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- 2019/07/09 掲載
日本の第4次産業革命のカギは中小企業である理由、その支援の実態は?
連載:第4次産業革命のビジネス実務論
日本経済の基盤、中小企業が今直面している課題
以下のグラフは、日本における大企業と中小企業の企業数・従業員数の割合を示すものです。このグラフが示すとおり日本経済の基盤である中小企業ですが、現在、設備の老朽化や事業継承問題に加えて、人材不足の課題に直面しています。
IoTやAIなどのデジタル技術の活用において、中小企業には大企業と異なりIT技術者などが少なく、社内のリソースだけではデジタル化の対応が難しいという課題もあります。
ドイツの中小企業は“隠れたチャンピオン”
ここで、インダストリー4.0発祥のドイツに目を移しましょう。ドイツでは日本と同様そのGDPの8割は製造業から稼ぎ出されます。古くから「マイスター」と呼ばれる高い技能を持った職人がいて、高い技術力を基に製品を作り、ドイツ経済を支えてきました。ドイツの民間部門の全雇用者数の70%は中小企業に属します。同国の中小企業は、大企業をしのぐペースで成長し、欧州の他国と比べて、収益力および雇用者数の双方で大きく伸びていました。企業規模は小さくとも世界的なシェアが高い中小企業は「ミッテルシュタント」と呼ばれ“隠れたチャンピオン(Hidden Champion)”として注目を浴びています。
このような中小企業の製造現場の従業員のほとんどが製造技術者であり、IT技術者は少ないといわれています。また、大手企業に比べると資本力が乏しく、インダストリー4.0のスマートファクトリー化を進めるソフトウェアの開発を行う資本力を持ちません。
ドイツが政府主導でものづくり関連の主要な業界団体を巻き込んでインダストリー4.0を進めるのは,自社でソフトウェアを開発する力のないミッテルシュタントが、このテクノロジーの恩恵を受けられるようにするという側面を持ちます。
その背景には、ミッテルシュタントがスマートファクトリー化で後れを取った場合、ドイツ経済の重要なプレーヤーが弱体化する恐れがあることにあると思われます。
また、日本の中小企業が抱えている問題の1つに事業継承の問題があります。創業者が高齢化し、後継者が見つからないため、利益が出ている企業でも廃業してしまうケースが多く見られるようになってきました。この点、ドイツでは、企業を所有したまま、優秀な経営者を高給で雇って会社を存続させるケースも多く見られます。これが実現できている背景には、日本よりドイツの方が所有と経営が分離しているということがあるのではないでしょうか。今後の企業経営に重要となるのは、IoTやAIなどのデジタルの力によってビジネスプロセスが引き継げるようになっていることだと考えます。
日本の第4次産業革命を推進するコンソーシアム団体
日本もドイツに倣い、同様の動きを進めてきました。2015年5月に経済産業省がロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)を、2015年10月に総務省と経済産業省がIoT推進コンソーシアム (ITAC)を設立し、産官学を挙げ、産業界のIoT活用支援の推進を開始しました。
一方、このコラムでも何度か取り上げているインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は、民間主導で2015年6月から活動を開始し、日本の現場力を生かした「ゆるやかな標準」による、つながる工場の実現に向けた取り組みを推進してきました。
ただ、こういった日本のコンソーシアム団体の参加企業割合を見ると、大企業が過半数を占めています。たとえばIVIでは、中小企業の割合は4割程度です。これは、国内に存在する実際の中小企業の割合を大きく下回っています。
正会員:大企業89社、中小71社
サポート会員:大企業31社、中小46社
賛助会員:16団体
学術会員:22名
実装会員:5社
合計280社/団体(学術会員含む)
ほとんどのコンソーシアム団体の活動は、必ずしも多くの中小企業に周知されていないのが実情といえるのではないでしょうか。コンソーシアム団体の活動は首都圏に集中しているため、比率が特に高い地方圏の中小企業が参加しにくいという理由もあると考えられます。
【次ページ】日本のコンソーシアム団体における中小企業対応、それでも実証実験にいたらなかった理由は?
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