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  • 2021/09/10

米のEV推進は日本車つぶしか?「トヨタの不利」を報じまくるメディアたち

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

米バイデン政権が国策に据えた環境保護の旗印の下、米国は官民を挙げて電気自動車(EV)シフトを加速させている。2021年8月6日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、「バイデン政権のEV計画は米テスラを助け、日本のトヨタを追い詰める」と題した記事を配信し、“日本車潰し”の進行を示唆。こうした中、米メディアや専門家は、EV開発で後れを取る日本を尻目に、欧州や中国こそが今後の米自動車産業のライバルになるとの予想図を描く。同時に、米国の計画が思惑通りに進まない可能性も指摘される。日本に逆転のチャンスはあるのか。

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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米国のテスラスーパーチャージャーステーション
(Photo/Getty Images)

「危機に瀕している」、日本車の不利を伝える米メディア

 米国の主流マスコミでは、日本とその自動車産業が、自らの選択で時代の流れに取り残された、あるいは脱炭素化の不可避な進歩に逆らう反動勢力として描写されている。さらに、1970年代の低公害技術であるCVCCエンジンや1990年代以降のハイブリッド車に代表されるクリーンカー開発で日本が世界をリードしたものの、現在グローバル規模で進行中のEV競争開発の中で旧技術や高コストの次世代テクノロジーに固執するあまり、牽引役の欧州や中国、そして米国に負け、落伍しかけた哀れな存在として見られている。

 たとえばニューヨーク・タイムズ紙は上記8月6日付の記事で、「バイデン政権は8月5日、2030年の米国内自動車販売の半分をEVにするという目標を打ち出した。この発表は米国内で販売されるEVの3分の2を製造する米テスラにとって良い知らせであるが、世界最大の自動車メーカーであるにもかかわらず、米国においてEVを来年まで発売しない日本のトヨタによっては潜在的に悪いニュースだ」と分析した。

 さらに同記事は、「(大量生産や技術革新で)EVがより安価になり、ガソリン車が骨董品化して、中古ガソリン車の買い取り価格が暴落するリスクがあると消費者が判断した際には、彼らは一斉にEVへ飛びつく可能性がある。そうなれば、テスラや若干のスタートアップ以外の、いまだに内燃エンジン車を販売する企業はジリ貧になろう」と予想した。

 ニューヨーク・タイムズは7月25日付の「トヨタはクリーンカーをリードしてきたが、今やクリーンカーを遅らせようとしていると批判される」という見出しを付けた記事においても、「トヨタは(高コストや燃料スタンドの少なさがネックとなり普及ペースが遅い)水素エネルギーに賭けたが、世界がEVに移行する中、明らかに時間稼ぎのためと思われる気候変動規制への闘争を仕掛けている」と日本勢を斬り捨てている。なおニューヨーク・タイムズは3月9日付の解説記事においても、「栄華を誇る日本の自動車産業は今や取り残される危機に瀕している」と論じている。

 また前述の7月25日付記事は、「水素エネルギー車には将来性があるが、EVに少なくとも10年の後れを取っている。そうした中、トヨタは、『水素燃料が普及するまで(同社が莫大な投資を行ったハイブリッド車をつなぎとして)待つべきだ』と言う。しかし、地球温暖化は待ったなしだ」とする、米幹線道路交通安全局のデイビッド・フリードマン元局長代理の見方を紹介している。いわゆるEV一択論である。

 なお、米エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は6月に、再生可能エネルギーや原子力発電などのクリーンな電力で生産した水素の価格をこの先10年間で80%引き下げ、1キログラム当たり1ドルとする目標を示している。バイデン政権がEVに傾倒するあまり、可能性を秘めた水素を捨てたわけではないことには注意を払う必要がある。

 いずれにせよ、ニューヨーク・タイムズの記事や7月28日付ワイアード誌の解説では、「トヨタがEVシフトに失敗したため、移行に反対するロビー活動に余念がない」として、トヨタをはじめとする日本勢が時代遅れで反動的であるとの視点が採用されている。

 そうした文脈において、トヨタのEV発売は遅きに失し、日産のEVであるリーフは急速に海外ライバルにシェアを奪われているとして、グローバルEV開発競争は日本を除いた欧州・中国・米国の三つ巴になるとの予想が支配的だ。

 一例が民主党寄りのシンクタンクであるアメリカ進歩センターが昨年9月に発表した「EVは米労働者にとり勝利」と題する論考だ。同ペーパーは、「米国のEV開発は、中国や欧州と比較して大幅に遅れている」と指摘するのだが、日本が重要プレーヤーとして言及されていない。一般向けメディアも、ニューヨーク・タイムズに代表されるように、バスに乗り遅れた日本の自動車産業の衰退を織り込んだ「ジャパン・パッシング」で一貫している。

米国におけるEV普及の障害とは

 このように米メディアや専門家は、出遅れた反動勢力と目される日本メーカーを置き去りにして、世界第2位の自動車市場である米国のEV普及が急スピードで進んでゆくという未来図を、決定事項として描いている。だが同時に、そうしたメディアや専門家自身が、米国におけるEVの未来に克服困難な障害がいくつも立ちはだかっていると警鐘を鳴らしているのも事実だ。

 言うまでもなく、充電スタンドが不足してはEV普及には弾みが付かない。米テックニュースサイトのTechCrunchは8月31日付の記事で、「2030年までに、現在の全米21万6000カ所のスタンドに加え、240万カ所が新たに必要となる。さらに、EVによる電力需要増加により、2050年には発電能力が現在のレベルから倍増していなければならない」との分析を報じている。

 だが、超党派で9月に可決が見込まれるインフラ法案では、バイデン政権が全米50万カ所に充電スタンドを建設するため米議会に要請した1,740億ドル(約19兆1,378億円)の予算のうち、わずか75億ドル(約8,248億円)が割り当てられたに過ぎない。計画は、いきなり大きく出鼻を挫かれた形だ。

 また、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網であるスマートグリッド増強の予算も、730億ドル(約8兆293億円)から650億ドル(約7兆1,500億円)に削られるなど、不安の多い船出だ。

 この秋の追加インフラ法案では、より多くの充電スタンド・電力グリッド向け予算が計上されると見られるが、8月9日付のニューヨーク・タイムズは、「勢力が拮抗した米議会での可決成立は保証されていない」と慎重な見方を示している。

 加えて同記事は、米自動車メーカーの自主的なEV開発目標について、「そうした約束を信じることは、(一般人の)新年のダイエットの誓いに法的拘束力のあるものとみなすのと同じだ」として、コミットメントに懐疑的な見方を示す環境保護団体代表のダン・ベッカー氏のコメントを掲載した。収益性、政府補助金の多寡、原油価格の変動など政治経済の風向きが変われば、経営陣が目標を後退させる可能性があるということだ。

 事実、米投資家サイトのモトリーフールは8月18日付の対談記事で、「特にバッテリーのパフォーマンスや供給の面で、すべてが計画通りに進むのか注目すべきだ」としている。3月10日付のニューヨーク・タイムズは、「(普及の)目標値は保証されたものではなく、現時点では強い願望に過ぎない」と分析している。このように見てくると、同紙が「時代遅れで反動的だ」と描写する日本政府や日本メーカーのEVの収益性や環境パフォーマンスに対する懐疑や慎重姿勢が、合理的に見えてくるのである。

【次ページ】鬼門は米政治の安定性の欠如

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