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  • 2006/04/26 掲載

米国政府PMOの事例から日本の課題を探る【第1回】情報戦略ガバナンス

情報戦略ガバナンス/第1回 【ビジネスインパクト連載中】

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最近、日本政府において、PMOの導入が検討されている。PMOとは、プログラムマネジメントオフィスまたはプロジェクトマネジメントオフィスと呼ばれる組織のことである〈※注1〉。

井上潤吾

井上潤吾

ボストン コンサルティング グループ
パートナー&マネージング・ディレクター
ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)、東京大学大学院工学系修士。ボストン コンサルティング グループのアムステルダムオフィスを経て、現在東京オフィスに所属。国内外のIT関連会社や情報システム子会社を擁する金融サービス会社、産業財メーカー、電力会社に対して、事業戦略、組織、グループマネジメント、IT診断と私活用、営業ケイパビリティ構築などを中心としたプロジェクトに従事している。

日本では、主にITベンダーがQCD(品質、コスト、納期)の維持と向上を目的として社内に設置し、システムの設計から移行までの工程管理を促進したり、問題案件の救済や発生予防に向けた活動をしたりしている。

 では、日本政府が導入しようとしているPMOの定義はどうだろうか。開示されている資料を見る限り、導入目的、政府のITガバナンスとの関連、ITベンダーとの役割分担については明記されていない。民間企業のPMOと比べると、まだまだ試行錯誤の段階といったほうがいい。

 そこで本稿では、日本政府のPMOが抱える課題を明確にするために、米国政府におけるPMOの考え方を見ていくことにしよう。

米国政府におけるPMO導入目的は費用対効果の向上

 米国におけるPMOの目的は、「プロジェクトの費用対効果の向上を目指し、組織横断で、プロジェクトの優先順位を付け、管理することである。そのために標準化を推進し、全体の工程を設計し、必要な資源を割り当てること」といえる。ちなみに、上記下線部分のキーワードは、米国政府機関へのインタビューおよび『PMBOK(Project Management Body of Knowledge)Guide third edition(2004)〈※注2〉』から抽出した。
 実際のインタビューでは、「コストのオーバーランを防ぐことにより、PMO費用の何倍分もの資金を回収している」、「組織横断の業務標準化と共通のエンタープライズアプリケーションの導入によって、業務効率化と改善の効果が認識できる」といった回答が得られた。この背景には、米国政府のシステム発注において、費用対効果を重視する基本的な考え方があることはいうまでもない。

PMOの体制は政府ITガバナンスモデルそのもの

 PMOの導入目的が米国政府のシステム発注の考え方と一致しているとすれば、政府のIT管理体制とPMOの管理体制も一致しているはずである。そこで、それぞれの管理体制(ガバナンスモデル)を調査した。
 米国政府のITガバナンスモデルは、ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトの3階層で構成される。
 第1階層のポートフォリオ層は、組織全体のプログラムとプロジェクトの総和を意味する。その管理者はCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者 / IT担当役員)であり、ポートフォリオマネジャーだ。彼らのミッションは、リスクやリターン、ROI(Return On Investment:投資対効果)を見定めて、複数のプログラムやプロジェクトを総括することである。
 第2のプログラム層では、プログラムマネジャーが互いに連携するプロジェクトの集まり(プログラム)を管理する。彼らのミッションは、プログラムの責任者として複数のプロジェクトマネジャーを総括することである。政府としての意思決定は、この階層で行うため、プログラムマネジャーには、外部ではなく、必ず政府の人間が就任する。

 第3のプロジェクト階層は、個別のプロジェクトから構成される。その管理者はプロジェクトマネジャーと呼ばれ、プロジェクトの責任者として外注ベンダーの進捗管理を行い、プログラムマネジャーへの報告責任を負う。これらプロジェクトマネジャーは、必ずしも政府の人間とは限らず、外部から登用する場合もある。

PMOとITベンダーの役割分担は明確

 一方、PMOの管理体制も政府のITガバナンスモデルと同様に3階層で構成されている。PMOは、この3階層すべてのマネジメントを包含する機能といえる。
 ITマネジメントに求められる役割には、ポートフォリオマネジメント、企画、現行プロジェクトの進捗や評価、標準化/効率化の推進、システム設計/開発/テスト/移行というそれぞれの段階がある。
米国政府におけるPMOの役割は、上記ポートフォリオマネジメントから標準化/効率化の推進までであり、最後のシステム設計/開発/テスト/移行はITベンダーの役割である。さらに、米国ではモジュール別の発注を実施している例はほとんどなく、仮に発注している場合でも、モジュール別に発注したシステムの統合作業やリスク負担は、政府PMOが担うとのことである。

日本政府PMOの検討課題 役割の明確化と的確な判断

 日米政府のPMOの基本的な考え方を比較してみると、日本では二つの課題を検討すべきことが分かった。
 一つは、PMO本来の導入目的に基づく役割の再定義だ(図)。米国のPMOに倣うならば、単なるコスト削減ではなく、費用対効果の向上を目的とすべきである。また、日本政府における中長期のITガバナンスとも整合をとる必要がある。
 もう一つは、仮に日本政府がコスト削減を目的としてモジュール別発注を検討する場合には、統合責任/リスクを把握した上での判断が必要なことである。この際には、システムの規模/特性により、統合作業の困難さやリスクの大きさが異なることを十分に考えなければならない。




〈※注1〉PMOはプログラムマネジメントオフィスなのか、プロジェクトマネジメントオフィスなのか。これは、「両方とも正しい」。調査している過程においても、両方の名前が同じ内容で使われていて、意識した使い分けの基準は存在していないことが分かった。ただし、ポートフォリオやプログラムに力点を置く場合はプログラムマネジメントオフィスと呼ばれ、プロジェクトに力点を置く場合はプロジェクトマネジメントオフィスと呼ばれる傾向にある。

〈※注2〉米国プロジェクトマネジメント協会が提唱する、プロジェクトマネジメントのための標準的なフレームワーク。

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