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- 2023/09/13 掲載
キャッシュレス社会に“取り残された”医療機関、他業界より圧倒的に普及率が低いワケ
なぜ?医療機関のキャッシュレス決済は「蚊帳の外」
Q.クリニックや病院ではいまだクレジットカードなどに対応していないことが多く、会計の時に金額が大きいと、手持ちがなくて、「銀行に走る」ことがあります。どうして医療機関はキャッシュレス対応ではないのでしょうか?
A.2019年10月の消費税の引き上げに際して、前回引き上げ時に景気が後退したという教訓から、クレジットカードなどのキャッシュレス決済を利用した消費者に対し、購入額の5% あるいは 2%分をポイントやキャッシュバックで還元する「キャッシュレス・消費者還元事業」(ポイント還元事業)を政府が打ち出しました。
この施策に対して政府は、「キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上を目的」と説明しており、働き方改革の1つの施策とも考えていました。結果として、中小・小規模事業者(個店)を筆頭に一気にキャッシュレス決済が普及していったのです。
しかしながら、この還元事業は、そもそも消費税のかからない保険医療機関(保険請求をする病院・診療所)、保険薬局、介護サービス事業者などは、同事業の対象から除外されていたのです(これらの事業者の消費税の引き上げ分の補填は、2年に1回行われる診療報酬改定によって別途手当てが行われていたためです)。
キャッシュレス決済導入の「最大のネック」とは?
ではなぜ、キャッシュレス化は進まないのでしょうか。キャッシュレスが進まない原因はいくつか挙げられます。まず、医療機関を受診する多くの患者が高齢者であることです。高齢者は若者に比べ「現金主義」であり、キャッシュレスにまだ馴染みがありません。そのため、クリニックの院長は「うちの患者は高齢者ばかりだからキャッシュレスのニーズはそれほどない」と思っているのです。
また、都心部と地方部の違いも考えられます。飲食店などでも都心部ではキャッシュレスが進んでいますが、地方部はそれほど進んでいません。その構図が医療機関にもそっくり当てはまると思います。地方に行けば行くほど、キャッシュレスはまだ流行っていないと感じているのかもしれません。
Q.キャッシュレス決済が発生するごとに加盟店が決済手数料を負担しなければならないと聞いたことがあります。手数料の問題も大きいのでしょうか。
A.そうなんです。都心部のクリニックの院長でも、キャッシュレス決済の導入についてお聞きすると、「約3%台の手数料がもう少し下がればぜひ導入したい」と話されます。手数料の高さが導入のハードルとなっていたのです。
しかしながら、キャッシュレス社会に取り残されてしまった医療機関に対して普及を進めようという動きも出てきています。最近では、この手数料も医療機関を対象とした特別割引が実施するケースも見られるようになり、1%台後半という場合も出てきています。手数料は3%という時代は終わりつつあるのです。
また、この手数料の考え方は、医療機関にとっては少し事情が異なるように感じます。それは「自己負担」の問題です。日本の医療サービスは、7割を保険から支払われ、3割を自己負担分として、医療機関に患者が直接支払う制度(社会保険方式)をとっています。
そこで、医療機関では、この手数料は自己負担分にのみにかかるため、仮に手数料が売上金全体の3%と考えると高額に感じますが、患者の自己負担分(3割、2割、1割)にかかるものと考えると、それほど高くは感じないのではないでしょうか。
3割負担であれば売上の3%ではなく、売上の0.9%であることがわかります。(たとえば、1万円の売上では、患者の自己負担は3割で3000円ですから、手数料は90円となります)。
このように、医療機関にとって導入のネックであった手数料が下がってきていることから、医療機関でもキャッシュレスが進みやすくなってきているのです。 【次ページ】少しずつ進む日本のキャッシュレス化
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