- 2025/07/09 掲載
「競馬新聞のほうがまだ当たる」参院選、読売・朝日・日経が正反対予測の致命的実態
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
党の調査も新聞の調査も「まともに機能していない」
筆者の元には、職業柄、毎回の選挙が近づくにつれ、自民党の情勢調査とされる文書、文書を分析したという報告書が関係者から送られてくる。しかし、ここ数年、事前調査は党の調査も新聞の調査も、まともに機能していないと実感する。有権者の投票行動を事前に把握しようとする試みは、その精度を著しく低下させている。
政治状況の流動性、社会の分断、メディア接触態様の多様化が、従来の調査手法の前提を崩壊させた。特定の組織や媒体が発信する情報だけでは、もはや世論の全体像を捉えることは不可能になった。
この混乱を象徴するのが、7月3日から4日にかけて実施された参議院選挙の序盤情勢調査である。
朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞はいずれも全国規模の世論調査と独自取材を通じて、参院選の構図を分析し、それぞれの見解を提示した。
参院選は自民党と公明党による連立与党が、非改選を含めて参議院の過半数125議席を維持できるかが最大の争点となっており、3紙とも与党の獲得議席と構図の見通しに主眼を置いた報道を行った。

朝日新聞は電話とインターネットを併用し、合計9万件を超える有効回答を得た。調査方法について詳細を公開している。「過去の参院選データから予測式を作り、調査支持率から得票率を推計。誤差幅を見込んでドント式のシミュレーションを行い、獲得議席を求めた」という。こうした方法論の公開は、報道姿勢として誠実であり、非常に好感を持った。
自民党は選挙区27、比例区12で合わせて中央値を39議席とし、過半数には6議席届かないとの構図を描いた。公明党は10議席とされ、自公合計で49議席、非改選75と合わせてちょうど124議席とされた。
見出しでは「自公、過半数微妙な情勢 自民、1人区不振」と評された。朝日は野党のうち、立憲民主党が22から26議席に増加、国民民主党が改選4から10に、参政党が改選1から10へと急伸すると見積もっている。
日本経済新聞は日経リサーチによるRDD方式の電話調査で5万人超の有効回答を得たという。調査手法は固定と携帯に対する自動音声調査のみで構成され、ネット調査を一切含まない。
同調査によれば、自民党は前回63議席から「15前後減」と明記されており、推定値は約48議席と解釈される。公明党は選挙区で有力な候補が見当たらず、比例とあわせて「10議席ほど」と明記された。自公の合計は58議席で、非改選75と合わせて133。与党過半数は確実とされ、日経は見出しで「参議院選挙、自公で過半数うかがう」と表現した。実態上は、石破政権の勝利を予測したものだ。
読売新聞は、見通しを思いっきり間違えてしまった前回の衆院選に続き、今回も調査の内訳を明示しなかった。紙面には「調査は電話とインターネットで実施し、計14万537人から回答を得た」とだけあり、14万人という調査規模の大きさを強調する一方で、その数字がどのように議席予測に結びついたのか、読者にはまったく見えない。
「自民党は選挙区選で苦戦を強いられ、獲得議席が40程度にとどまる可能性がある。公明党との合計でも50議席前後」として、見出しでは「自公の過半数微妙」と評した。 【次ページ】2024年の衆院選で「大外し」した新聞社とは?
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