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  • 2020/05/29 掲載

ベトナムが日本の重要パートナーとなりうるワケ、チャイナ・プラスワンで増す存在感

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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ベトナムは国民の平均年齢が31歳と若く、労働人口も多いことから、経済成長が期待されている国の1つです。安価で豊富な労働力を背景に、輸出志向型製造業の生産拠点として外資企業の進出が活発で、今後は消費市場としても大いに期待されているほか、「チャイナ・プラスワン」の担い手としても期待されています。一方で、ベトナムは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中の後発国とされ、第4次産業革命に伴って甚大な影響を受けることが予想されます。今回はこのベトナムの経済発展と第4次産業革命の取り組み、日本との連携の動きについて取り上げます。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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激動の年を迎えるベトナムの現状を伝える
(Photo/Getty Images)



ベトナムは2020年、ASEAN議長国の大任を預かる

 2020年は、ベトナムにとって非常に重要な年です。1995年に東南アジア諸国連合(ASEAN)7番目の加盟国となってから四半世紀となる節目の年であり、10年ぶり2度目のASEAN議長国を務めることになっています。前回議長国を務めた2010年、ベトナムは多大な成果を残しました。東アジア首脳会議への米国とロシアの正式参加を決定し現在の18カ国体制を確立したほか、日本などASEAN域外8カ国を招いて初のASEAN拡大国防相会議も主催したのです。

 2020年のASEANにおいて注目すべきは、同連合が提案・推進している東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉です。RCEPは日本を含む6カ国を含めた計16カ国でのFTAを進める構想で、今年こそ合意が必達とされています。

 なお、ベトナムは、2020年4月8~9日にダナンで開く予定だった首脳会議を6月末へ延期すると各国に通知しました。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延を踏まえた異例の対応です。COVID-19の影響で今回の議長国の務めはより一層重いものになり、自国の産業発展にも大きな影響を受けることが予想されます。

ベトナムの経済成長の背景には「ドイモイ政策」

 2019年12月、ベトナム統計総局は2019年の実質GDP成長率を前年比7.0%と発表しました。過去10年間で最も高い成長率を記録した前年の7.1%に続き、7%台の高成長を維持しており、政府の目標値6.6~6.8%を上回っています。ベトナム税関総局の発表によると、2019年のベトナムの輸出額は約2,642億ドル(前年比8.4%増)、輸入額は約2,531億ドル(6.8%増)。そして貿易収支は約111億ドルと、4年連続の黒字になるとともに過去最高の黒字幅を記録しています。また、2018年の海外直接投資(FDI : Foreign Direct Investment)は前年比9.1%増の191億ドルであり、6年連続で過去最高額を更新しました。

 近年のベトナム経済成長の発端となったのは、1980年代から始まった「ドイモイ政策」です。「ドイモイ」とは、直訳すれば「新しい物に換える」という意味で、日本語では「刷新」と訳されています。

 1986年のベトナム共産党第6回党大会で、当時の支援国だったソ連・東欧諸国からの援助額の削減や国際連合からの制裁を背景に、主に経済・社会思想面においてそれまでの社会主義から新方向への転換を目指すスローガンとして制定されました。具体的政策としては、企業の自主的裁量権の拡大、農家請負制の導入、海外資本の投資受け入れなどの経済開放政策のほか、政治面では共産党内民主化の推進、外交面では全方位外交政策などがとられるようになりました。

 1990年代後半のアジア通貨危機の際は通貨の流出制限で直接的な被害を回避し、2009年のリーマンショックによる世界的な不況でもその被害は最小限にとどまっています。ベトナムでは現在でもドイモイ政策が継続されています。

TPPと「チャイナ・プラスワン」の恩恵を受けるベトナム

 2019年度の国際協力銀行のアンケート調査によれば、ベトナムは「中期的有望事業展開先国」として中国、インドに次ぐ第3位にランクインしており、前年より順位を上げています。

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中期的な有望事業展開先国・地域(今後3年程度)

 この背景には、ベトナムがその安価で豊富な労働力により、輸出志向型工業の生産拠点として外資系製造業の誘致を進めてきたことがあります。

 2018年にベトナムは環太平洋経済連携協定(TPP)にも加入しました。世界銀行が2015年に公表したレポートでは、米国を含む12カ国でのTPP発効によるベトナムの国内総生産(GDP)の押し上げ効果は2030年までに10%と試算され、加盟国で最大の恩恵を受けるとされています。

 ベトナムの労働者の賃金が低く、関税コストの低下で特に労働集約的なアパレル産業などで輸出に追い風が吹くことがその理由です。TPPから米国が抜けたものの、最も恩恵を受ける国の1つであることに変わりはないと思われます。

 また、タイなどと同様にベトナムでは、人件費の上昇が続く中国から周辺国に新たな製造拠点を求める「チャイナ・プラスワン」の動きが活発になっています。米中貿易摩擦の長期化の兆しも、企業のリスク分散の観点からその流れをさらに後押しする可能性があります。

【次ページ】発展するベトナムは日本の重要なパートナーの1つに

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