• 2025/11/25 掲載

サントリーにアサヒ…「やらかし連発」の飲料メーカー、陰で笑う「あの存在」とは(2/2)

連載:大関暁夫のビジネス甘辛時評

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新浪ショックに続いた「アサヒショック」とは

 新浪氏に関しては、会長退任後も週刊誌やWebメディアなどで、ここぞとばかりに過去の醜聞が続々報道されるに至り、「新浪スキャンダル」がサントリーの商品売上にどの程度の影響を及ぼすのか、巷で話題に上っていました。

 そんな最中に、「新浪スキャンダル」を吹き飛ばす大事件が飲料業界で発生しました。

 アサヒが深刻なサイバー攻撃被害にあったのです。

 アサヒでシステム障害が起きたのは今年9月29日のこと。これにより国内での受注と出荷が停止して、主要工場の稼働を見合わせる事態に陥りました。

 今回サイバー攻撃は、身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」によるものだといいます。暗号化でデータを利用できなくして、復旧してほしければ身代金を支払えという強迫手口です。

 このランサムウェア攻撃では、2024年に出版大手のKADOKAWAがターゲットとなって、顧客情報の流出や同社が運営するニコニコ動画がサービス停止し、約2カ月間利用できない状況が生じました。またアサヒと相前後して、ネット通販大手のアスクルもまたランサムウェアに侵され、業務休止に追い込まれています。

年末商戦「影響必至」の事情

 KADOKAWAのケースでは、同社がたまたま動画システム次期バージョンの開発を進めていたことから、その公開を前倒しする形で復旧につなげたようで、比較的早期に正常化できた模様でした。それでも復旧には約2カ月を要しています。

 アサヒGHDの場合には、サイバー攻撃から1カ月たった現在でも、ストップしている受注出荷システムの正常化は依然見込めない状況にあり、主力酒類で出荷が再開できた品目数は全体の1割にとどまっていると報道されています。現場では、社員による電話、ファックスとExcelによる手作業での受注に切り替えて、人海戦術によるアナログ対応が続いているようです。

 入荷ストップや商品薄状態など、酒小売店や居酒屋などの飲食店への悪影響は当然のこと、さらに深刻なのは、ビール業界が年末の歳暮商戦を目前に控えているということです。大丸や三越が、お歳暮用アサヒビールの販売休止を決めたとされることです。その影響の拡大が懸念されています。

 また、例年年末商戦で売上が急増するオンライン販売も、システムが正常に機能できる状況にはなく、年末年始の書き入れ時を前にその影響は計り知れないほど拡大の一途をたどっている様相なのです。

ライバルへの影響規模は「意外な結果」に?

 この“アサヒサイバー被害”の影響により、ライバル各社がアサヒからの乗り換え受注で特需に沸いているのではないのかと考えがちですが、実際は必ずしもそうではないようです。

 というのは、大手ビール、飲料メーカーの工場は作りすぎによる無駄在庫を生じさせないよう入念に考えられた計画的生産を基本としており、急激な受注の増加に対応した供給体制の変更はすぐにはできないというのが実態のようです。さらに樽生ビールに関しては、短期間での増産自体が難しく、飲食店向けの対応は十分に応えきれていないのです。

 従って、アサヒ以外の大手3社は通常時の想定を超える受注が一気に押し寄せたものの、お得意先を中心とした安定供給を優先するために、既存商品に出荷制限を掛けるとともに、年末発売予定だった新商品のリリースを見合わせるなど、想定外の対応に追われている模様です。関係者からは、アサヒのシステム復旧が近いのか遠いのか見通せない中では安易に増産体制には踏み切れない、と緊急対応の難しさに対する困惑の声も上がっていると報じられています

 しかし、ビールの販売シェアは確実に動いているようで、報道によれば日経POSによる全国のスーパーなどでの販売情報では、システム障害発生からわずか1週間で、アサヒの個数シェアは6.9ポイント低下して30.4%になる一方、キリンは8.9ポイント上昇して37.2%となり、キリンがアサヒをシェアで逆転しているといいます。

【最大のライバル】「あの企業」への影響は?

 上記の報道によると、小売店販売はビール総販売量の約7割を占めているとのことで、すでにシェア争いへの影響は出始めつつ、前述のような事情もあってタイムラグが生じるであろう飲食店向け販売シェアもまた、徐々に逆転に向かえばシェア全体を大きく変えかねない状況にあると言えるでしょう。

 ビール業界大手4社のシェア争いに関しては、昭和の時代に最高シェア60%超を誇り順位逆転は不可能とまで言われていたキリンが、スーパードライの登場で驚異的にシェアを伸ばしたアサヒに1988年に遂に抜かれています。その後は両社の抜きつ抜かれつがあったものの、現状ではアサヒがシェア30%台後半で1位、キリンが30%台前半で2位、近年急激にシェアを伸ばしているサントリーが15%前後で3位、長期低迷のサッポロが10%前後で4位という状況にあります。

 サッポロは業界4位が定位置となる長期業績低迷から、アクティビストからの要請によって稼ぎ頭の不動産事業をやむなく売却する運びになっており、イメージ面でのプラス材料は見当たりません。

 「新浪スキャンダル」があったサントリーは前述の早い対応とアサヒの「サイバー被害」もあり、イメージダウンは最小限に抑えられたとはいえ、やはりマイナス要素は否定しきれないのではないかと見受けられます。

 そう考えると、アサヒ「サイバー被害」を巡るビール業界シェア争いでは、やはり元王者で“無傷”のキリンが有利なのかもしれません。

 余談ですが、アサヒのサイバー攻撃について、犯行声明を出したのは「Qilin」を名乗るグループです。日本語読みは、なんと「キリン」。単なる偶然なのか、あるいはアサヒにとって一番のライバル企業の名を借りたタチの悪いジョークなのか。いずれにせよ、アサヒのシステムが早期に復旧して、正々堂々のシェア競争に一日も早く戻ることを切に望みます。

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