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  • 2006/05/08 掲載

アウトソーシングとオフショアリングの戦略価値を探る【第2回】情報戦略ガバナンス

情報戦略ガバナンス/第2回 【ビジネスインパクト連載中】

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今回は、アウトソーシングとオフショアリングについて解説したい。情報システムや業務プロセスのアウトソーシングは、10年以上前から、色々な形で実践されてきた。

井上潤吾

井上潤吾

ボストン コンサルティング グループ
パートナー&マネージング・ディレクター
ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)、東京大学大学院工学系修士。ボストン コンサルティング グループのアムステルダムオフィスを経て、現在東京オフィスに所属。国内外のIT関連会社や情報システム子会社を擁する金融サービス会社、産業財メーカー、電力会社に対して、事業戦略、組織、グループマネジメント、IT診断と私活用、営業ケイパビリティ構築などを中心としたプロジェクトに従事している。

 数年前からは、設備や業務だけでなく、人も含めて丸ごと部門を移籍するという形態も出始めたが、 最近は下火になっている。代わりに、システム部門を切り出したシステム子会社との間で出資関係を 持つ動きがみられるようになった。
人を動かすと、モチベーションの維持や労務上の問題、スキル再生など難しい問題が多い。しかし、出資関係だけを持った場合、出身会社は残るため労務上の問題は少なく、かつ、親会社からの発注も続くため収入の安定性が増すのである。
一方、オフショアリングは、中国やASEAN諸国など発展途上国で現在盛んに行われている。主な目的は、コストの低減であるが、時差を利用したスピードアップや現地のスキル人材を活用した研究開発など、情報システムの分野でも高付加価値化が進んでいる。
さらに、中国やインドなど現地の経済が急速に成長してくるにつれて、市場としての魅力度も加わり、オフショアリングから現地市場の開拓、というグローバル戦略を目指す企業も増えてきつつある。

両者の形態は異なるが目的は同じ

 アウトソーシングは、企業内で業務を行うか、外へ委託するかといった選択肢であるのに対して、オフショアリングは、自国で行うか他国で行うかの選択肢だ。アウトソーシングを受託するプレイヤーは、規模や品質面などにおいて発注先を上回っている必要がある。また、オフショアリングは、物価や賃金が安く労働力が豊富な地域で特定の業務を委託・実行するものである。
 この二つは、手段としては別であるが、目的からみると直線上にある。インパクトの大きい順から並べると、オフショアリングのアウトソーシング、オフショアリングの自前、オンショアのアウトソーシング、オンショアの自前となり、コントロールの容易さから並べると、反対になる。
 アウトソーシングの選定は、戦略インパクト、財務インパクト、事業インパクト、事業リスク、実現可能性の視点でみたときに、業務プロセスを外部へ委託できるか、という基準で判断する。

 戦略インパクトは、競合優位性や知的財産が劣化しないか、現在および将来の戦略と不整合が生じないかで判断。財務インパクトは、労働コスト、スケールメリット、建築費、材料費などの財務コストで判断する。事業インパクトは、品質改善や信頼性、新技術の適用や柔軟性、複雑性の削減などで判断する。事業リスクは、戦略、評判、ベンダー/国、オペレーションの各リスクで判断。実現可能性は、複数ベンダーの存在、ベンダー市場の成熟度と安定性、法務リスク、プロセスの成熟度などで判断する。こうした判断に基づいてアウトソーシングできるかどうかを総合的に決める。
 一方、オフショアリングの選定は、戦略における優位性の構築、追加的な財務インパクト、追加的な事業インパクト、追加的な事業リスク、実現可能性があるかという基準で行う。アウトソーシングと異なるのは、戦略における優位性の構築である。これは、オフショアリングによって、グローバル市場への参入が可能になるか、競合優位性の構築に寄与するか、現在の競合優位性の維持に寄与するか、知的財産が劇的に向上するか、知的財産における優位性が強化されるか、といった視点である。
 アウトソーシングの場合は、他社へ委託するため、戦略における優位性の構築というよりも、戦略上でネガティブなインパクトがないかどうかを判断する。

企業体質が経済価値を左右する

 アウトソーシングおよびオフショアリングを推進する主な要因としては、コスト削減、資源の確保、顧客のグローバル化への対応、特殊な技術やノウハウの吸収、本業への集中、時差を利用した業務のスピードアップなどがある。
 図に当初の年間業務コスト、外部への委託費、実際にかかる年間のコストの概念を示した。こうした経済性の評価を行うと、一時的なスイッチングコストがアウトソーシング/オフショアリングの経済価値を左右することが分かる。つまり、スイッチングコストが多くかかるような業種、組織文化、経営陣の体質などでは、当初期待していたような効果が出ない危険性がある。当然のことと思える前提条件が、実はオフショアリングやアウトソーシングを検討する企業が陥りやすいわなの一つなのだ。

 筆者の経験では、アウトソーシングをうまく使いこなしている企業はまれだ。確かに、情報システム関連の業務を外部に委託している企業は数えきれないぐらい多い。しかし、本当にアウトソーシングの価値を最大限に実現できているだろうか。丸ごと任せているだけではないだろうか。最大限に価値を引き出すためには、委託先の強み/弱みを深く理解した上で、顧客/競合/技術の動向に合わせてマネジメントの手法を改善し続けなければならない。
 また一方で、自社のさまざまなノウハウが外部に漏れるという理由で、アウトソーシングに対してかたくなに否定的な姿勢をとり続けている企業も注意が必要だ。確かにこれまでは、業界がゆるやかに動いてきたため、新たな大手競合の出現も現競合が劇的な手段をとることもなかった。
   しかし今後、業界の境界そのものがなくなりつつあり、大手競合の出現も現競合がアウトソーシングやオフショアリングで劇的な変化をもたらす可能性も十分にあるのだ。そうしたなかで、自社だけがアウトソーシングやオフショアリングはまだまだ先だ、と安穏に構えていると進化できずに死滅した“恐竜”になりかねない。戦略上、実行するかどうかは別として、少なくとも一度はアウトソーシングとオフショアリングの戦略価値を検討するべきである。

IT戦略・マネジメント
アウトソーシング/オフショアリングの経済価値

 

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