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- 2024/07/30 掲載
なぜ、マスク氏はトランプ氏に高額献金?米大統領選で起きるハイテク業界の駆け引き
トランプ氏は仮想通貨の規制撤廃を打ち出した
米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領は、2024年7月に行われた共和党全国大会で正式に候補者指名を受けた。同大会で採択された共和党綱領は、大統領選における事実上の公約となるものだが、その内容はハイテク業界にとって驚くべきものだった。トランプ氏は、以前から中国に対する関税をさらに引き上げるとともに、日本など友好国からの輸入に対しても関税をかける方針を表明していた。移民排斥についても以前から強く主張しており、両者が公約に盛り込まれたことは想定の範囲内だったと言える。またトランプ氏がEV(電気自動車)嫌いであることも有名な話であり、EV支援策の撤廃や石油・天然ガスの採掘推進についても大きな驚きはない。
優秀な移民を積極的に人材登用し、EV化にも積極的なハイテク業界とトランプ氏の親和性は低く、多くのハイテク企業が民主党支持を表明するケースが多かった。だが、ここに来て状況が変わりつつある。その理由は、大統領選の公約にビットコインに関する規制撤廃という驚くべき内容が盛り込まれたからである。
共和党大会に先立ってトランプ氏は、ハイテク業界が主催するイベントに出席し、仮想通貨の規制撤廃について言及していた。半信半疑だった国民も多かったが、党綱領に正式に盛り込まれたことに加え、党大会後にも再び「アメリカをビットコイン超大国にする」と発言したことで、仮想通貨の各種規制が実際に撤廃される可能性が高まっている。
米国政府をはじめ、各国の通貨当局は基本的に仮想通貨に否定的であり、中央銀行以外の機関が通貨をコントロールすることについて警戒心を示してきた。一方で、全世界で通貨が過剰供給されていることに懸念を示す投資家も多く、当局が管理しない通貨を望んでいる。
一方で財務長官には反仮想通貨の人物の起用を検討
現在、仮想通貨業界は厳しい規制下での運用を余儀なくされており、業界と当局のすったもんだの議論の末、2024年1月にようやくビットコインに連動する上場投資信託(ETF)が承認された。金融商品化が実現したことで、投資家はビットコインを直接保有せずに投資できるようになったが、強固な規制に縛られている状態に変わりはない。だが、トランプ氏が大統領に返り咲くシナリオが現実味を帯びたことで、仮想通貨をめぐる状況も変わる可能性が出てきた。もっともトランプ氏は、基軸通貨としての米ドル維持を強く主張しており、これは仮想通貨の規制緩和とは矛盾する側面を含んでいる。
トランプ氏はこれまでも、相互に矛盾する政策を打ち出すことがよくあり、政策の整合性については考慮に入れない人物として知られる。仮想通貨業界はトランプ氏に多額の献金を行っており、トランプ氏は実利的に物事を判断した可能性が高い。
仮想通貨についてはもうひとつ重要なニュースが報じられている。それはトランプ氏が財務長官としてJPモルガン・チェースCEO(最高経営責任者)のジェイミー・ダイモン氏を起用したいとの意向を示したことである。ダイモン氏は金融業界の重鎮だが、かねてからビットコインには否定的な見解を示しており、一時はビットコインについて「詐欺であり、政治的権限があれば仮想通貨業界を閉鎖する」とまで発言していた。
もっとも最近のダイモン氏は「個人的にはビットコインは買わないにしても、ビットコインを買う権利は守られるべき」と態度を軟化させており、政権入りの可能性が濃厚になったと思われた。ところがトランプ氏は7月23日になって、「ダイモン氏の起用ついて考えたことも言ったこともない」と自信の発言を全否定し、金融業界は大混乱に陥っている(ダイモン氏起用の発言は米紙とのインタビューでトランプ氏自身が行ったものであり、記事が完全に捏造でない限り、トランプ氏が虚偽の発言をしているか、自身の発言に認識がないのかのどちらかである)。。確かに事態は流動的であるものの、基本的に規制の方向一辺倒だった状況に変化が生じる可能性が高まってきたことだけは間違いない。 【次ページ】EV王のマスク氏が何とトランプ氏に巨額献金
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