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  • 2019/08/05 掲載

大ヒット商品が首を絞める? 帝国DB“50年超”の取材でわかった「倒産の前兆」

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120年にも及ぶ歴史を持ち、日本最大級の企業情報データベースを持つ信用調査会社として知られる帝国データバンク。その中で、50年以上企業倒産の現場を分析し続け、「成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」と述べる同社の情報部は、導き出した失敗の公式を記した『倒産の前兆』を8月6日に刊行する。今回、本書を執筆した情報部の2人に、書籍に載せられなかった企業なども含め、倒産事例から得られる「企業存続のための教訓」を聞いた。

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:阿部欽一

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:阿部欽一

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倒産取材の最前線に立つ帝国データバンク情報部に聞く、「倒産の前兆」

「成功」ではなく「失敗」にフォーカスした理由

──帝国データバンクでは、企業の倒産とどのように向かい合ってきたのでしょうか。

丸山氏:信用調査会社として100年以上の歴史を持つ弊社ですが、情報部門が倒産企業の取材を始めたのは55年ほど前の1964年(昭和39年)からです。当時は倒産というネガティブな取材を始めることに、相当な逡巡があったようです。

遠峰氏:ただ、当時の大蔵省銀行局から「統計情報として、倒産の件数を集計して発表してほしい」という依頼があったこともあり、そこから情報部としての活動がスタートしました。現在、情報部門としては全国で約70名の情報記者が、全国の倒産の現場を追いかけています。

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帝国データバンク
東京支社 情報部 情報取材編集課 課長
丸山 昌吾氏
警察官としての勤務を経て、93年に入社。横浜支店調査部に配属となり、約11年間にわたってさまざまな業界の企業に対する信用調査を実施。06年から横浜支店情報部に転じ、リーマンショック後の倒産多発時には数々の破綻企業の取材を行ってきた。13年から現職

──倒産は成功事例ではなく、失敗事例です。なぜ本書では「失敗」のほうを取り上げたのでしょうか。

遠峰氏:弊社が保有するCOSMOS2企業概要ファイルに収録されている約147万社のデータベースの中にも、今後、絶対倒産しないと言いきれる会社はありません。

 だとするなら、倒産してしまう会社とそうでない会社を分けるポイントは何か。我々情報部が倒産事例を取材する中で見てきた背景や、倒産に至った経緯などが、経営者にとって1つの参考になればという思いがありました。

 成功事例は耳ざわりは良いのですが、偶然や超優秀な人材などに左右され、あまり再現性が高くありません。しかし、失敗事例は再現性が高く、一般化できる法則も見い出しやすいのです。

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帝国データバンク
データソリューション企画部 情報統括課 課長
遠峰 英利氏
90年に入社後、93年、経理部から産業調査部へ異動。マーケティングサービス「ATTACK」業務に従事し、主に「倒産確率算出用マトリクスデータ」、「倒産予測値」を担当する。仙台支店の情報部長、横浜支店の情報部長などを務めた後、18年から現職。全社情報部門の統括業務に従事する

丸山氏:また、企業で働く人にとっても、実は自分の会社がどういう会社かというのが分かっていないケースというのが、特に中小企業では多いのではないかと思います。

 たとえば、数字では測れない会社の定性的な部分で、倒産に至る会社に共通するポイントがないか、自分の会社に置き換えたときに、「ウチの会社、大丈夫かな」という参考になればと思ったことも、本書を書こうと思ったきっかけの1つです。

──『倒産の予兆』では、派手な大手企業の倒産劇ではなく、中小企業にフォーカスしています。“普通の会社”から失敗を学ぶ意味はどこにありますか?

丸山氏:企業数で見ると、日本では中小企業が99%を占めます。そのため、一般的な考え方としては、大企業の事例というのはあまり参考になりません。

 たとえば、東芝のような大企業で起こった不適切会計問題は、倒産していてもおかしくない事例でした。しかし、従業員や取引先、その家族など、及ぼす影響が大きすぎるがゆえに、さまざまな形で支援も入るわけです。

 ですから、大企業は1つの事例としてはあっても、やはり自社の参考になる情報というと疑問符が付きます。中小企業にクローズアップしたほうが、多くの方に参考になると考えています。

「大ヒット商品がほころびを生む」という皮肉

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『倒産の前兆』
(画像をクリックすると商品ページへ)
「あの時」気づいていれば……第一線の企業信用調査会社、帝国データバンクが見た、どこにでもある「普通の会社」の末路
──倒産する企業の法則の1つとして、「大ヒット商品がほころびを生む」という事象を挙げられていますね。企業はヒット商品を作りたいと思って努力しているのに、それがほころびを生むというのは皮肉ですが……。

丸山氏:企業にヒット商品が生まれると、売上が急激に伸びるわけです。一方で、世の中の需要というのはいつまでも続くものではない。さらには競合商品も当然出てきます。

 1つの看板商品ができたときに、その売上はいつまでも伸び続けるわけではありません。そこで、海外市場に目を向けるとか、代わりのヒット商品を作っていくということをせず、1つのヒット商品にあぐらをかいてしまうと、結局ほころびにつながっていくということですね。

──なるほど。ヒット商品が生まれると投資が過大になるという話もありますが、そのあたりについてはいかがですか?

丸山氏:やはり、受注が増えるとそれに応じて生産設備の増強に投資するわけです。ただ、その先に売上が減るということは、投資の段階ではあまり考えなかった。借金して工場を作ってみたものの、結局、売上が減ってしまい、工場稼働率が下がって利益も減ってしまうケースが起こり得るわけです。

──本書では大ヒット商品が首を絞めた事例として「ノンシリコンシャンプー」ブームの火付け役と言われるジャパンゲートウェイの事例が紹介されていますね。

【次ページ】「1.5秒に1本売れる」大ヒット商品が首を絞めた理由

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