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  • 2018/08/09 掲載

東大 松尾豊准教授らが「日本企業のAI戦略」を激論 世界と比べて何が足らない?

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ディープラーニングが第3次AIブームを牽引し、機械学習、ディープラーニングといったテクノロジーが実際にサービスに組み込まれる事例も増えてきた。いよいよ「実用段階」にシフトしてきたAIの最新動向や、日本を含むグローバルでの取り組みはどうなっているのか。東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾 豊氏を始め、楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表の森 正弥氏、ABEJA 代表取締役社長 CEO 兼 CTOの岡田 陽介氏らが、今後のビジネス活用のために、日本企業がとるべき「AI戦略」について提言した。
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東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授
松尾 豊氏

米国だけでなくアジアでもAI研究者の「獲得競争」が起きている

 機械学習やディープラーニングがさまざまなビジネス、サービスに組み込まれ、グーグルやフェイスブックといった「テックジャイアント」は数百人規模で優秀な技術者を抱えている。都内で開催された「新経済サミット2018」では、「世界のAI戦略の最新動向と日本の立ち位置」と題したパネルディスカッションが行われた。

 登壇者は東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾 豊氏、楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表の森 正弥氏、ABEJA 代表取締役社長 CEO 兼 CTOの岡田 陽介氏の3人だ。

 モデレーターを務めたのは、日本最大級のクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を手がけるクラウドワークス 代表取締役社長 CEOの吉田 浩一郎氏。最初に吉田氏が示したテーマは「世界のAI戦略」だ。

 アメリカの動向について問われた松尾氏は、「米国ではシリコンバレーのスタートアップにおいて、ディープラーニングを使ったサービスは、特に2015年あたりから、あらゆるビジネス分野で適用が進んでいる」と述べた。ディープラーニングに関する主要な論文は、グーグルやフェイスブック、グーグル傘下で「AlphaGo」でおなじみの英国ディープマインドといった企業から出ていると松尾氏。

 アメリカでは、AI研究開発に関するエコシステムが確立されており、優秀な研究者は、博士号(Ph.D.)を取得したばかりの新卒であっても「年収5000万円くらいもらえるケースもある」という。

 一方、中国をはじめとするアジアの動向について説明したのが森氏だ。森氏は、楽天技術研究所代表として世界4カ国にある研究所を率いている。

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楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表
森 正弥氏

「楽天も、ボストンとシリコンバレーに研究拠点を構えているが技術者の採用は非常に難しく、他社と競争力のあるオファーを出すことが難しい。中国やシンガポールはさらに困難だ」(森氏)

 こうした「人材獲得難」の一因として、森氏はAIに関するオープンな環境を挙げる。「たとえば、ドローンについての飛行規制もなく、中国やシンガポールでは自由な環境で研究が行える。そうしたオープンな環境のおかげで、AIに関する国際論文の数も米国に次いで中国が多い」と森氏は述べる。

 また、2017年11月11日の「独身の日」に、アリババはAI使って広告を自動最適化し、パーソナライズしたバナーを4億枚生成するなど、AI裏打ちされた新しいサービスも増えている。森氏は「イノベーションによる環境変化はこの1年、2年、特に激しくなっていると感じるが、中国やシンガポールは、そうした変化を当たり前のように受け入れている」と話す。

 楽天においても、「一人の研究者が、ある研究テーマを2年くらいかけて行い、流通全体の取扱高を数百億円規模で押し上げた事例がある」そうだが、たとえ人件費で数十億円かかったとしても、研究結果により人件費を上回る利益がもたらされれば投資対効果が成り立つという認識が進んできているようだ。

 岡田氏は、ドイツにおける動向について説明した。ドイツではシーメンス(Siemens)、SAP、ボッシュ(BOSCH)といった企業がIoT戦略に本腰を入れており「日本企業は太刀打ちできないのではないか」と危機感を抱くことがあるという。

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ABEJA 代表取締役社長 CEO 兼 CTO
岡田 陽介氏

「日本企業は、特に大企業において、経営層のテクノロジーの理解が遅れている」と岡田氏。技術を理解、評価し、データを集めて、処理し、知見を得ていくという「当たり前」のことをできていないのが日本の課題だ。

 「インダストリー4.0」により、製造業のデジタル化を推進するドイツでは、プラットフォーム戦略をとっている。これは「たとえば、工場の中の機械の稼働データを一元管理し、プラットフォームとAPIが連携しつつ、パートナー企業がビジネス向けにアプリケーションを開発する」エコシステムの確立を意味する。

少ないデータで深層学習が可能になる「GAN」とは

 パネルディスカッションのテーマは「ここ数年でAI分野で注目される技術」に移る。1つめは、「Generative Adversarial Network」(GAN:敵対的生成ネットワーク)だ。

 ディープラーニングが一躍脚光を浴びたのが2012年。最先端の画像認識技術を競う世界的なコンテストにおいて、それまで「誤認識率は25%あたりが上限」という常識を、カナダのトロント大学ヒントン教授らの研究グループが一気に10%ほど改善し、打ち破った。

 そして、GANはもともと「AIを騙すためのAIの研究から始まった」と森氏。機械学習はコンピューターに正解を与え、学習していく「教師あり学習」が基本だ。コンピューターが学習するためには正解データが必要で、ディープラーニングは学習のために従来より多くのデータが必要というのが課題だった。

 その点、GANは、「種」となるデータを基に、正解データを生成していく。いわば「半教師あり学習」だ。たとえば、100万件の正解データのうち1万件のタグ付け(特徴量の指定を)すれば、後はAIが補正していくという考え方で、少ないデータ量で、精度の高いディープラーニングの分析が可能になるものだ。「たとえば、製造業のラインコントロールなどの分野で、不良品の検知なども少ないデータから正解データを学習することができるため、ディープラーニングの恩恵を受けられる」と森氏は説明する。

 楽天においても、商品画像などの分野でGANの活用が研究されている。「たとえば、データ容量の低い低解像度の画像を高解像度にするときに、どうしても画質が悪くなる。そこでGANが元の低解像度のデータから、高解像度のデータを生成していく」といったユースケースだ。

 また、商品解説文などのテキストも「それぞれのデバイスごとに、ユーザーの好みに応じてパーソナライズされた解説文の生成などが可能になる」と森氏は解説した。

【次ページ】 注目の技術2つ目、「Transfer Learning」(転移学習)とは何か?

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