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2017年08月24日

アストロスケールは、スペースデブリ除去事業で宇宙版「共有地の悲劇」に挑む

堀江貴文氏率いるインターステラテクノロジズが民間単独でのロケット打ち上げに挑むなど、宇宙事業が脚光を浴びている。今や、放送・通信・気象予報など、人工衛星無しには運営できないビジネスも少なくない。しかし、野放図な国際開発競争によって、制御不能になった人工衛星やその大量の断片・破片などが宇宙空間に漂う「宇宙ゴミ」(スペースデブリ)が爆発的に増加し、他の人工衛星や宇宙ステーションに衝突し、破壊してしまうリスクが高まっている。この壮大な社会問題に、営利を伴うビジネスモデルを使って取り組むベンチャー企業がアストロスケールだ。東京とシンガポールを拠点にする同社は、スペースデブリを処分する技術を開発し、大型の資金調達にも成功した。

執筆:佐藤 隆之

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スペースデブリ除去は本当にビジネスになるのだろうか

(© Vadimsadovski – Fotolia)



秒速7キロメートル、時速2万5000キロ以上のごみが宇宙を飛び交う

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 人工衛星は既に現代社会の重要なインフラとなっている。携帯電話、テレビの衛星放送、スマートフォンのGPS機能、カーナビ、飛行機や船舶へ提供する正確な天気予報など、人工衛星がなければ現在のサービスは維持できなくなるだろう。その人工衛星の運用を妨げる大きな問題として「宇宙ゴミ」(スペースデブリ)の存在が指摘されている。

 想像してみてほしい。もし高速道路が障害物で溢れかえっていたら、自動車の運転は難しく、物流も滞るだろう。宇宙空間は早くも、そのような状態に陥っている。1957年に人類初の人工衛星スプートニクが打ち上げられて以降、宇宙空間を保全するルールがほとんどないまま、開発競争が行われてきたのだ。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)の調べでは、10センチ以上のスペースデブリは2万個、1センチ以上のものは50万から70万個が確認されている。秒速7キロメートル、時速にして2万5000キロ以上のとてつもない速度で飛来するスペースデブリは、人工衛星や宇宙ステーションに衝突し、大きな被害を生んでいる。

 スペースデブリと人工衛星、あるいは、スペースデブリ同士がぶつかり合うと、ゴミの数は急速に増加してしまう。スペースデブリの密度がある一定の値を超えた場合、今後人工衛星を打ち上げなかったとしても、ゴミが自己増殖的に爆発的な増加を始めてしまうという「ケスラー・シンドローム」という仮説も提唱されている。

 このスペースデブリの除去という全世界的な問題に取り組むのが、ベンチャー企業アストロスケールだ。東京とシンガポールに拠点を持つ同社は、小型衛星ELSAでスペースデブリを捉えて軌道を変え、地球の大気圏まで高度を下げて燃えさせる仕組みを開発した。2017年7月には約28億円、累計で60億円の資金調達に成功している。

 スペースデブリの除去には確立された手法がない。網のようなもので捕獲する方法や、ロボット・アームと呼ばれる腕状の機械を使う方法、電磁気の力を使って非接触的にスペースデブリを破壊する方法などが提案されてきた。 JAXAが打ち上げた宇宙ステーション補給機「こうのとり」では、伸ばした長いワイヤーに電流を流し、スペースデブリの軌道を変えて大気圏に落とす実証実験を行っている。

 アストロスケールでは、世界中から高度な知識を持った人材を集めると共に、日本国内の高い技術を持った中小企業を探し回り、独自の製品開発を推進している。たとえば、由紀精密は、従業員30人ほどの小さな町工場であるが、アストロスケールと資本提携を結び、小型人工衛星の共同開発を行ってきた。

ハーバード・ビジネススクールも注目の事業

 アストロスケールが挑む世界初の事業は、国際的にも注目を浴び、ハーバード・ビジネススクールの授業にも取り上げられたという。特に、同大学が注目したのは、スペースデブリの状況が「共有地の悲劇」という典型的な社会問題の構造をはらんでいるからだ。

 共有地の悲劇とは、誰でも利用可能な共有資源が、自己中心的な利用者によって過剰に利用され、その資源の枯渇を招いてしまう状態を指す。海洋汚染、大気汚染、魚の乱獲、森林伐採、違法駐車など、さまざまな社会問題が例として挙げられるだろう。

 共有地の悲劇を回避するためには、行政や利用者自身がルールを設定し、共有資源を守る取り組みを定める必要がある。たとえば環境問題の場合、大気汚染防止法による規制や、二酸化炭素の排出権取引のような市場原理の導入といった方法が用いられてきた。

 しかし、スペースデブリの場合、現在のところ、各国がバラバラに開発競争を行っている状態であり、規制を行う機関は存在しない。また、宇宙事業は軍事利用などが関わるため、これからも強制力の強い国際ルールが成立する可能性も低い。さらに、スペースXやOneWebといった民間企業が宇宙事業に参入し、業界の構造は複雑さを増している。

スペースデブリ除去事業に収益性はあるのか

 そこでアストロスケールは、営利企業としてスペースデブリに取り組むビジョンを示している。自立した事業として運営できれば、国際機関や政府の援助に頼らず社会問題の解決に取り組めるからだ。大型の資金調達に成功したのも、同社のビジネスモデルに十分な収益性が見込めると投資家が判断したからではないだろうか。

 アストロスケールは人工衛星のメンテナンスサービスによる収益確保を目指している。スペースデブリ除去を行うために開発した技術を応用し、他の人工衛星の写真を撮って状態を確認したり、検査・修理を行ったりするサービスだ。軌道から外れてしまった人工衛星の軌道を修正することもできるという。また、スペースデブリの位置や密度を測定し、スペースデブリとの衝突を回避したい衛星事業者にデータを販売する計画もあるという。2018年から2019年に人工衛星を打ち上げ、2020年までの事業化を目指す。

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(クリックで拡大)

アストロスケールがスペースデブリ除去を実現するスキーム

(筆者作成)


 地球温暖化が多くの人に知られ、日々の生活でも意識されるようになったのに倣い、アストロスケールも人々からの認知を得るための活動を行っている。2015年には大塚製薬などと協力し、スポーツ飲料ポカリスエットの粉末と子どもたちが描いた未来へのメッセージを同封したものを月に届けるプロジェクトを実施した。このプロジェクトは内閣総理大臣賞を得るなど注目を浴び、アストロスケールのブランド認知向上に役立っている。

【次ページ】スペースX、インターステラテクノロジズらとどう渡り合っていくのか

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