• 会員限定
  • 2008/09/29 掲載

クラウドコンピューティングでハードウェアも所有から利用へ--野村総合研究所 城田真琴氏

キーパーソンが語る「SaaS」の未来とその可能性

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
2007年10月に『SaaSで激変するソフトウェア・ビジネス』(毎日コミュニケーションズ)を上梓するとともに、海外の最新事情にも明るい野村総合研究所の城田氏に、SaaSの本質とサービス選択時の基準、最新の動向について話を伺った。さらに昨今注目を集めつつあるクラウドコンピューティングとの関係や将来性についても言及いただいた。

求めるメリットによって変わる
サービスの選択基準

城田真琴氏

野村総合研究所
情報技術本部 技術調査部 主任研究員
城田真琴氏

IT動向のリサーチと分析を行うITアナリスト。大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て2001年、野村総合研究所に入社。専門は、SaaSのほか、SOA、オープンソース、BIなど。

──まず最初に、SaaSが置かれている現在のポジショニングをどのように考えていらっしゃるか、お話しいただけますか?

 ソフトウェアの機能を、インターネット経由でユーザーに提供するという基本的なコンセプトは変わりません。しかし、そのサービスを支えるアーキテクチャには根本的な違いがあると考えています。従来からあるASPでは、ユーザー企業に個別のサーバを割り当て、アプリケーションコードもユーザー企業の要求に応じてカスタマイズされたものが使われていました。ユーザー企業ごとに個別のアプリケーションとサーバ環境を割り当てる、マルチインスタンス・シングルテナントと呼ばれる仕組みです。それに対してSaaSでは、複数のユーザー企業でサーバ環境を共有し、全ユーザー企業が同じアプリケーションコードを使用するシングルインスタンス・マルチテナントというアーキテクチャを採用しています。システムを複数のユーザー企業で共用することで、スケールメリットを出しやすいのが、SaaSの大きな特徴と言っていいでしょう。

 SaaSが注目を浴びているのは、システムをすべて自前で構築し、所有するよりも利用するという方向にユーザーの志向が変化してきている表れだと思います。野村総研の調査によれば、企業が現在利用中のシステムの約半数はスクラッチ開発されたものです。パッケージソフトが約4割なのでその次に多いわけです。現状ではASP/SaaSは5%にも満たない少数派です。しかし今後の動向を調べると、スクラッチ開発が減ってASP/SaaSの利用が増えるだろうと答えたユーザーが4割を超えています。

──SaaSの受け止め方は、企業の業態や規模によって違いがあるのでしょうか?

 大企業と中小企業でのメリットには大きな違いがあると思います。中小企業の場合、SaaSの利用メリットとして、初期コスト削減や日々の運用管理の手間が不要であることを挙げています。また、柔軟な利用ができることに魅力を感じる企業もあるようです。使いたいときだけ使い、不要になればやめられるということです。

 大企業にとっては、すぐに使えるということが最も大きな魅力のようですね。また、ユーザー側で自由に設定を変更できるのも魅力の1つのようです。SaaSならある程度のカスタマイズは、ベンダーに依頼せず自社のシステム部門や現場で対応できます。さらに大企業が感じるもう1つの魅力は、コンプライアンスへの対応です。日本版SOX法も施行され、システム担当者はコンプライアンス対応に心を砕いています。信頼できるSaaSベンダーにシステムをアウトソースできれば、企業の負荷はかなり軽減できます。

──中小企業と大企業で求める要件がそれだけ違うと、導入の際にチェックすべきポイントも変わってきそうですね。?

 もちろん、選択の基準は大きく違うと思います。たとえばコストメリットを優先する中小企業の場合は、冒頭で紹介したようなアーキテクチャの部分をまず確認すべきです。サービスがシングルインスタンス・マルチテナントになっていなければ、低料金にはなりにくいからです。シングルテナントのサービスを低料金で提供している場合には、サービスの継続性に不安が残ります。運用負荷の低減が要件であれば、ブラウザ以外にクライアントソフトをインストールしなければならないサービスを避けるといいでしょう。柔軟な利用ができるという点に魅力を感じる場合は、最低契約期間についてのチェックを欠かさないようにしましょう。中には1年や2年という期間を設けているものがあります。

 大企業の場合によく聞かれるのは、社内の既存システムと連携させたいという要望です。そういった要望を持っている場合は、SaaSのアプリケーションと自社内のアプリケーションがどのように連携できるか、たとえばAPIが公開されているかといったポイントをチェックしなければなりません。自社でカスタマイズしながら運用したい場合は、カスタマイズ可能な範囲をしっかり調べましょう。タブの名称を変更できるという程度から、ワークフローやデータモデルの拡張までできるサービスもあります。コンプライアンス対応もプロバイダによって違いがあるポイントですから、18号監査やSAS70をクリアしているかどうか、事前にチェックしておくといいでしょう。

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

Cloud Security Day 2024

企業の経済活動の中心がWeb上へと移行しクラウド化が加速している中で、今やクラウド活用は企業の成長に欠かせない「インフラ」になっています。その一方で、急増するサイバー攻撃によりクラウド環境のセキュリティ対策の必要性がますます高まっています。 事業成長の拡大を図る中で、クラウドセキュリティ対策は多くの企業にとって避けては通れないどころか”最重要優先項目”となってきています。 そこで、本イベントでは、AWSに精通したメンバーによる「事業の成長に繋げるためのこれからのAWS セキュリティ」をテーマに語ります。 異なった企業規模・業種・事業フェーズにおいて、それぞれどのような優先順位・組織体制でセキュリティ強化に対応していったのか、AWSをどのように活用したのか、直面した壁や課題をどう乗り越えていったのかなど実際の事例をもとに赤裸々にお伝えいたします。 企業のミライに繋がるこれからのセキュリティを築いていくためのエキスパートたちのベストプラクティスを大公開! セキュリティ管理者、サービス・プロダクト開発を担当している方、IPOを目指している企業の方、AWSの構築や運用の担当している方などにお役に立てる情報が満載です。 ぜひこの機会にご参加ください!

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます