- 2025/05/02 掲載
Skypeなぜ完全終了? Zoom圧勝の裏でマイクロソフトが仕掛ける「超本気の戦略2つ」(2/2)
Skype撤廃でわかる「プロダクト戦略の転換」
マイクロソフトがSkypeを廃止し、Teamsへユーザーを誘導する背景として、コンシューマー向けOSやOfficeなど生産性ソフトを売り切り型で販売する企業から、法人顧客向けのクラウドサービスや生成AIをSaaSで提供する企業に生まれ変わったプロセスと切り離せない。マイクロソフトがSkype廃止を決めた翌年の2022年におけるセグメント別売上(図3)を見ると、WindowsやOfficeなどの割合が減少し、代わりにクラウドなどSaaSが明確に伸びている。ここ数年では、これにビジネス向けのAIサービスCopilotが加わり、同社はますますBtoB型の会社へと脱皮している。

コンシューマー向けの印象が強かったSkypeと違い、サティア・ナデラCEOの下で法人型機能が基盤のTeamsへと軸足が移され、さらにすべての製品にAIを組み込む方針が定まったことで、マイクロソフトの企業アイデンティティはビジネスに特化したクラウド企業へと変化した。
打倒Zoom、本気の「AI戦略」
Skypeはチャットや通話が主軸であったのに対し、TeamsはマイクロソフトのOffice製品との融合やAI戦略の基盤として、拡張性を念頭に構想・設計された。マイクロソフトの企業アイデンティティが変化する中で、コンシューマー向け分散型P2P通話プラットフォームとして出発したSkypeが、ビジネス向けAIクラウド型コミュニケーションプラットフォームのTeamsに取って代わるのは必然であったというわけだ。こうした中、後継のTeamsが市場シェア1位のZoomを巻き返せるかが、今後の焦点となろう。Teamsの強みは、法人顧客をしっかりと掴んでいることもある。
Teamsは、米フォーチュン誌が毎年発表する米国における売上高が最も高い上位100社のうち、93社で採用されている。そのほか、800万の米国企業がTeamsを社内コミュニケーションに使っており、既存の機能に加えてAI機能やセキュリティ強化を追加した1ユーザー当たり75ドル(約1万750円)のTeams Premiumのライセンス数は300万を超える。
だがマイクロソフトのビジネス向けAIは、与えられたタスクを正確にこなせない場合が多いと指摘される。さらに、事実とは異なる、あるいは文脈と無関係な内容の回答を返すハルシネーションが多く見られ、爆発的な普及を見るに至っていない。
これに目をつけたのが、ライバルのZoomだ。同社のチーフプロダクトオフィサーであるスミタ・ハシーム氏は2024年9月のイベントで、「弊社のAIコンパニオン2.0は、サードパーティーによるマイクロソフトのCopilotとの比較試験において、音声書き起こしの間違いが36%も少ないことが示されたほか、会議の要約の間違いも15%少なかった」と胸を張った。
法人ユーザーが「TeamsのAIよりもZoomのAIが頼りになる」と認識すれば、マイクロソフトが立てたTeamsによるビジネス市場制覇の計画が揺らぐ。もちろん、マイクロソフトも手をこまねいているわけではなく、Correctionと呼ばれる正確性補正の機能を追加するなど、対策を強化している。
コミュニケーションプラットフォームという分野を切り拓いた先駆者のSkypeが廃止された今、同分野で後継を争うTeamsとZoomの競争は激化しており、AI機能でいかにより大きな価値を提供できるかが、ビジネス市場の覇者を決定するかも知れない。
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