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あらゆる産業でDXが進められる中、物流業界においては「進んでいる」とは言い難い。その要因の1つは、物流DXが関係企業にとって痛みを伴うからだ。さらに物流業界は、ITやデジタルに慣れ親しんでいない人が多い。このため、単なるデジタライゼーションを物流DXと偽称し、物流企業に取り入ろうとするベンダーが見受けられる。こういった不埒なベンダーの存在は、むしろ物流企業の競争力を低下させかねない。日本のインフラを維持させるためにも、今こそ物流DXについて見直すべきだろう。今回は物流業界の実情を解説しつつ、物流DXのあり方について考える。
配送効率を上げて“激怒”されたワケ
血を流さない物流DXなどあり得ない──これは新進気鋭の物流ITスタートアップ、オプティマインド 松下 健社長の言葉である。
同社は「世界のラストワンマイルを最適化する」を掲げ、ラストワンマイルに特化した配車システム「Loogia(ルージア)」を提供。Loogiaは日本郵便が大規模導入したことで話題になったが、ほかにも宅配便事業者、LPガス配送、食品配送など、ラストワンマイル配送を担う運送会社などに導入されている。
「誤解を恐れずに言えば、Loogiaのサービスを開始した当初、物流改善ってもう少しかんたんなものだ、と考えていました」と松下氏は振り返る。
たとえば、Loogiaを導入したことで、配送効率が大幅に上がったメーカーがあった。「それは素晴らしい!」と多くの人は思うかもしれないが、実際には配送効率の向上に伴い、さまざまな問題が生じてしまったという。
配送効率が上がれば、より多くの貨物を運ぶことができるようになり、より早く荷物を届けることができるようになる。それまで午前10時30分に配送していた会社であれば、午前9時に貨物を届けることができるわけだが、これがダメだった。
「いつもと違う時間に配送に来られては困るんだよ!」と、配送先からメーカーの営業担当者にクレームが入ったのだ。当然、営業担当者は配車システムを導入した物流部門に対し、クレームを入れてくる。
「えっ、配送効率を向上させたのに、怒られてしまうの!?」と、理不尽なことのようにも思うが、これが現実である。
物流DXで誰かが“血”を流す…
クレームを入れてくるのは営業担当者だけではない。配車システムに限ったことではないが、新たなシステムや機器を導入すれば、最初は戸惑う。特に物流現場では慣れた業務プロセスではなく、新たなシステム・機器を使用した不慣れな業務プロセスを強いられることになる。
そのため、「よりにもよって、繁忙期にこんな面倒くさいことをさせるんじゃない!」と現場から怒られてしまったのだ。
まだある。貨物の輸送を依頼していた運送会社から、「なぜ、ウチの仕事を減らしたんですか!?」と詰め寄られたのだ。
たとえば配車システムでこれまでの配車計画を見直した結果、従来は1日30台のトラックで運んでいたものが、25台で配送できるようになったとする。これも配送効率向上の成果であり、コスト削減に直結する。荷主の立場からすれば喜ばしいことなのだが、仕事を減らされた運送会社からすれば、たまったものではない。
「配送効率の向上を目指した結果、これほどの多方面からお叱りを受けるとは、私どもも、お客さまも想像していなかったのです」と、松下氏は当時を振り返る。つまり、DXを進めようとシステムを導入して効率化を図ったとしても、不便に感じたり、業績が低下したりなど、どこかで血を流している者がいるということだ。
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