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  • 2021/06/15 掲載

米国が進める未来投資「AI・EV支援」「教育の無償化」……対する日本の財政出動は?

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コロナ危機をきっかけに、先進各国と日本の経済格差が顕著になっている。最大の原因はワクチン接種の遅れだが、コロナ対策やコロナ後を見据えた巨額の財政出動に政府が消極的であることも大きく影響している。日本はなぜこの重要なタイミングで大きな投資を決断できないのだろうか。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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各国がアフターコロナを見据えた大規模な財政出動を決断する一方、日本はというと…
(Photo/Getty Images)

先進国に劣る日本の成長率見通し、その理由とは?

 内閣府が発表した2021年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の影響を考慮した実質で前期比マイナス1.3%、年率換算ではマイナス5.1%という大幅な落ち込みだった。ワクチン接種の進展で経済が急回復し、年質でプラス6.4%の成長を実現した米国とは対照的な状況だ。

 IMF(国際通貨基金)の成長率見通しによると、日本の2021年の成長率はプラス3.3%にとどまる一方で、米国はプラス6.4%、ユーロ圏は4.4%、中国はプラス8.4%と極めて高い数字になっている。2022年についても、米国や欧州は3%台の成長を見込むが、日本は2.5%と低迷したままだ。

 2021年の成長率の格差については、ワクチン接種が最大の要因であることは間違いない。G7に所属する先進国でありながら、新興国と同レベルかそれ以下のペースでしかワクチンを接種できないことは問題ではあるが、ワクチン接種さえ進めば、諸外国と同レベルの成長を実現しても良いはずだ。

 ところが、2022年以降も日本だけが成長できないという予想が出ているのは、主要国では日本だけが次世代を見据えた大規模な財政出動を実施していないからである。

 各国はコロナ対策と、次世代の産業シフトへの対応を兼ねて、巨額の財政出動を行っている。コロナ危機の発生が社会のデジタル化を急加速させており、今のタイミングで先行投資を実施しておかないと、次世代の競争に致命的な影響が及ぶというのがその理由である。

 バイデン政権は、コロナ対策に1.9兆ドル(1人あたり最大1400ドルの給付金を含む)、AI(人工知能)活用やEV(電気自動車)支援、インフラ整備などに2兆ドル、教育の無償化や子育て支援などに10年間で1.8兆ドル(約198兆円)を投じる計画を明らかしており、投資総額は5.7兆円(627兆円)に達する。

 一連の投資はコロナ対策でもあるが、むしろ次世代産業への対応というニュアンスが強い。これからの50年はデジタル化と脱炭素が経済の牽引役となるのはほぼ確実であり、こうした新しい時代に対応するためには、インフラの整備が必要なのはもちろんのこと、国民に対する教育機会の確保も重要となる。

 欧州や中国も規模こそ米国には至らないものの、似たような投資を計画しており、世界は次世代産業を見据えた先行投資競争になっている。

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IMF(国際通貨基金)の成長率見通しによると、日本の2021年の成長率はプラス3.3%にとどまる一方で、米国はプラス6.4%、ユーロ圏は4.4%、中国はプラス8.4%と極めて高い数字になっている
(Photo/Getty Images)

なぜ平時に財政出動して非常時に出動しないのか?

 だが日本では、1人あたり10万円の特別定額給付金(総額13兆円)の実施すら大激論となったくらいであり、EV化やAI対応、子育て支援、教育の無償化などへの巨額投資について議論するような雰囲気にはなっていない。

 日本が次世代を見据えた財政支出に消極的なのは、ワクチン接種の目処すら立たない状況であり、将来について議論できる状況ではないことが理由なのかもしれないが、政権が大型の財政出動に尻込みしている影響も大きいだろう。

 国民も不満は口にするものの、政府の消極姿勢を激しく批判しているようにも見えない(政権の支持率がそれほど下がっていないことからも、事実上、この状況を受け入れていると判断せざるを得ない)

 こうした政府や国民のスタンスについて筆者は不可思議に感じている。

 筆者はむやみな財政支出拡大には慎重なスタンスであり、そのせいか、ネットなどでは「財務省の犬」「日本下げ」「反日」などという意味不明の暴言や誹謗中傷をいつも受けている(ちなみに筆者は放漫財政に警鐘を鳴らしているだけであって、緊縮財政にすべきだと主張したことはただの一度もない)。

 政府債務の増大は金利上昇リスクなどを伴うので、むやみな拡大には慎重であるべきというのは教科書的な考え方と言って良いだろう。

 一方で、国家の非常時には躊躇することなく大胆な財政出動を決断すべきであり、そのためにこそ国債というものが存在している。コロナ危機は、現代社会において希に見る危機であり、まさに国家にとっての非常事態である。筆者に言わせれば、今、財政出動を行わないで、いつ実施するのだろうかという感覚だ。

 だが日本の財政は「平時には慎重に、緊急時には躊躇なく」という基本原則とは正反対に見える。


 コロナ危機が急拡大した2020年4月、筆者はテレビ番組や総合誌などにおいて「今は国家の非常時であり、50兆円の国債増発による全国民を対象とした給付金の支給が必要」と強く主張した。紆余曲折の末、補正予算では実際に50兆円の国債増発が盛り込まれたが、コロナに対する不安が極度に高まっていた当時、こうした主張をする専門家は驚くほど少なかったというのが現実である。

 一方、何もない平時においては、「大規模な財政出動で力強い成長を実現せよ!」といった勇ましい意見が多く聞かれるし、実際、日本は平時においては、それなりの規模の財政出動を行ってきた。

【次ページ】「日本の成長鈍化」と「財政出動」の関係

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