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  • 2022/02/03 掲載

「知能化ロボット」と「データドリブン」が倉庫と工場を変える

森山和道の「ロボット」基礎講座

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ロボットはセンサー類とAIの活用で、ゆっくりと、だが確実に用途を広げつつある。センサーによる稼働データは現状の課題を見える化し、定量的な改革を可能にする。賢くなったロボットは自動化領域そのものを大きく押し広げ、従来の物流倉庫や工場の設計やありよう、中で働く人たちの働き方自体を変える可能性がある。今回は、久しぶりに開かれたロボット展示会から、ロボット活用が拓く現場改革の可能性を見てみよう。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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AutoStoreとRightHand Roboticsの組み合わせ

ロボット活用の現場は「スマート工場」と「物流倉庫」

 2022年1月現在、新型コロナ禍の第6波が猛威をふるっているが、「第6回ロボデックス」は1月25日~27日の会期で予定どおり開催された。「ロボデックス」は「ロボット開発・活用展」であり、ロボットの活用技術、つまりアプリケーション寄りの展示会だ。今回は「第6回スマート工場EXPO」、そして「第1回スマート物流EXPO」と併催で、会場内はシームレスにつながっていたため、データを活用した工場のスマート化、そして物流用途の展示が目立った。

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協栄産業によるDoog社搬送ロボット「サウザー」を使った遠隔操作アプリケーション「Thouzer Links」

 結局のところ、今のロボットの使われ方の焦点はこの二つということなのかもしれない。つまり、稼働することでデータを収集・生成し続ける存在としてのロボット、そして新たなロボットの用途として注目されている物流、というわけだ。スマート工場への取り組みも、現場の理解は徐々に得られつつあるようだ。

 本連載では最初から「ロボットが伸びる次の分野は物流」と言っていたが、その流れはもはや明確となった。だが実際には人手に頼っている従来型の物流倉庫のほうが多いのが実情であり、伸びる余地は大きい。

 ともあれ、物流分野に進出するロボットプレーヤーは、まだまだ増える。ロボットを含むマテハン機器の種類もさらに増えるし、差別化のために多様化しつつある。それらを導入するための業者も大忙しだ。倉庫の管理システムとロボットそのほかマテハン(マテリアル・ハンドリング)機器類を接続するためのシステム開発も活況を呈している。

WMSからマテハン機器の連携制御部分を分離する「WES」の考え方

 今回、「第1回スマート物流EXPO」に安川電機グループのYE DIGITALが出展していた物流倉庫自動化システム「MMLogiStation」は、従来の「WMS(Warehouse Management System、倉庫管理システム)」と、自動化設備の制御を行う「WCS(Warehouse Control System、倉庫制御システム)」の中間に位置する「WES(Warehouse Execution System、倉庫実行(運用管理)システム)」の一つだ。2021年11月にリリースされた。「自動化設備の導入をスピーディーに実現し、かつ、倉庫内のオペレーション全体の最適化を可能にする」とされている。

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YE DIGITAL「MMLogiStation」のデモ

 同社では、倉庫自動化の課題の一つとして「WMS」の変更にかかるコストを挙げる。先進設備の追加は必要だが、設備の連携は実はそんなに簡単ではない。設備ごとに個別にカスタマイズが必要であり作業管理も考え直す必要がある。その結果、「WMS」は肥大してしまっている。スムーズな拡張も難しい。

 そこで制御を行う「WCS」と、管理システム「WMS」の間に、実行管理を行う「WES」という仲介役を入れて、「WMS」からマテハン機器の連携制御部分を分離する。そして「WES」が倉庫内のオペレーションを管理・制御するようにする。作業指示を行う「WCS」とのインターフェース部分はプラグイン形式とすることで、メーカーを問わず新たな自動化機器の追加を簡単にし、操作についても統一されたオペレーション機能を提供しようという考え方だ。作業フローの作成とWESへの導入はYE DIGITALが行う。

 WESの考え方は、工場の「MES(製造実行システム)」と基本的に同じである。MESは工場での設備やリソースなどオペレーションを管理する。WESは倉庫内のオペレーション、すなわち入庫・出庫、仕分け、在庫の移動などのオペレーションを管理して、WCSへの指示として実際の作業指示を出す。製造現場で培われたこのような考え方と技術が物流倉庫でも必要とされ、実際に用いられ始めている。このこと自体も興味深い。

 今回の展示では、この連携に対応しているロボット機器として、ZMPの搬送ロボット「CarriRo」、匠の棚搬送ロボット「TiTra」、国内では丸紅システムズが扱っているEffidence社の「EffiBOT」が紹介されていた。このほかのマテハン機器についても、メーカーと協議して順次対応していく予定とのこと。

自動倉庫とピッキングロボットの連携がさらなる自動化を進める

 「MMLogiStation」は、ロボットストレージシステムの「AutoStore」にも対応している。その「AutoStore」は国内代理店であるオカムラのブースで、RightHand Roboticsのピースピッキングソリューション「RightPick」と組み合わせた展示が行われていた。

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オカムラブース。AutoStoreとRightHand Roboticsの組み合わせ

 AutoStoreは今、各方面から注目されているロボット自動倉庫だ。ケースを高密度に収納した倉庫のフレーム上を小型ロボットが動き回って、ケースを上げ下げすることで入出庫を行う。AutoStoreを使うことで作業者は「ポート」と呼ばれる定位置から歩くことなく、出庫・入庫作業が行える。当然だが、作業者の歩数は圧倒的に減る。大型から小型までスケーリングが可能で、さまざまなケースに対応できることが、注目されている理由の一つだ。

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ロボットストレージ「AutoStore」

 RightHand Roboticsの「Right Pick」は、真空吸着と3本指を組み合わせたハンド、汎用のRGB-Dカメラ、そして機械学習技術を組み合わせた、ピース・ピッキングシステムだ。商品登録とティーチングは不要で、初見の物体を掴むことができる。ピッキング速度は最大で1時間あたり1,200個。日本では日用品卸のPALTACが限定的に用いている。詳細は2019年に本連載で取り上げているので、そちらをご覧頂きたい。

 今回のオカムラの展示は、この二つのロボットシステムを組み合わせることで、倉庫からの出庫、あるいは入庫を完全自動化しようという考え方である。2020年12月に佐川グローバルロジスティクスの倉庫で実証実験されていることがリリースされていたが、公開展示されたのは今回が初めて。2022年1月現在は実証実験が行われている段階で、実際の導入事例はない。

 今は技術的にも困難だが、将来、ピッキングが自動化されるのは必然の流れだと思う。さらにパレタイズ・デパレタイズロボットやシャトル型自動倉庫、自動フォークリフトなどを組み合わせることで、物流倉庫や工場の工程間搬送の無人化が進んでいこうとしている。


重量物の天地反転もマスターレスで可能なロボットシステム「TriMath」

 ピッキングでは、ほかには東京エレクトロンデバイスの「TriMath(トリマス)」が面白かった。マスターレスでピッキングが可能で不定形や不規則形状物に対応する。また、サイズ・重量・色などに合わせて仕分け作業や検査ができる。

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東京エレクトロンデバイスの「TriMath」。鏡面物体も3D推定ピッキング可能


 活用シーンもユニークだ。たとえば、廃棄する洗濯機の仕分け作業などに用いられているという。洗濯機はドラム式かどうかで解体方式が異なり、解体ラインも違う。それを自動で見分け、ロボットがそれぞれの解体ラインに分けるのである。これをマスターレスでできる。認識方式はパターン投影で3次元情報を取得する。

 また、廃棄エアコン室外機の反転作業にも用いられている。こちらの認識には上流工程で貼った2次元マークを用いている。エアコンにもさまざまな種類があり、色も異なる。そして洗濯機にしろエアコン室外機にしろ、重量物である。この重筋作業をロボットで行うことで労働負荷を下げ、安全性を確保する。納得のアプリケーションである。

 このほか、鉱物の仕分け作業や袋のデパレタイズなどにも用いられてるとのこと。「TriMath」はビジョンとロボットアーム、ハンドを連携させたシステムで、同社では独自の動作指示システム「TriMath OS」でピッキング、認識・計測、仕分けの基本動作をインテグレーションして、ソリューション提供している。


【次ページ】既存の棚倉庫と相性の良いAMRも活況

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