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2月は宇宙のビッグニュースが相次いだ。JAXAの探査機「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウに着陸成功。同日、スペースXのファルコン9が打ち上げられ、イスラエルの民間団体、SpaceILの月面ランダーが世界初となる「民間発の月面着陸」に向け旅を始めた。
前編で紹介したとおり、「月面探査」は“官民協調”の潮流を生み出し、参画プレイヤーが急増させるなど活発になっている。月面開発に巨額を投じる各国の機関や、Amazon代表のジェフ・ベゾス氏らの動きを紹介する。
“官民協調”の流れとGLXP卒業生の躍動
前編ではピーター・ディアマンディス氏率いるXPRIZE財団による、月面表面への着陸・走行の実現を競う賞金レース“Google Lunar XPRIZE”(GLXP)の発足により、さまざまなスタートアップが創生された点を紹介した。
これらの民間企業の“Back to the Moon”(より良い人類社会のために月に還る)の流れをいち早く捉えたのが、米NASAである。「民間発」で生まれた月面探査の勢いは、いま「官民協調」という新たな局面を迎えている。
SpaceXを育てたと評価される商業輸送サービスプログラム“COTS”以降、NASAは高度400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)への物資や宇宙飛行士の輸送について、民間サービス利用を推進してきた。
この民間サービス利用の概念を、38万km先の月面探査にまで広げたのが、2018年11月30日に詳細が発表されたNASAの新プログラム 「商業月ペイロードサービス」(Commercial Lunar Payload Services:CLPS)である。
これは、2019年からの10年間、最大26億ドル(約3100億円)の契約金額を拠出し、民間企業の技術・サービスを使った月面探査を行う事業で、9つの米国の企業・研究機関が採択されている。“GLXP卒業生”であるAstroboticとMoon Expressもここに含まれている。
CLPSにはサブコントラクター(二次請け事業者)の形で米国以外の企業も参画している。9つの採択機関のひとつ、米ドレイパー研究所は日本の“GLXP卒業生”ispaceらとの提携を発表、これにより、日本の民間企業がNASAの月面開発に参画することとなった。
米国政府の月面探査の動きはこれに止まらない。NASAは現在、月の周回軌道を回る宇宙ステーション「LOP-G(月軌道プラットフォームゲートウェイ)」開発を進めている。
宇宙飛行士が4人滞在可能なサイズの施設で、ここを発着拠点とした月面への着陸や物資輸送などの展開が期待される宇宙ステーションである。
2022年には最初のモジュール打ち上げが予定され、2026年までの完成を目指す。米国は各国に開発への参加を呼びかけており、ISSのような国際共同開発・運用の施設になるかが注目されている。
米国はさらに、今年2月14日NASAブランデンスタイン長官が、民間企業とのパートナーシップによって有人月面着陸船(ランダー)を開発することを発表した。この有人ランダーによって、2028年までに月面に米国宇宙飛行士を送り、かつそこに人類が滞在するためのインフラを構築していくという。人類が月面に建設物を作るのは、世界初のことだ。
LOP-Gはその計画のための文字通りゲートウェイ(入り口)として利用される予定である。GLXPから始まった“Back to the Moon”の機運が、50年前からの停滞を打破し、人を送るだけではなく「滞在」という前進につながったのだ。
50年前と決定的に異なるのは、当時のNASA主導と異なり、民間企業が主体的にコミットすること。月面インフラとなれば、従来の宇宙企業以外の異業種の参画も期待される。
民間のムーブメントが政府を動かし、さらに異業種をも巻き込んで行く。まさに各業界でも見られる現代ビジネスらしい流れが、月面開発でも起きつつある。
“官民協調”は日本や欧州でも
「官民協調」という潮流は日本も同様だ。
日本政府は、2018年3月に第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)のホスト国として、国際的な宇宙探査の機運を盛り上げる役を担った。
そして、2018年12月の宇宙開発戦略本部において、安倍晋三首相がLOP-Gへの積極的な貢献と関係諸国との調整推進を指示している。
このような流れから、前澤氏の話題のみならずさまざまな形で月関連ニュースが日本国内でも広まることが予想される。
他方、欧州勢も急ピッチで動き始めた。2019年1月、ESA(欧州宇宙機関)は2025年までに月面に着陸、水や酸素といった資源探査を行うミッションを発表した。
その契約企業として採択されたのが、輸送業界大手ArianeGroupだ。同社は、欧州企業によるコンソーシアム体制を構築、そこに参画しているのが“GLXP卒業生”PTScientistsと宇宙関連通信企業Space Applications Services(スペースアプリケーションズサービシズ)(ベルギー)だ。
2019年初頭に相次いだ月面開発計画発表。欧米が月面開発を舞台にこれから競争していく格好だ。そこには多くの民間企業が関わるが、GLXP卒業生たちが存在感を放っている。GLXPの遺産は、官民協調の流れの中で確実に輝いていると言える。
“民間発”月面探査を受け継ぎ加速するBlue Originの動き
「民間発の月面探査」を受け継ぐのは、“GLXP卒業生”ばかりではない。Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏率いるBlue Originは、月面開発の壮大な構想を描いている。
Blue Originは米国企業であるが、同社の取り組みは欧州との関係の色合いが濃いものとなっている。
同社は2017年10月に月面への物資輸送を行う自社製造のランダー(着陸船)Blue Moon(ブルー・ムーン)の開発を発表、2023年までの輸送開始を目標としている。
続く2018年にはベゾス氏が月植民計画の構想を公表した。ベゾス氏によれば、月面は宇宙エネルギーを活用した製造業や重工業の一大拠点となるポテンシャルがあり、人類の新たな活動拠点となり得る。
このアイデアは、現ESAのヴァーナー長官が提唱するMoon Village構想と通ずるものがある。Moon Villageとは、有人の居住、滞在、経済活動の拠点を月面に作り、月を人類の活動圏としていこうとする概念である。
この概念について議論し機運を高めるための国際的な民間コミュニティ団体としてMoon Village Association(MVA)が2017年に発足。
ここでも民間発の月面探査及び開発のあり方についての活発な議論が交わされている(なおMVAの年次会合は2019年に東京で開催されることが決定している)。
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