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  • 2023/03/02 掲載

「縦型ショートドラマ」でどう稼ぐ? 「TVで有名なタレント」ゼロでも大ヒットのワケ

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解

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「縦型ショートドラマ」という動画ジャンルがある。スマホの縦画面視聴を前提とした数分程度の実写ドラマのことだが、映画やTVドラマなどを見慣れている人間からすると、かなり「異質」だ。しかしこの縦型ショートドラマ、ものによっては数十万回から数百万回も再生されている。一体誰が、どのような動機で観ているのか。どこを面白がられているのか。制作者のビジネス上の狙いはどこにあるのか。TikTok、Instagram、YouTubeで縦型ショートドラマチャンネル「ごっこ倶楽部」を運営し、1カ月あたり20~30本のペース、2023年2月時点で約300本ものドラマを制作・投稿しているGOKKOの代表取締役・田中聡氏に、疑問をぶつけてみた。

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書は『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』。おもな編集書籍は『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著/キネマ旬報社)。「サイゾー」「ビジネス+IT」「SPA!」「女子SPA!」などで執筆中。 (詳細

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「縦型ショートドラマ」でどう稼ぐ? 「TVで有名なタレント」ゼロでも大ヒットのワケ
(出典:ごっこ倶楽部)

能動的に観ているわけではない

 「ごっこ倶楽部」の縦型ショートドラマをTikTokで何本か観てみた。総尺が短いので、徐々に盛り上げていくというよりは、いきなり核心から入る。1カットは短く、切り替えもスピーディで、とにかくテンポがいい。セリフはすべてテロップで表示され、終始BGMが鳴り続けている。

 あくまで個人的なたとえだが、ドラマ仕立ての「長めのCM」に近い印象だ。出演者のクレジットがないので確認はしづらいが、視聴した動画の中にTVや映画などでよく見かける俳優はいなかった。

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『アートフル』
(出典:ごっこ倶楽部)
 つい先日まで縦型ショートドラマというものにほとんど触れてこなかった御年48歳の筆者からすると、これらは「ドラマ」と銘打ってはいるものの、従来のTVドラマや映画とは「まったく別物」であると強く感じた。

 しかし同社によれば、ごっこ倶楽部の1動画あたりの平均再生数は100万回を超えるという。これらは一体誰に観られているのか。

「18歳以上のデータが取れているTikTokの場合、視聴者の年齢分布は18歳から24歳が50%、25歳から34歳が25%、35歳から44歳が15%、45歳以上が10%くらい。男女比は全体で5:5です」(田中氏)

 35歳以上が25%以上も視聴しているのは、少々意外だった。ただ、彼らが能動的に観ているかというと、ちょっと違う。そもそも「目当ての動画を探して観る」という行動ではないらしい。

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(出典:ごっこ倶楽部/2023年2月時点/年齢・男女比は動画ごとに変動あり)

「うちが動画を出しているのはTikTok、Instagramのリール、YouTubeショートなんですが、すべて『レコメンドが届いて観る』なんですよ」(田中氏)

 たしかに3サービスとも、「目当ての動画を検索して探し当てる」というよりは、過去の視聴履歴をもとにレコメンドされる動画を、縦方向に次々とスワイプして目視確認し、面白そうだと思ったら観る、という視聴方法が主流だ。その点、「観たい番組を狙ってチャンネルを合わせる/録画する」TVや、基本的に「観たい動画を検索する」動画配信サービスやYouTubeなどとは、まったく異なると言っていい。

そもそも若者は「TVで人気の人」を知らない

 ただ、受動的な視聴であるにしても、TVや映画では見かけない俳優が起用されている動画に、なぜこれほどまでに需要があるのか。

「そもそも若い世代には“マスの知名度”という概念がないので、上の世代が『TVで有名』と言っている人が『これ誰?』だったりします。 だから、役者さんのTVでの認知度が低いことが動画を観られない理由にはなりません」(田中氏)

 2022年末の「NHK紅白歌合戦」を思い出した。例年にも増して年長世代が「聞いたこともない歌手と曲ばかり。ちゃんとヒット曲を出した歌手を出せ」と文句を言っていたが、年長世代が触れないK-POPシーンや音楽ストリーミングサービスなどでは圧倒的な知名度や人気を誇るアーティストが、ちゃんと出場していた。知名度が世代によってまったく一致しないのが現在だ。

「役者さんに必要な資質は知名度より基本的には演技力ですが、昨今では、配信しているプラットフォーム──たとえばTikTok──で著名なタレントを起用すれば視聴者を連れてきてくれる、という潮流にはなりつつあります。その場合でも演技力は絶対に必要ですが」(田中氏)

 TVで知名度のあるタレントを起用しても、そのプラットフォーム内で認知されているタレントを起用しないと「バズる」ことにはまったくといってよいほど寄与しないという。

「著名タレントさんがダメということではないんです。TikTok上では効果が弱い、ということですね」(田中氏)

 そもそも、TVドラマの放送形態が若者の動画視聴習慣にフィットしていない。

「TVドラマは1週間に1本ですが、YouTubeをはじめとした映像配信プラットフォームには山ほどコンテンツがある。わざわざ1週間に1回の放送を待つ、みたいな考え方に若い人たちはたどり着きづらいんだと思います」(田中氏)

 だからこそ、定額制動画配信サービスの「全話一括配信」が受け入れられている。これに慣れると、「次は1週間後」に耐えられない。ただ、その定額制動画配信サービスですら、そのレコメンドは「ぬるい」と田中氏は考える。

「Netflixはレコメンドがトップ画面に一応は表示されますが、次に観たいものを探して気がつくと30分くらい経ってしまった、みたいなことがあるじゃないですか。あれは本来すごくムダな時間です。その点TikTokは、次々レコメンドされてくる動画を、面白そうならそのまま観ればいいし、つまらなそうならスワイプしてどんどん次に行けばいい。ムダがないんです」(田中氏)

TVドラマや映画と比較するのはナンセンス

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数百万回再生数するショートドラマも
(出典:ごっこ倶楽部)

 なお田中氏は1983年生まれ、現在39歳。どちらかと言えば、スマホ動画よりもTVドラマや映画に親しんだ世代ではあるが、「映画やTVドラマと縦型ショートドラマのどっちが面白いか、みたいな議論はムダ」だと考えている。

「昨年、資金調達した際に、『これ、映画より面白いの?』『地上波ドラマと比べてどうなの?』とよく聞かれたんですが、正直、最もナンセンスな質問だと思いました。そもそも種目が違う。サッカーとフットサルくらい違います。球を蹴っているという点は一緒ですが、フットサルの日本代表選手がサッカーの日本代表になれるかというと、そうではないし、逆もまた然り。

 それに、縦型ショートドラマしか観ないという人はいません。彼らは普通のTVドラマも映画も観る。だから逆に、映画やTVドラマしか観ていない人が縦型ドラマを観ないということもないはずなんです。もし観ないのなら、それは『観方を知らない』が正しいのかもしれません」(田中氏)

 スマホで読む縦スクロールのWebコミック、いわゆる「Webtoon」もそうだ。従来型コミックのコマ割りに慣れている読者の中には、ウェブトゥーンに抵抗がある人も多い。ともすれば表現物として「下」にみる人さえいる。しかし、これも「フットサルとサッカー」と同じ、別の種目なのだ。一方の読者がもう一方を受け入れられないとすれば、その理由の中には必ず「読み方を知らない」が含まれている。二者はルールが違う。流儀が異なる。

セリフはテロップ表示、10%が「2回観る」

 流儀が異なると言えば、ごっこ倶楽部の動画でセリフがすべてテロップ表示されるのも、TVドラマ慣れした者としては少々面食らった。

「イヤホン視聴している人たちの割合はまだ50%に満たないので、音を出せない場所で観る場合にテロップは必要です。ちなみに、年長世代の皆さんは結構誤解しているんですけど、TikTokは決して隙間時間にだけ観るものではありません。カウンターでご飯を食べるような飲食店に行くと、1人でご飯食べている若い子たちの8割ぐらいはスマホをさわっていますが、そこではTikTokをじっくり観ている人がとても多い。実際、データを取るとTikTokのユーザー滞在時間はすごく伸びています」(田中氏)

 意図的に「1度観ただけではわからない」作り方もしているという。

「たとえば『スマホの画面を映し込んでLINEのやり取り見せる』みたいな演出って、通常のドラマであれば、メッセージの文字が読めるようにそれなりの秒数アップにしますよね。でも我々の場合、アップで見せるは見せるんですけど、読めないぐらいの短時間で次のカットに行っちゃう。気になる人にはもう1回観てもらう。通常のTVドラマをまるまる2回観る人ってたぶん1%もいないと思うんですけど、我々の動画はおそらく10%くらいが複数回視聴しています」(田中氏) 【次ページ】何で収益を得るのか

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