• 2022/08/29 掲載

倉庫管理システムとは何かを図解、主要ベンダー比較、パナソニックが大型買収のワケ

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コロナ禍以降、消費者の購買活動がリアルからネットへとシフトし、ECサイトの利用が拡大している。購入から商品の配送完了までの許容時間は短くなっていることから、小売事業者や物流センターは、保有する商品を正確に管理する倉庫管理システム(WMS)の導入を急いでいる。パナソニックが81億ドル(当時の為替レートで約8,000億円)かけて大型買収した企業も、実はWMSのリーダー企業の1社だ。ここではWMSの基本とあわせて、導入のメリット、ガートナーのWMSに関連する調査レポートなどを解説していこう。

執筆:友永 慎哉

執筆:友永 慎哉

製造業向け基幹系システムの開発を経験後、企業ITの編集、ライター業に従事。ファイナンス、サプライチェーンなど、企業経営の知識を軸にした執筆に強みを持つ。インダストリー4.0など新たな技術による製造業の世界的な変革や、Systems of Records(SoR)からSystems of Engagement(SoE)への移行、情報システムのクラウドシフトなどに注目する。GAFAなど巨大IT企業が金融、流通小売り、サービスといった既存の枠組みを塗り替えるなど、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。

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WMSとは?(後ほど詳しく解説します)

サントリーが物流新拠点

 飲料メーカーのサントリーは2021年11月に首都圏の物流新拠点として「浦和美園配送センター」を稼働させた。それまで複数箇所に分散していた倉庫機能を集約し、在庫配置や倉庫間移動の効率化を図る。従来、労働負荷の軽減や環境負荷の低減を実現するスマートロジスティクスを推進してきており、環境負荷の低減を継続するとしている。

 2022年4月には、沖縄に新物流拠点「沖縄豊見城(とみぐすく)配送センター」を新設し、WMSを導入している。WMSと、トラックを駐車して荷物の積み下ろしをするスペースであるバースの予約システムを連携させることで、倉庫内業務の効率化を図る。従来の物流拠点と比較して、年1300時間の業務を減らせるという。

 サントリーは、最先端のデジタルトランスフォーメーション(DX)施策として、こうしたスマートロジスティクス化を推進するとしている。

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サントリーの沖縄豊見城配送センター

倉庫管理システム(WMS)とは何か

 WMSとは入庫管理、在庫管理、出荷管理など倉庫内の運営を支援するシステムを指す。

 サントリーの取り組みからも分かる通り、WMSは製造業や小売業にとって、ビジネスの源泉である在庫管理を最適化するという意味で非常に重要である。

 倉庫内の管理に特化したアプリケーションにより、倉庫に資材または商品が入庫してから出庫するまでの管理や、倉庫内で働く人員を管理する機能を提供している。

 ガートナーは、WMSのコア機能として、入庫、格納、在庫検索、在庫管理、循環棚卸、棚卸し、注文の割り当て、注文のピッキング、補充、パッキング、出荷、労務管理などを挙げている。

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WMS(倉庫管理システム)には入庫管理・出庫管理、在庫管理、ラベル・ICタグ管理など、倉庫にまつわる管理機能が複数備わっている
(編集部作成)

 なお、WMSと同じように倉庫の商品管理に絡んだシステムにはTMS(Transport Management System:輸配送管理)がある。WMSが倉庫内の製品・商品を管理して、出荷するまでの流れを管理するのに対して、TMSは主に出荷したあとの商品が届く時間や状態を管理している。具体的には「配車管理」、「進捗管理」、「実績管理」などの機能を持ち、パッケージによってはWMSとTMSを合わせて提供されるケースもある。

WMS導入の3つのメリット

 WMSを導入することによるメリットはいくつもあるが、最も重要と考えられる「在庫の精度向上」「入庫作業の高速化」「倉庫管理業務の簡素化」の3つに注目する。

・在庫の精度向上
 倉庫管理において最も頭の痛い問題は、事務処理上の在庫と実在庫の数が合わないということである。この数字が合わなければ、売上高、利益率などビジネスの数字を正しく把握できないことになるからだ。

 WMSの導入担当者によると「入荷の時点でミスが発生することが多い」という。商品マスターが間違っている、バーコードを正しく登録できていない、目視で数えて登録している(数え間違えている)などである。WMSを正しく導入すれば、倉庫管理業務の自動化や手作業による入力排除によってこうしたミスがなくなり、在庫管理の精度が向上する。WMSの導入理由として、ひときわ重要な要素だと言える。

・入庫作業の高速化
 WMSを導入することにより、入出庫の際にシステムが倉庫内のロケーションを指示するようになる。これにより、保管場所の検討などにかかる時間を削減できるため、ピッキングなど入庫作業が高速化する。

・倉庫管理業務の簡素化
 WMSにより業務自体が簡素化することにより、倉庫管理の作業を簡素化することもポイントだ。特にバーコードやICタグの活用が大きいという。企業はあらゆる在庫情報をシステムに保存する必要があり、本来は非常に煩雑な作業だが、バーコードやICタグをハンディターミナルや携帯端末などで読み込むことで、簡単に登録できる。

 コンビニエンスストアで、専門知識を持たない学生などのアルバイト店員が、ピッキング作業を支障なくこなしているのもバーコードの功績である。今後、ICタグがさらに普及すれば、自動化によってさらに簡素化することが見込まれる。

WMSに影響を与える2つの大きな流れ

 企業がWMSを利用する際に、前提となるテクノロジーの状況やビジネス要件の変化もとらえておく必要がある。影響力の大きな2つを紹介する。

・IoTを活用したスマート倉庫
 センサーを用いた荷物の追跡や在庫管理の自動化、自律移動型ロボットの導入など、IoTを活用した「スマート倉庫」の導入が今後進むと予想されている。

 アームなど半導体の大手企業は、倉庫の温度や照度を検知できるRFIDにより生鮮品の追跡などについて研究している。このように、テクノロジーの進化によって、倉庫管理の新たな在り方を模索する多数の動きがある。

・オムニチャネル
 消費者の利便性を追求するビジネスの観点からも変化が訪れている。オムニチャネルは、実店舗、ECサイト、アプリ、SNS、コールセンター、カタログなどいった販売チャネルの違いを意識せず、商品やサービスを購入できるようにする取り組みを指す。特に、力を持つスーパーマーケットなどの実店舗運営企業がECサイトを構築し、ネットでもリアルと同様の存在感を保持しようとする狙いを持つ。ネットとリアルで在庫を一元管理する必要があるため、実現のためにWMSの仕組みが求められる。

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EC市場拡大とともに注目を集めるWMS市場の動向を解説する
(Photo/Getty Images)

WMSソリューション提供企業6社比較

 米ガートナーは2022年6月1日に、WMSソリューションを提供する企業に関する最新の評価を記した「Magic Quadrant for Warehouse Management Systems」を発表している。この評価に基づいて、WMS市場のリーダーに選定された企業を紹介しよう。

ブルーヨンダー(Blue Yonder) パナソニックが2021年9月に買収を完了
マンハッタン・ アソシエイツ(Manhattan Associates) 買収に頼らない成長を続けてきた老舗
ケルベル(Körber) 複数のSCMプロバイダーが2020年に統合
SAP 想定ユーザーはSAP ERP導入企業
オラクル API経由で多くの機能をサービスとして公開
インフォア マルチテナントクラウドとしての展開を志向
WMS市場のリーダー企業(ガートナーの資料を基に筆者が作成)

・ブルーヨンダー(Blue Yonder)
 パナソニックが2021年9月に買収を完了したBlue Yonderがリーダーの1社となった。パナソニックは2022年5月に、Blue Yonderを含むサプライチェーンマネジメント事業について上場する準備があることを発表。パナソニックのエッジ技術との協業機会が増えると見込まれている。ブルーヨンダーはサプライチェーン大手として知られた旧i2テクノロジーズなどを買収した旧JDAを前身としており、最大のサプライチェーンマネジメント(SCM)スイートベンダーとして知られている。WMSのほか、TMSでもリーダー企業に位置付けられている。多くの大規模企業を顧客に持ち、AIやロボットの自動化機能にも力を入れている。

・マンハッタン・ アソシエイツ(Manhattan Associates)
 2021年の売上高で2位となった。長期間在任する経営陣が、財政的な安定と、10年以上にわたり買収に頼らない成長を続けてきたことを評価している。総合的なWMSと倉庫実行システムを提供しており、自動化された大量かつ高速な運用を支援する。

・ケルベル(Körber)
 オートメーション4社、ソフトウェアとコンサルティング8社を合わせた12のサプライチェーンプロバイダーをまとめ、2020年にケルベルブランド下で統合した。現在はすべてをクラウド形式で提供しているが、今後マルチテナントのマイクロサービスアーキテクチャに移行するビジョンを持っているとガートナーは指摘している。

・SAP
 他社と比較して最も多くのWMS顧客を抱える。S/4HANA などのSAP ERPをプラットフォームとすることに全力を尽くす企業にとって、最適な選択肢だとしている。

・オラクル(Oracle)
 歴史的に小売りと消費財業界に強く、現在リーチする業種を拡大している。WMSのアーキテクチャは、REST API経由で機能の多くをサービスとして公開しており、企業が複合アプリケーションを構築しやすくしている。一方で、他のリーダー企業と比較して、機能的に広くも深くもないと評価している。

・インフォア(Infor)
 新規のWMSの4割が既存のInfor ERPの顧客という。特に、3PL、小売り、食料品、卸売・流通業に強みを持っている。マルチテナントクラウドとしての展開を志向しているものの、オンプレミスを含めた幅広いオプションを提供している。

 ガートナーはWMS市場について、成熟市場にもかかわらずイノベーションの機運の高まりによって、2026年まで5年間の平均成長率(CAGR)が13%以上に達し、40億ドル以上の市場規模に成長すると説明している。WMSの重要性は、今後ますます高まることが見込まれている。

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