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  • 2023/04/07 掲載

自動運転実現にEVは不可欠? 両者が「相性バツグン」の知られざる理由

連載:EV最前線~ビジネスと社会はどう変わるのか

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世界の自動車メーカーは、交通事故による死傷者、重篤な傷害者をゼロにしようと志し、自動運転の実現へ向け開発を続けている。この自動運転、実現においては、電気自動車(EV)と相性がよいとされる。一体その理由は何なのか。今回は自動運転とEVの関係を解き明かす。

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

1955年(昭和30年)生まれ。玉川大学工学部機械工学科流体工学研究室卒業。1978~81年フォーミュラレースに参戦、81年にFJ1600で優勝。84年からフリーランスライター。著書29冊。一般社団法人日本EVクラブ理事。NPOトリウム熔融塩国際フォーラム会員。日本モータースポーツ記者会会員。公益社団法人自動車技術会会員。自動車を含め環境やエネルギー問題に取り組む。

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EVと自動運転の関係を解説する
(Photo/Shutterstock.com)

戦時中の空爆より多い、交通事故の死者数

 世界の自動車メーカーは、なぜ、自動運転の実現に取り組み、覇を競うのだろうか?

 交通事故原因の9割は人間の過失によると言われる。ならば、人が関わる操作を減らせば、交通事故が減少する可能性が高まる。まずは運転支援機能を普及させ、やがて自動運転が実現すれば、交通事故は大きく減少する期待があると言える。

 自動車メーカー各社は、交通事故による死亡や重篤な傷害を減らすことを企業目標にしている。たとえば、世界的に安全な車として知られるスウェーデンのボルボは、2020年に販売する新車以降、交通事故死、重篤な傷害者をゼロにする目標を掲げてきた。だが、20年での実現は不可能と知り、先延ばしにした。車の安全とは、世界有数のボルボにしてもそれほど難しい挑戦なのである。

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ボルボは交通事故死や重篤な傷害者をゼロにする目標を掲げてきた
(Photo: JR-50 / Shutterstock.com)

 一方、消費者の間では、交通事故死や重篤な傷害への意識はあまり高くないかもしれない。そもそも、いまの車は装備も充実して安全でしょう、エアバッグがあれば助かるのでしょうという、漠然とした期待が高かったり、死亡事故現場に出会う機会が多くなったりするからだ。

 しかし、戦後日本の交通事故による死亡者数は、すでに60万人を超えているのをご存じだろうか。この数字は、たとえば第二次世界大戦末期に米軍の焼夷(しょうい)弾空爆によって全国で死亡した民間人50万人を超えている。戦時でないにもかかわらず、交通事故は、それほど多くの貴重な命を奪っているのである。

 戦後の高度成長期に入り、国内でも1955年(昭和30年)頃から乗用車が普及し始めた。70年には交通事故死者数が1万6000人を超えるまでになり、この数字は、明治時代の日清戦争における兵士の戦死者を上回る勢いで、戦争と同じ状態に交通事情がなったとのことから、交通戦争という言葉が生まれた。交通の安全確保のため、歩行者と車を分離する横断歩道橋が造られ始めるのもこの時代である。

 その後、交通事故死者数はいったん減少したが、1980年代に再び増加した。70年代と違うのは、車同士の衝突による死亡者が顕著になってきたことだ。このため、90年代に車の衝突安全性能を高める機運が世界的にも広まった。

 それをけん引したのは、速度無制限区間のあるアウトバーンを持つドイツの車である。メルセデス・ベンツが衝突安全車体構造を開発したのだ。これは、車体の前後をあえてつぶれやすくし、衝突エネルギーを吸収させる。逆に客室は、堅固なつくりとして乗員を守る。この考えは現在世界の車に波及している。

 ただし乗員を衝突から守るには、車体を大きくしたり、頑丈な客室としたりするため、車両重量は重くなる。車両重量が重くなれば燃費は悪化し、環境負荷が高まる。両方の課題を同時に解決するには、どうすればいいか?

 答えは、ぶつからない車にすればよい。それが今日の運転支援機能の実用化につながっているのだ。

運転支援=自動運転ではない

 その運転支援機能については現在、より速度が高く、事故による損傷が大きくなる高速道路など自動車専用道路を主体として、前車に追従しながら車間距離を維持する巡行機能(クルーズ・コントロール)=ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が、軽自動車にまで採用されるようになった。あるいは、走行車線をはみ出さないよう走り続けるための車線維持機能も、軽自動車を含め採用が広がっている。

 これらの運転支援機能は、カメラ画像を基に車の走行状況を把握し、ほかにレーダーなども活用している。近年の車はいずれも電動パワーステアリングを装備しているので、車線をはみ出しそうになったら、モーターを利用してハンドルを自動操作し、車線をはみ出さないよう車が自分で制御するのである。

 ACCや車線維持機能だけでも、高速道路などの長距離移動でかなり疲労が軽減される。その走行感覚は、自動運転であるかのように安心であり、車に任せて走ることの快適さを教えてくれる。

 それでもまだ、あくまで「運転支援」であって自動運転ではない。

 自動運転へ向けた判定は、5段階に定められている。レベル0は、運転支援機能などがまったくなく、すべての運転操作を人間(運転者)が行う段階だ。ここが出発点になる。

 レベル1は、ACCや自動ブレーキなどが、単一で装備された段階をいう。

 レベル2は、ACCなど含め、車線維持機能など複数の運転支援機能が車載され、相互に関係し合いながら、より安全な走行を確保する段階だ。現在市販されるほとんどの車が、このレベル2の段階にある。

 安全走行を維持する機能は、消費者にしてみれば自動運転と思いがちだが、最終的に万一事故が起こった際の責任は運転者にある。したがって、車にすべてを任せた自動運転とはいわない。

 続く、レベル3~5になると、次第に運航の責任が車へ移っていく。 【次ページ】自動運転レベル3は危険?

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