得るというビジネスモデルを展開していた。
登録した人のIDとひもづいて通信することで、その人が誰で、いつ、どこにいて、何を検索しているか、などのデータを把握することも可能だ。具体的なサービスの形は見えてこなかったが、Wi-Fiサービスによる人の移動や振る舞いのデータを蓄積、検証し、都市で何が起きているかをリアルタイムで把握することも狙いにあったのだろうと考える。
また、ニューヨークのほかに、2016年のアメリカ運輸省のSmart City Challangeのコンテストにてファイナリストに残った7つの都市にて、同社が開発中の都市の渋滞や駐車の問題に対処するツール「Flow」が使われた。
これはリアルタイムで、交通に関するデータを蓄積・共有し分析に使えるプラットフォームだ。駐車場情報、電車やバス、渋滞や事故に関する情報が集められ、それらを考慮した最適なナビゲーションを可能にする。これらは自動運転もかなり意識したものだといわれている。
同社が今回、2017年に一躍注目を浴びたのは、カナダ政府、オンタリオ州政府、トロント市による、同市のウオーターフロント再開発計画事業「ウオーターフロント・トロント」のパートナーとなったことだ。同社は「サイドウォーク・トロント」という共同事業体を発足し、プロジェクトには5000万ドルが投資されている。
WIREDの報道によれば、トロントはグーグルアカウントで支配された、完全に“グーグル化”された都市になるだろうといわれている。Wi-Fiキオスクだけでなく多くのセンサーや監視カメラが取り付けられ、さまざまなデータを蓄積し、利活用する。
同社が提案したのは「自動運転車」「ロボット・デリバリーシステム」「低コストのモジュラー式ビルディング」「再生可能エネルギーによる熱を建物同士で融通し合うサーマルグリッド」「ゴミ処理システム」といったもの。これらを利用して多目的都市空間をつくるといわれている。同じくアルファベット傘下のグーグルと、自動運転車を開発するウェイモの両社は重要な役割を果たしそうだ。
都市におけるデータの集積と共有、活用が重要であることは、アメリカのどのスマートシティにおいても重要な要素とされている。都市が市民・観光客の行動を認識・学習し、最適なサポートを提供するだろう。そして、それを助けるコアテクノロジーがAI、人工知能だ。
「交通データプラットフォーム構築」「エコシステム形成」を視野に入れる
次は、同社が取り組んでいるユニークな取り組みを2つ紹介する。1.都市の交通データプラットフォームの構築
2018年3月、サイドウォークラボはサンフランシスコのパーキング情報を詳細に示す「Coord」というツールを公開した。これは交通情報の新しいレイヤーのプラットフォームといわれ、先述の「Flow」の進化版だ。交通情報を集積し、コーディネートする、という意味から名付けられた。
交通の縁石(コンクリートブロック)の情報、駐車場検索、有料道路検索に必要なデータが集積され、APIからそのデータを利用、分析可能だ。縁石情報で、人の乗り降りができる場所が把握できれば、駐車するのが難しいサンフランシスコで、ウーバードライバーとの合流に使えて便利である上、自動運転車の送迎にも使える。なお、このデータは社員が足で現地に赴き、写真を撮りながら集めたデータだという。
また、同社はCoordの機能を切り出して、2018年2月にCoordの名前で会社をスピンアウトさせた。ミッションや役割は大きく変わらない。サイドウォークラボ本体がトロントのプロジェクトで多忙になっていく中、Coordは独立して交通データプラットフォームにフォーカスして意思決定スピードを速めつつ、グーグルらと距離を置いて都市やディベロッパー側に寄り添うスタンスを明確にするとみられる。
5月には早速新しい機能が追加された。リアルタイムで地図上に様々なバイクシェアリングに関するデータが一望できるAPIだ。どこに利用可能なシェアバイクがあって、いくらで借りられるのかなどを比較でき、決済も可能だ。Google MAPの機能にあるライドシェアの料金比較にも似ている。
2.エコシステムの形成
同社は、研究機関でありながら、スタートアップへの投資も行っている。Crunch Baseによると、1つは警察と被害者との円滑なコミュニケーション基盤を提供する企業、もう1つは地域包括ヘルスケアのコミュニティ支援を行っている企業だ。
どちらのスタートアップも、同社のこれまでの取り組みとはまったく異なる業種で、交通以外の市民とのコミュニケーションプラットフォームに関心があるように見える。
また、同社はトロントにおいて、都市のセンシングデータ、交通データをプラットフォームに集め、APIでデータを第三者に開放することで、多くのスタートアップや、グーグル、フェイスブック、ウーバーなどの企業とサービス開発で連携することを考えている。
これは国だけ、民間だけの取り組みではなかなかできなかったことだ。蓄積されたデータがオープンに活用できるのであれば、企業だけでなく、学術研究にも役立つ。すでにトロントにはトロント大学という名門があるが、ほかにも有名大学の招致につながるだろう。
最新の技術を用いてあらゆる市民へのサービスをもスマートに、円滑にする。それがサイドウォークラボの目指すスマートシティの姿と思われる。その中でも、自動運転は大きな変化を与えるもので、同社はそれを意識したプラットフォームを形成している。
また、カナダ政府にとって同社との協力体制は、“スマートシティ”を合言葉に、巨大なスタートアップエコシステムの構築、テックジャイアント企業の誘致を図る試みでもある。11年間にわたる投資の宣言は、このエコシステムを保証し、アメリカがトランプ移民政策で冷える中、世界中から多くのエンジニアを呼び寄せるための大胆な政策ともいるし、出だしは成功しているといっていいだろう。政府視点としても見本になるところは多い。
【次ページ】ウーバーはモビリティ研究所で何をしようとしているのか
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