- 2025/10/08 掲載
じゃらんも楽天トラベルももうオワコン? グーグルが仕掛ける「AI旅行革命」(2/3)
じゃらんも楽天トラベルももうオワコン? 日本でも始まったAI旅行革命
グーグルだけでなく、世界中の旅行検索サービスがAI活用に動き出しており、日本での展開も加速しつつある。たとえば、グローバル旅行アプリのスカイスキャナー。同社は7月22日、日本で「スマートサーチ」と呼ばれる新しいAI機能の正式提供を開始した。
このツールも、旅行への漠然とした願望を具体的な提案に変換する能力を持つ。「自然に囲まれてのんびり過ごす旅」「夜景がキレイで美味しい食事が楽しめる30歳の誕生日旅行」といった感覚的な要望を検索窓に入力すると、AIが内容を解析し、最大3つの旅行先を提案する仕組みだ。
ChatGPT技術を活用したこの機能は、スカイスキャナーのアプリ限定で利用可能。提案される旅行先にはイメージ画像と詳細な説明が付随しており、それぞれの場所が持つユニークな特徴や魅力が直感的に理解できる。気になる場所を選択すれば、そのままフライト検索機能へ移行し、最適な航空券の比較・予約へと進める流れとなっている。
実際の活用例を見ると、AIの理解力の高さがうかがえる。「旅行先で人の温かみを感じたい」と入力すれば、フレンドリーな地元の人々で知られるポルトガル・リスボンや、日本の京都、ベトナム・ハノイを提案。「お手頃な価格で海外旅行をしたい」なら、韓国・ソウル、台湾・台北、タイ・バンコクが候補に挙がり、台北については「往復1万5,740円~」という最安価格まで表示される。
スカイスキャナーのピエロ・シエラ最高製品責任者によると、世界中の旅行者の半数以上が特定の目的地を決めずに同サービスを訪れているという。さらに興味深いのは、AI活用率の地域差だ。日本では24%と世界平均程度だが、インドでは実に84%ものユーザーがAIを活用しているとのこと。
スカイスキャナーは毎日1000億件以上の価格検索を処理し、1200社以上の旅行パートナーと連携している。この膨大なデータベースとAIの組み合わせにより、ユーザーの感性に寄り添った旅行提案が可能になった。
検索から予約まで、OTAを脅かすAIの「本当の凄さ」とは?
こうしたAI旅行検索の進化は、従来の旅行予約の仕組みを根底から揺るがしつつある。業界関係者の間では、グーグルの「AIモード」が旅行流通に与える影響について、「オンライン予約が始まって以来の最大の変革」との声も上がっている。最も懸念されるのは、検索から予約までの流れが一気通貫になることだ。これまでユーザーは、グーグルで検索した後、オンライン旅行代理店(OTA)のサイトに移動して予約していた。
しかし新しいAIモードでは、検索インターフェース内で直接予約まで完結する可能性がある。グーグルのGemini APIとProject Marinerを通じて、AIがユーザーに代わってレストラン予約やチケット購入、さらには航空券やホテルの予約まで実行できるようになるというのだ。
旅行データ大手OAGは、この変化は単なるUI改良ではなく、1兆ドル規模のグローバルEコマースの構造を書き換えるものと説明している。旅行ブランドにとって「検索可能」であることはもはや十分ではなく、「AIが推薦するに値する構造化された権威あるコンテンツを持っているか」が問われる時代に突入するという。
もちろん日本の大手OTAであるじゃらんや楽天トラベルもこうした影響を受ける可能性は高く、いわば「オワコン」になりかねない危険性はある。
ただし、業界関係者の見方は分かれている。ホテル大手Accorのジュリー・ホワイト氏は、グーグルが「マーチャント・オブ・レコード」(販売責任者)の役割を引き受けるとは考えにくいと指摘。顧客サービスや返金処理、旅程変更といった煩雑な業務は、引き続き予約代理店が担うだろうと予測している。
一方で、AI時代に生き残るためのOTAの戦略も見えてきた。Kayakのマティアス・ケラー氏は、ブランドの価値と既存顧客基盤の重要性を強調。「デパートと個人商店の違いのようなもの。ユーザーがKayakを選ぶ理由、すべての旅程が保存されている利便性など、独自の価値提供が鍵になる」と述べている。
EYは、AIの民主化により誰もが新しいアイデアを開発・実行できるようになると予測。観光業界では、パーソナライゼーション、業務自動化、コミュニケーションの高度化という3つの領域でAI活用が進んでいるという。特に、AIチャットボットの導入により、従来のリスト表示に代わって対話型のインターフェースが主流になりつつある。こうしたAIによる変化の積み重ねが、旅行産業構造の変革要因になる可能性が指摘されている。 【次ページ】AI旅行検索の意外な課題とは?
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