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- 2023/09/12 掲載
課題山積にもほどがあるサプライチェーン対策、「全方位的業務」に必要な人物像と具体策
サプライチェーンの現代的な役割「常により良い姿の模索」
未来調達研究所の坂口孝則氏は冒頭「私はサプライチェーンを『レジスタンス』と定義したいと思います。すなわち、現状に満足することなく常により良い姿を模索していく、これがサプライチェーンの現代的な役割ではないでしょうか」と説き、昨今のサプライチェーンについて自身が感じる問題意識を語った。坂口氏は2つのトピックを示した。1つ目は、GDP比鉱物性燃料輸入額率だ。これは製造業原価率とほぼ比例している。鉱物性燃料が上がったら原価率も上がり、逆に鉱物性燃料が下がったら原価率も下がる。つまりほとんどの原価は鉱物性燃料に支配されている。この根源的問題は、日本製品の魅力が少なくなっていることを示す。
もう1つは、売上高比経常利益率推移だ。海外法人売上高と日本法人売上高を比べると、海外法人の利益率は国内に見劣りしていることが分かる。坂口氏は「海外法人が儲かっていると勘違いしている人が多いですが、海外法人はほとんど横ばいで、むしろ日本法人のほうが儲かっている」と述べた。
さらに、地域別の海外法人経常利益率を見ると、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、中南米といったリスクカントリーの経常利益率のほうがEUや米国よりも高い。
日本の商品の魅力度の低下、海外法人売上高の低下、そしてリスクカントリーの利益率の上昇といった問題意識を持ち、サプライチェーンを取り巻く環境整理をする必要があるというのだ。坂口氏はサプライチェーンの現代的な課題は「社会的要請」「CSR、SDGs」「経済・地政学影響」「テクノロジー」の4つだとし、それぞれ詳しく説明した。
下請法の運用強化やCSR、SDGsの流れとDX
サプライチェーンの現代的な課題である「社会的要請」「CSR、SDGs」「経済・地政学影響」「テクノロジー」の4つのうち、まず社会的要請について下請法の運用強化がある。これに対してサプライチェーン部門が適切に対応していくことが求められている。2022年12月27日、公正取引委員会は、下請け企業などとの間でコスト上昇分を取引価格に反映する協議を行わなかったとして、大手企業など13社・団体の名前を公表した。こうした行為は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に当たる可能性がある。下請法の対象企業だけではなく全取引先に対して「買いたたき」と認定されないよう注意が必要だ。
何万点、何十万点もの調達品をITツールなしで価格改定することは難しい。また、世の中に流通する何千何万という原材料の市況価格は刻々と上下するが、それに合わせて適正に取引することが求められる。さらに、電気代などの光熱費や労務費の変動など、サプライヤーのコストを把握していなければならない。これらを建前でなく正確に把握するために、サプライチェーンのDX化が求められている。
さらに、現代の消費者はCSRやSDGsを重視している。温室効果ガス(GHG)プロトコルでは、スコープ1を事業者自らによる温室効果ガスの直接的な排出、スコープ2を他社から供給される電気、熱・蒸気使用における排出、スコープ3を原材料の調達から、輸送・配送、販売した製品の使用、廃棄など、間接的な排出と区分している。今後、問題となってくるのが、このスコープ3の排出量だ。
「まさにサプライチェーンの調達品にまつわるCO2を算定しなければならない時代になります。そのためには、具体的にサプライチェーンの中でどのサプライヤーがどんな原材料を使っているかをDXでしっかりと押さえた上で、実質的なスコープ3の排出量を計算しなければなりません」(坂口氏)
2022年6月、米国は人権蹂躙の疑いのある中国のウイグルで生産された物品の輸入を原則として禁止した。こうした動きに、日本企業も対応しなくてはならない。CSRやSDGsに関して、今まで建前だったものが実利になってきている。CO2排出量も建前ではなく、消費者は本当にCO2排出量の少ない商品を選んだり、あるいは炭素税をかけたりという流れになっている。そのためにサプライチェーンを隅々まで管理するDXは必須だ。 【次ページ】すべての取引先を見える化し、特定地域からの調達をリスクヘッジする
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