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  • 2020/02/26 掲載

マーケ人材育成を放棄した日本企業の末路、マーケは営業になぜ嫌われるのか

連載:庭山一郎のBtoBマーケティング塾

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昨今の上場企業の中期経営計画に含まれる言葉に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「モノ売りからコト売りへの転換」が挙げられる。特に後者については、経営者が無責任に言いがちだ。BtoBマーケティングに30年以上携わってきた、シンフォニーマーケティングの代表取締役の庭山一郎氏は「モノ売りからコト売りへの転換を実現するためには3~5年の準備期間が必要」と指摘する。その真意とは? さらに、なぜ日本ではBtoBマーケティングに関する人材が育たないのか。庭山氏が解説する。

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎

1962年生まれ。中央大学法学部卒。1990年9月にシンフォニーマーケティングを設立。CRM、SFAなどの導入計画、ECサイトの構築など約300社のマーケティングプロジェクトに参画。1996年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。各産業の大手企業を中心にサービスを提供している。米国DMA(ダイレクトマーケティング協会)会員。著書やマーケティングメディアへの連載、各種セミナーの講師などで実践に基づいた考え方を発信している。主な著書に『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)、『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)など。

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日本企業はマーケティング人材の育成を怠ってきたのかもしれない
(Photo/Getty Images)


「モノ売りからコト売りへ転換せよ」という無責任な発言

 日本企業、特に上場企業の中期経営計画を見ると、社内の誰もよく分からないというワードが2つ入っていることがあります。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「モノ売りからコト売りへの転換」です。しかし、実際には多くの企業でその実態が分からずに現場は右往左往しているのではないでしょうか。

 日本企業の経営者が必要な準備もせずに(安易に)「モノ売りからコト売りへ転換しろ」というのは、極めて無責任だと思っています。なぜなら、多くのBtoBのビジネスにおいてコト売りに転換しようと考えた場合、その商談が発生する1~3年前に顧客と接触している必要があるからです。つまりモノ売りからコト売りへの転換は、営業手法でもマインドでもなく、本質的には時間軸の話しなのです。

 BtoBの購買プロセスを考えてみましょう。まず、企業に何かしらの課題が発生します。「これは何とかしないとまずい」「将来すごく大きなリスクになりそうだ」など、この課題を解決しないと競合に勝てないという状況が生まれます。課題の解決方法にはさまざまなパターンがあるので、どのやり方でこの課題を解決しようかと検討します。

 「今回はこの方法で課題を解決しよう」と決定したら、その方法で具体的な設計を行います。その設計の過程で必要な機材とかコンピューターシステム、ツール、工作機械といったものが決まり、これらのソリューションを提供できそうな会社がリストアップされて、オリエンテーションに呼ばれます。

 オリエンテーションでは「RFP(Request For Proposal)」と呼ばれるシートをベンダー側がもらって、1週間後に提案をする、見積もりを出すということを踏まえて1社が決まります。決まったら、もしその会社が当初のRFPどおりのスペックで納品され、そのシステムもしくは機械がきちんと稼働されるとようやく導入に至るというプロセスです。

 お客さまの奥深くで発芽した課題やお困りごとについて、競合他社が気付いていないタイミングで見つけ出し、一緒にその解決を目指すというアプローチをしない限り、コト売りには転換できないのです。つまり、課題を見付ける仕組みがなければ、コト売りへの転換は不可能ですが、そうした仕組みをどの企業も持っていないのが現状です。

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BtoB企業の購買プロセスとモノ売りとコト売りで必要な営業活動の時間軸の違い

売れない営業担当者がマーケに配属されることの悲劇

 今から5年、10年前にマーケティング部門を立ち上げた企業は、キャリア半ばという立ち位置です。また、人選についても課題があります。もしかしたら、高学歴で留学経験があって、英語は得意だけど全然売れない営業担当者が自社にもいるかもしれませんね。そういう人材の適正を見ずにマーケティングに配属してしまうと、本人にとっても会社にとっても悲劇が起こることが本当に多いのです。

 ご存じのように、欧米のマーケティング担当者はプロフェッショナルばかりです。彼ら彼女らは、基本的には転職でキャリアアップをしていきます。だから自分のキャリアのためにみんな必死なんです。その違いはかなり大きいですね。

「MAツールベンダーに騙された」という言い掛かりはナンセンス

 特に私がすごく危機感を持っているのは、日本ではマーケティング活動に必要な戦略や組織もなく、最初に道具(ツール)が先行してしまった点です。使いこなせないのに導入してしまったことで、「何に使うんだっけ」という状態になり、そのうちまったく使われずに解約されることが日本企業では非常によく起きています。これも実はマーケティングの貧困が原因だと考えています。

 MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援)、CRM(顧客管理)、CMS(コンテンツ管理)などのツールは、比較的手に入りやすくなりました。しかし、これらのツールは単純にプロフェッショナルのための道具ですから、マーケティングのナレッジがない会社が購入した場合、マイナスはあってもプラスはないんですね。

 とはいえ、「MAのベンダーからはもっと簡単に使えると聞いていたのに、実際は違った」と言われることもありますが、それは操作が簡単ということであり、実際のマーケティング活動に活用することとはまったく別の問題なのです。だからツールのせいにしてはいけません。

導入コンサルで失敗する理由 営業とマーケの深い溝

 日本における導入コンサルのほとんどは「インプリメンテーション(Implementation:実装)」と操作にとどまっています。日本では今、データマネジメントや統計分析のノウハウが少なく、チープなデータを基にマーケティングすることでノイズが飛び交っており、これも大きな問題だと思います

 たとえば、製品情報やバージョンアップ情報、イベント出店情報、セミナー案内など、お客さまにとって必要のない情報ばかり一方的に出していれば、これらはノイズになります。

 多くの企業担当者が知りたいことは「自分の会社はこういうことで困っているが、他社はどうしているんだ」ということです。そういう情報がなかったり、この会社を活用して競争に勝ったのはどんな事例かなどを出してあげたりすることがまだまだ不足しているのです。

 せっかくマーケティング活動にトライしてはみたものの、資金は投入したし、MAツールも導入した、ターゲティングされたメルマガを出しているとアピールしても、ノイズをまき散らしたら、もちろん嫌われてしまいます。

 自社の営業部門から「結果的に売り上げに貢献できていない。頼むから止めてくれ」と言われることもあり、営業部門とマーケティング部門との溝がますます広がることにつながっています。

 今、日本では「インサイドセールス」がブームになっています。しかし、問い合わせやお客さまのアクションに対して、いきなり電話してしまうことが多いのではないでしょうか。実はこれもすごく良くなくて、特に営業部門から評判が悪いのです。お客さまに怒られるのは営業ですからね。訪問に行ったら「お前の会社、しつこいね」と絶対言われます。

 「資料をダウンロードしたら、ひっきりなしに電話かかってくる。悪いけど、止めてくれないかな」と言われるのは営業担当者です。なぜ、こんなことが起きるかというと、マーケティングの基本設計やナレッジがないからです。それがない会社がいきなり呼応する仕組みを作ってしまうと、そういう害の方が先に出ますね。

【次ページ】MAツールの主な用途がメール配信という現実

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