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  • 2019/11/07 掲載

「健康になる家」ってどんな家? 積水ハウスらが狙う“医工連携”の商機

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医学と工学にまたがる産学連携を指す「医工連携」は、日本政府も補助金をつけて盛んに支援する分野である。対象には医療機器のほか非医療機器もあり、住宅などの建築も含まれる。2019年10月、大手住宅メーカーの積水ハウスはマサチューセッツ工科大学との提携を発表した。人口の高齢化に伴い、医工連携によるイノベーションを生み出そうという考えだ。しかし、医工連携によって医学的な効果が実証された住宅をすでに販売し、先行している住宅メーカーが群馬県にある。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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人生100年時代。長い老後を健康に暮らしていくための「住宅」の重要性は、さらに高まっていくだろう
(Photo/Getty Images)

「医工連携」は幅広い分野で成長中

 「医工連携」とは、「医学」と「工学」の境界領域で両分野が連携し、産学連携によって新しい技術を開発したり、新しい事業をつくり出すことだ。

 ICT、AI、ロボット、ナノテクノロジー、新素材のような先端技術によって医療機器を開発することと狭くとらえられている傾向があるが、技術開発の対象は病院にある検査機器や治療機器、手術器具、人工臓器などにとどまらない。

 健康を守ったり、病気の予防に役立ったり、病気や障害を持つ人の社会参加を助けるような製品をつくり出すような「非医療分野」もある。

 たとえば、音響機器メーカーのサウンドファンは、千葉大学フロンティア医工学センター、東京大学生産技術研究所との「音のバリアフリー」を目指した共同研究により、加齢性難聴の人にも音が聞こえやすい「ミライスピーカー」のシステムを開発し、すでに発売している。医療機器ではなくても、医工連携の成果が社会に貢献している好例と言えるだろう。

 経済産業省と国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)は、2010年度から「医工連携事業化推進事業(医工連携事業/MEDIC)」を実施し続けている。

 採択した医工連携事業にはAMEDを通じて年間上限8,000万円、最長3年間の補助金を支給している。2018年度までにのべ176件の事業が採択された。令和元年度(2019年度)の当初予算額は27.3億円となっている。

 10年目となる2019年9月発表の「医工連携事業化推進事業の成果」によると、2018年度の採択事業の上市製品国内外売上高は24.46億円で、前年度比で79%伸びた。2013年度以前の4.68億円と比べれば5.2倍で、ほぼ右肩上がりで順調に伸びている。

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医工連携事業の売上高の推移
(出典:経済産業省、日本医療研究開発機構「医工連携事業化推進事業の成果」(令和元年9月版))

 採択事業の上市製品の内訳は「医療機器」が国内45、海外12で57製品。「非医療機器」が国内20、海外2で22製品。非医療機器は全体79製品の27.8%と3分の1以上を占めている。

 難聴の人のために作られたスピーカーのように、「医工連携事業(MEDIC)」の採択事業にとどまらず医工連携はさまざまな分野で行われている。医学と連携する工学には建築工学も当然含まれる。

「医」と「住」。人のために在る分野同士の連携

 人の暮らしに最も密接に関わっている建築物は、言うまでもなく「住宅」である。そのため、建築分野での医工連携は住宅が中心となっている。

 マーケットの大きさという点でも、国内の新設住宅着工戸数が94万2370戸(2018年)もある住宅分野は、病院や高齢者施設などよりもはるかに大きな市場規模を有している。

 その住宅に住んで暮らす人は、高齢化が進む一方である。

 内閣府の「令和元年版高齢社会白書」によると、2018年10月1日現在の65歳以上の高齢者は3558万人で、その総人口に対する比率(高齢化率)は28.1%だった。しかし、2040年には高齢者人口は10.1%増の3920万人に伸び、高齢化率は35.3%になると予測されている。

 高齢者人口は2040~2045年の間にピークをつけて減少に転じるが、日本の総人口が1億人を切ってそれ以上のペースで減少していくため、高齢化率はさらに上がって2065年には38.4%に達すると見込まれている。

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日本の人口高齢化の将来推計
(出典:内閣府「令和元年版高齢社会白書」)

 高齢者が「人口の3人に1人」の割合を超え、社会の高齢化がさらに進むと、治療でも予防でも「医」のニーズは高まる。人口の高齢化が、住宅分野の医工連携にとっての追い風になることは、まず確実だ。


人生100年時代、100年長持ちする家で元気に長生きしたい

 「人生100年時代」と盛んに言われるように、医学の進歩などで平均寿命はさらに延びていく。

 「令和元年版高齢社会白書」によると、2017年に男性81.09歳、女性87.26歳だった平均寿命(0歳の平均余命)は、48年後の2065年には男性84.95歳、女性91.35歳に延びると予測されている。

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日本の平均寿命の将来推計
(出典:内閣府「令和元年版高齢社会白書」)

 おそらく2065年頃には、特に女性は100歳を超える人が相当増加し、「敬老の日」の長寿記念品が予算オーバーになる自治体が続出するかもしれない。

 それこそがまさに「人生100年時代」で、「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)」を延ばし、長い老後を健康に暮らしていくための「住」の重要性は、さらに高まっていくだろう。

 モデルケースを挙げれば、2010年に1980年生まれの男性と1985年生まれの女性が結婚し、10年後に2020年に一戸建ての住宅を建てたとすると、2065年には男性はほぼ平均寿命の85歳に達し、女性は80歳。住み替えていなければ夫婦はその時点で同じ住宅に45年間、住んでいることになる。

 さらに、女性が2065年の平均寿命91歳まで生きるとすると、同じ住宅にさらに11年間、トータル56年間も住む。

 人生100年時代の老後はかくも長く同じ住宅に住み続けることになる。だからこそ健康寿命を延ばして元気に過ごしたければ、健康へのリスクができるだけ小さい住宅に住みたいと思うだろう。

 人生100年時代は、100年長持ちする家で、元気に長生きしたい。

 そんなニーズに医工連携による住宅のイノベーションで応えられたら、長い老後のことを考えてそれを建てて住みたいと思う人も増えるだろう。そこに住宅業界にとってビジネスチャンスがあるのだ。

【次ページ】積水ハウスが医工連携に参戦。すでに医工連携から生まれた住宅を販売するハラサワホームとは?

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