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  • 2022/01/06

半導体業界・専門誌まとめ、一時代を築いた「電子材料」「日経マイクロデバイス」とは

連載:福田昭の「製造業異聞録」

特定の産業や業界などを対象とする専門誌は、「業界の状態を映し出す鏡」だとも言われる。半導体業界もその例外ではない。過去、日本の電子産業と半導体産業が誕生して急速に発展していった時代に、数多くの専門誌が誕生した。しかし繁栄の時代は長くは続かなかった。電子産業と半導体産業の衰退が始まり、衰退が進むとともに、数多くの専門誌が休刊した。本記事では「電子材料」、「Semiconductor World」、「日経マイクロデバイス」、「Electronic Journal」、「Design Wave Magazine」、「ディジタル・デザイン・テクノロジ」、「FPGAマガジン」の歩みを振り返りたい。

執筆:技術ジャーナリスト 福田 昭

執筆:技術ジャーナリスト 福田 昭

工学修士(電気工学専攻)。日経BP社で「日経エレクトロニクス」副編集長、「日経ボード情報」編集長などを歴任後、2000年12月に日本カーナーズに転職し、技術雑誌「EDN Japan」の副編集長と編集長を務める。2005年1月からフリーの技術ジャーナリストとして活動を始め、現在に至る。40年近くにわたって半導体技術と電子技術を見守ってきた。半導体や記憶装置などに関する署名コラムをWebメディアで連載中。本コラム「製造業異聞録」では筆者独自の視点で、製造業にまつわる、あまり知られていなかった話題をお届けする。

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電子産業と半導体産業の衰退が始まり、衰退が進むとともに、数多くの専門誌が休刊した。その歩みを振り返る(後ほど詳しく解説します)

「製造業異聞録」の位置付け
 本コラム(製造業異聞録)の初回では、重要な記述が省かれていた。第2回ではその説明から始めたい。省かれていたのは、「製造業異聞録」とはどのようなコラムなのか、という説明である。「異聞」とは、「めずらしい話」や「かわった風聞」、「人の聞き知っていない話」、「ちまたの通説とは違う話」などを指す。

 共通しているのは、「あまり知られていない」こと。あまり知られていない伝聞や風聞などであり、事実であるかどうかは問わない。

 この「製造業異聞録」では、製造業に関連した「異聞」をお届けする。ただし、2つの特徴がある。1つは「事実」であること。伝聞や風聞などは原則としてテーマには取り上げない。もう1つは、「半導体」と「エレクトロニクス(電子産業)」に関するテーマが中心になること。これは筆者が過去に見聞きしてきたことが、半導体とエレクトロニクスに偏っていることに起因する。どうかご容赦願いたい。


日本の半導体生産の歴史(1981~2021年)

 今回は、半導体(技術と産業)あるいはエレクトロニクス(電子技術と電子産業)を専門とするメディア(雑誌や新聞などの媒体)の興隆と衰退を扱う。メディアといっても紙の媒体であり、Webメディアは扱わない。また紙媒体でも、販売価格や年間購読料などが数十万円といった法人向けの高額商品は対象としない。個人が購入できる価格の媒体を対象とする。

 始めは背景となる知識として、日本の半導体産業の歴史を簡単に振り返ろう。日本の半導体産業は1950年代に生まれ、1970年代に発展し、1980年代には国・地域別で世界最大の生産額を誇るまでに成長する。異業種(日本では特に鉄鋼メーカー)による半導体産業への参入が相次いだのが、この頃だ。しかし1990年代には衰退が始まる。2000年代には衰退が本格化し、合併やスピンアウトなどが続く。2010年代には半導体産業の衰退が日本全体に知られるようになり、現在に至る。

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日本の半導体生産金額(1981年~2021年)
(出典:経済産業省機械統計)

 発展と衰退の流れを、具体的な数値で見ていこう。日本の半導体生産金額(半導体素子〈ディスクリート〉と半導体集積回路〈モノリシックIC〉の合計値、経済産業省機械統計による)は1981年の時点で約1兆円だった。それが10年後の1991年には、3兆6,000億円を超える金額に達する。10年で3.6倍に急増したことになる。1990年代後半には4兆円を突破する。

 日本の半導体生産金額がピークを迎えたのは2000年。生産金額は5兆円を超え、5兆2,700億円に達した。ここから減少が始まる。2000年代は4~4.5兆円で推移した。2010年代はさらに減少し、2011年~2017年は2.6~3.1兆円となる。2018~2020年はさらに悲惨で、2兆円をわずかに超える金額に下がる。1980年代前半の水準に戻ってしまった。

1960年代、相次ぐ「半導体・電子専門雑誌」の創刊

 日本で半導体と電子回路に関する専門雑誌の創刊が相次いだ時期は、日本の半導体/電子産業の勃興期と重なる。1950年代後半から1970年代前半のことだ。

 1950年代後半~1960年代前半に創刊された専門雑誌の特徴は、電子管(真空管)、パラメトロン、リレー(継電器)、磁気メモリ、トランジスタ、ラジオ、オーディオ、アマチュア無線、電子計算機(コンピューター)といった掲載テーマに集約される。すなわち回路の主役は電子管やリレー、磁気デバイスから半導体(トランジスタ)に移行しつつあるものの、半導体集積回路(モノリシックIC)はまだ登場していない。

 続く1970年代前半に創刊された専門雑誌は、60年代とは異なる技術情報の存在が前提となっていた。マイクロコンピューター(マイコン)と半導体メモリを利用した回路設計(組み込みシステム設計)である。モノリシックICが回路の主役となったことを意味する。またマイコンと半導体メモリは1970年代末から1980年代始めにパーソナルコンピュータ(パソコン)の開発ブームを生み出した。雑誌の世界では、数多くの「パソコン専門誌」が創刊された。なおパソコン専門誌は本稿のテーマおよび筆者の得意分野と外れるので、ここでは割愛する。

 1980年代前半には、日本の半導体産業が急速に成長していることに対応するかのように、半導体専門誌が相次いで創刊される。半導体専門誌の創刊は1990年代まで続く。

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半導体関連専門誌の通史(概略その1)。1950年代~1990年代に創刊(あるいは休刊)した雑誌と新聞を列挙した。なお、すべてを網羅している訳ではない
(出典:筆者作成)

2000年代後半以降、雑誌の休刊と版元の倒産が続く

 半導体専門誌に陰りが見え始めたのは2000年代である。この年代は10年間で5つもの半導体専門誌が休刊した。その中で4誌の休刊時期は、2009~2010年に集中している。

 2007~2008年に広告が雑誌からインターネット(Webサイト)へと急速にシフトしたこと、2008年9月に発生した世界的な金融危機(リーマンショック)によって2009年に半導体需要が落ち込んだこと(このために広告需要そのものが落ち込んだこと)、などが、元々苦しかった雑誌の収支状況をさらに悪化させた。この時期の創刊はわずか1誌であり、それも実態は休刊した雑誌のリニューアルに近かった。

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半導体関連専門誌の通史(概略その2)。2000年代以降に創刊(あるいは休刊)した雑誌と新聞を列挙した。なお、すべてを網羅している訳ではない
(出典:筆者作成)

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日本の半導体需要の推移(2001年~2021年)。2009年の半導体需要は過去20年で最大の落ち込み(前年比マイナス28.8%)を記録した
(出典:WSTS(世界半導体市場統計)の公表データより筆者作成)

 特筆すべきは、2010年に休刊した2誌は「出版社(版元)の倒産」が休刊の理由であることだ。それまでは休刊といっても、複数の雑誌や技術書(単行本)などを発行している出版社が、ある雑誌の発行を休止するというのが普通だった。出版社は、ほかの雑誌や単行本などの発行を続けていた。版元が倒産するという事態は、日本の半導体関連出版業界にとってたぶん初めての出来事であり、衝撃と影響は小さくなかった。

 2010年代も休刊の数が創刊を上回り、半導体関連の専門誌(紙媒体)は数を減らした。2021年11月現在、専門誌(紙媒体)は4誌に過ぎない。一方でいくつかのWebマガジンが半導体とエレクトロニクスの情報を定常的に扱っている。主役は紙メディアから、Webメディアにシフトした。

休刊した専門誌の軌跡を振り返る

 ここからは、休刊した半導体関連の専門誌(紙媒体)を紹介していく。なお紹介するのは、筆者が実際に読んだことのある雑誌に限定した。もちろんすべての号を読んでいるわけではないが、イメージは持っている。また名称は知っていても、筆者が1冊も読んでいない雑誌は雰囲気が分からないので、紹介は控えた。ご了承されたい。

 紹介の順番は、基本的には創刊の年月順とした。具体的には「電子材料」、「Semiconductor World」、「日経マイクロデバイス」、「Electronic Journal」、「Design Wave Magazine」、「ディジタル・デザイン・テクノロジ」、「FPGAマガジン」の順番である。

50年近い歴史を有する「電子材料」

 始めは「電子材料」(月刊誌)を紹介しよう。創刊は1962年と最古参の雑誌に位置する。同じ時期の創刊誌には「エレクトロニクス」(月刊誌、1956年創刊)や「トランジスタ技術」(月刊誌、1965年創刊)などがある。「エレクトロニクス」は2001年に休刊した。「トランジスタ技術」は現在(2021年12月時点)も月刊誌として刊行中だ。

 「電子材料」の出版元である工業調査会は、1950年代(1953年とも1957年とも言われる)に設立された工業分野を専門とする老舗の出版社である。月刊誌では「プラスチックス」(1950年創刊)、「機械と工具」(1957年創刊)、「化学装置」(1959年創刊)などを刊行した。

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「電子材料」の創刊から休刊まで。表紙は最終号となった2010年9月号
(出典:筆者作成)

 「電子材料」は雑誌名からは材料の専門誌という印象を受ける。実際には材料技術だけでなく、半導体製造技術や製造装置技術、半導体産業、電子産業などの動向を広く扱っていた。複数の解説記事(現役の研究者および技術者による寄稿)で構成する「特集」を前面に打ち出した、雑誌としてはごく普通の構成を採っていた。著名な研究者や技術者、経営者などによる連載コラムも設けていた。残念ながら版元の工業調査会が2010年8月31日に事業を停止したため、休刊(廃刊)となった。なお先述の「プラスチックス」と「機械と工具」、「化学装置」は版元を変更して現在(2021年12月時点)も発行が続いている。

 工業調査会の倒産が与えた影響は、雑誌よりも単行本において大きい。電子技術や半導体技術などの解説書のほか、電子産業や半導体産業などのビジネス書を数多く発行しており、特に半導体製造技術に関する一連の解説書は、高い評価を得ていた。雑誌の発行は単行本の著者探しが目的ではないかと感じるほどに、1990年代には数多くの単行本が大型書店の技術書コーナーに並んでいた。

 工業調査会が倒産したことにより、半導体技術と電子技術の解説書がほとんど発行されなくなった。これらの技術は変化が早い。半導体技術と電子技術は変化が比較的早く、技術書の記述内容は5年も経つと現状とかなり乖離する。10年後には無視できないほどの隔たりになることがしばしばみられる。失ったものは大きい。

出版界における半導体ベンチャーの先駆「Semiconductor World」

 次に紹介するのは「Semiconductor World(セミコンダクターワールド)」である。半導体の製造技術と市場動向、ビジネス動向などを扱う月刊誌として1982年4月(1982年5月号)に創刊された。出版元であるプレスジャーナルの設立年月は不明だが、1982年4月以前の近い時期だとみられる。

 プレスジャーナルは半導体専門誌と関連書籍の発行を目的として創業された新興の出版社であり、いわゆるベンチャー企業だった。その最初の定期刊行物が「Semiconductor World(セミコンダクターワールド)」である。ニュースや解説などで構成されており、1ページあるいは2ページの短い記事が多かったと記憶している。執筆者は技術者や市場アナリストなどの外部寄稿と、編集部のスタッフによる内部執筆が混在していた。

 販売は読者との年間契約による直接購読方式であり、書店売りをしなかった。このため、一般消費者に対する知名度はきわめて低い。読者の主体は半導体製造装置メーカーと半導体材料メーカー、半導体関連の商社、半導体メーカーの技術者や営業担当者などである。

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「Semiconductor World」と「Semiconductor FPD World」の創刊から休刊まで
(出典:筆者作成)

 1990年代には半導体単独での雑誌運営が苦しくなり、姉妹誌のフラットパネルディスプレイ専門誌「FPD intelligence」(前身の「LCD intelligence」を1996年に創刊していた)を統合して2000年4月には「Semiconductor FPD World」の名称で新装刊された。しかし2000年代後半には購読者の減少と広告の減少が重なり、プレスジャーナルは債務超過に陥る。2010年3月1日、同社は自己破産を裁判所に申請した。

【次ページ】設計と製造の分離から生まれた「日経マイクロデバイス」

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