グラフの「1つのポイントの原則」
前回、表やグラフを使わない図解表現についてお話ししましたが、今回は「1枚企画書」に盛り込むグラフの表現法について解説します。
といってもグラフ単体についていうなら、「1枚企画書」とそうでない複数枚の企画書では、表現方法に大きな違いがあるというわけではありません。
例で説明すると、都心の商店街では旧来の店が次々となくなって、ハンバーガーやコーヒーショップなど大手外食チェーンのものが相対的に多くなっているとします。それがどのくらいの割合で、どう推移しているのかを調べて企画に活かそうとするなら、数値をわかりやすく視覚的に表す必要があります。そこで活躍するのがグラフで、図1はそうしてでき上がった「1枚企画書」です。
ここで注目してほしいのは、グラフ上に赤の矢印を斜めに引いてあるという点です。つまり、このグラフは単に「数値を形あるものに置き換えただけのもの」ではなく、
どうしてそのグラフが採用されたのか(旧来からある店の実情)、そして
何を一番に強調したいのか(新規出店との推移の比較)を示すという明確な理由があって採用されたものだということです。
そうした見せ方をすることによって、この企画書は
提起した問題について何らかの解決を目指しているものだと一目で理解してもらうことができます。逆に言うと、せっかくグラフを入れ込んだのに目的が明確でないものに対しては、相手は「どうしてこのグラフをここに入れたのだろう」と疑問を感じてしまうだけだということです。
つまり、グラフというのは数値に関するいろんなことを言いたいのではなく、こと企画書に限っていうなら、たったひとつのこと(たとえば新旧の著しい変化など)を主張したいがために必要とされるのです。これを私は
グラフの「1つのポイントの原則」と呼んでいます。
もう一度「1枚企画書」を見てみましょう。中央の上のほうに、下向きの大きな矢印があり、そこに「旧来の店が急速に減少! 」と書かれています。つまりこれが「1つのポイントの原則」の1つのポイントで、それをわかりやすく指摘したのがグラフに書き込まれた矢印である、という見せ方になっているのです。
企画書にグラフを盛り込むときの考え方を、3点で列挙するとこうなります。
1.適当なグラフの選択
2.強調ポイントの指示
3.強調ポイントについてのコメント
「強調ポイントの指示」はあえて入れないこともありますが、企画書のグラフというのは、ある明確な目的があるからこそ入れる価値があり、それを強調してわかりやすく説明してこそ親切な企画提案と見てもらえる、ということを確認しておきましょう。
複数のグラフを盛り込むメリット
ふつうPowerPointで作成される箇条書き型の企画書と「1枚企画書」の大きな違いは、もちろん後者がたった1枚で完結していることにありますが、もっと言うと、連載の
第1回でも指摘したように
相互の関連性を1枚の紙の上で示すことができる点にあります。
1つの企画で採用するグラフというのは1点のみとは限りません。
図2の企画書例の左上のグラフは、アルコール飲料市場におけるビールの出荷情況の推移を他の飲料と比較したもので、その下には、ビール業界内でのシェアの変化を表したグラフを並置してあります。これら2つのデータで現状を再確認し、それを打破すべきものとして「新発想の新提案」を行おうというのがこの企画書のコンテクスト(文脈)です。
もしこれと同じ内容を複数枚の企画書で書き表したとしたなら、だいたい5枚くらいを要してしまいます。
そうなるとプレゼン中に、3枚目に掲げたグラフが1枚目のグラフと相互に関連性があると指摘したいとき、「前々ページに戻ってそちらをご覧ください」と指示しなければなりません。企画書というのはふつう数枚綴りになっているので、お互いのデータを見比べるにはページをめくって何度も見返すことを強いることになります。
それが「1枚企画書」だと、「上記のグラフが他のアルコール飲料と比較したここ6年間の出荷量の比較ですが、ビールの需要が年々低下しているのがわかります。しかも下記のようにトップ3社に対して当社の占めるシェアもここ3年伸び悩んでいることもご覧のように明らかです」と、1枚のなかで説明することができ、見る側でも視線を上下に移動させるだけですみます。
企画書というのは企画内容が良く、見せ方がうまいということも重要な要素ですが、このように
余計なストレスを省いてあげることもそれと同じくらい大切なことなのです。