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  • 2020/08/28

世界はとっくに脱炭素社会へ……それでも日本が石油・天然ガスを使い続ける理由とは

中東のカタールが計画している大規模な太陽光発電プロジェクトに、日本が全面支援することになった。カタールは世界有数の天然ガス産出国であり、日本にとっては重要な供給源となっている。カタールの国家プロジェクトに参画することは、関連企業の利益になるのはもちろんのこと、日本全体にとっても大きなメリットとなるだろう。だが、このプロジェクトは全世界的な再生可能エネルギーへのシフトを見据えたものという背景を考えると、天然ガス確保のためにカタールを支援するという日本の立場は微妙だ。地球環境問題へのコミットはもはや不可避のテーマであり、日本は再生可能エネルギーについてもっと戦略的に取り組む必要があるだろう。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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世界的な再生可能エネルギーシフトの流れに逆行か?日本のエネルギー政策の行方とは
(Photo/Getty Images)
 

日本がカタールの脱炭素プロジェクトを支援する裏の理由

 カタール政府が計画しているのは「アル・カルサ太陽光発電プロジェクト」と呼ばれるメガソーラー(大規模太陽光発電所)プロジェクトである。丸紅に加え、仏エネルギー大手のトタル、カタールのエネルギー会社が出資する特別目的会社が、出力800MW(メガワット)の太陽光発電所を建設・運用するというもので、2022年に運転を開始し、25年間にわたってカタール電力水公社に電力を供給していく。800MWというと中規模の原子力発電所に匹敵する出力であり、かなりの規模だ。

 総事業費は約500億円とされているが、みずほ銀行と国際協力銀行(JBIC)が協調融資という形で約330万ドル(約350億円)を貸し付け、リードアレンジャーはみずほ銀行が務める予定となっている。

 事業主体に丸紅が入り、資金の多くを日本が提供するので、日本が全面的に支援するプロジェクトと言って良いだろう。日本は国内市場が縮小しており、海外で利益を上げることが必須となっているので、カタールの有力プロジェクトにコミットしたことは高く評価できる。

 ただ、このプロジェクトには、日本全体の国家戦略という観点からすると、少々、微妙な面があるのも事実である。国際協力銀行は、当該プロジェクトに政府系金融機関が参画する意義について「日本にとって重要な液化天然ガス(LNG)輸入先の1つである同国との重層的な経済関係のさらなる強化にも貢献することが期待されます」と述べている。

 日本は中東から大量の原油や天然ガスを輸入しており、中東との関係を密接にできなければ、石油や天然ガスをスムーズに輸入できなくなる。つまり、石油や天然ガスに依存するという日本のエネルギー政策をより強固にするため、今回のプロジェクトを支援したというロジックになるわけだが、今回、支援の対象となっているのはカタールが国家をあげて取り組む脱石油戦略なのである。

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なぜカタールの脱炭素プロジェクトを日本が支援するのか
(Photo/Getty Images)

天然ガス産出国のカタールが脱天然ガスを試みるワケ

 読者の皆さんは、世界屈指の天然ガス産出国である中東のカタールがなぜ太陽光発電を行うのか不思議に思ったかもしれない。普通に考えれば、カタールの地面や海洋の下には、有り余るほどの天然ガスがあり、その天然ガスを使えばいくらでも発電することができる。カタールからわざわざ発電用に天然ガスを高い価格で買い付け、LNGタンカーで地球を半周して輸送している日本からすれば、うらやましい限りだ。

 ところがそのカタールが、原発に匹敵する規模の太陽光発電所を国家プロジェクトして推進している。この矛盾した状況についてどう考えれば良いのだろうか。

 これまで太陽光発電に代表される再生可能エネルギーというのは、半分は理想論であり、本格的に導入できるものではないとの見解も根強かった。だが、ここ10年の関連イノベーションには目を見張るものがあり、再生可能エネの本格導入は現実的なテーマとなっている。

 中東は砂漠が多く天候が良いという好条件を考慮に入れる必要があるが、すでに現時点においてカタールでは、太陽光発電のコストが火力発電のコストを大きく下回っている。今回も総事業費はわずか500億円であり、同じ規模のLNG火力発電所の建設コスト(約1000億円)と比較すると圧倒的に安い。

 皮肉な話だが、中東各国にとって、地面の下に眠っている石油や天然ガスを使うよりも、太陽光発電を行った方が有利というのが現実なのだ。

 中東ほどの気象条件ではないにせよ、太陽光発電、風力発電など再生可能エネを活用できるポテンシャルを持った国は多く、日本もその例外ではない。環境庁の調査によると、日本の再生可能エネのポテンシャルは、火力や原子力などを合わせた現行の発電量の6倍もあるという。

 コロナ危機の発生で、一時、原油の先物価格がマイナスになるという全体未聞の事態が発生したが、これも単なるコロナショックとは考えない方が良いだろう。直接的には、コロナ危機で石油の需要が一時的に激減するとの見立てが下落の主な理由だが、再生可能エネの本格導入はもはや時間の問題であり、近い将来、石油や天然ガスの価値は限りなく低下するとの予想があるからこそ、あのレベルまで原油が売られたという事実を忘れてはならない。


 つまりカタールは自身が保有する天然ガスの価値が将来、大きく毀損すると見ており、売れるうちにたくさん天然ガスを売って外貨を稼いでおきたいと考えている。国内の発電は天然ガスではなく太陽光で賄い、余った天然ガスはすべて輸出に回したい意向だ。

【次ページ】サウジアラビアが国営石油会社を上場させた本当の理由とは

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