- 2025/12/06 掲載
AWSがAIエージェントを全面強化、独自AI半導体「Trainium 3」による三層戦略の狙い(2/2)
AWS半導体「Graviton5」「Trainium3」による“三層戦略”
AWSはAIエージェントやリアルワールドAIの基盤として、自社設計の半導体を強化する姿勢を明確にした。今回発表した「Graviton5」と「Trainium3」は、それぞれ汎用処理とAI演算を担う新世代のチップであり、両者を組み合わせることで計算基盤の最適化を図る構造だ。クラウド運営において、計算能力の確保とコストの抑制は避けて通れず、AWSは自社半導体による垂直統合を進めている。AIの進展はGPUへの依存を高め、調達コストがクラウド事業者の収益を圧迫してきた。AWSはこれに対抗する形で独自チップの性能向上を急ぎ、学習と推論の運用コストを抑える方針を強める。
特にTrainium3は、複数チップを組み合わせた大規模構成が可能で、AIモデルの巨大化に対応できる点が特徴だ。企業にとっても、AI活用に伴うコスト上昇を抑えられるメリットがある。
三層戦略とは、汎用CPUの「Graviton」、AI推論を担う層、AI学習を担う層の3つをAWSが一体的に設計し、運用面で効率化する取り組みを指す。
これにより、クラウド内部の計算資源配置を柔軟に制御でき、サーバー群全体の消費電力も抑えられる。生成AIが主役となる時代において、インフラ側での効率化は競争力を左右する要素だ。AWSは自社チップによって差別化を図り、価格競争から脱却する構図を描く。
AWSが描く2030年のITインフラロードマップ
これはあくまで筆者の考えだが、クラウド市場で進むマルチクラウド化・ハイブリッドクラウド化とは異なり、AI時代の到来は逆に“再集中化”を進める可能性がある。大規模なAIモデルは計算資源とデータの一体管理を前提としており、複数クラウドでの分散利用はかえってコストを増やす局面が生まれる。AWSはこの点を意識し、AIモデル、データ管理、半導体、エージェント基盤を垂直統合する戦略を強めている。
2030年に向けて、企業がどの計算基盤を選ぶかは経営判断の重要なテーマとなる。AI活用の高度化に伴い、基盤選択での失敗は業務効率だけでなく競争力全体に影響する。
AWSはクラウド内に幅広いサービス群をそろえることで、企業が必要な機能を単一基盤で完結できる環境を整えつつある。この一体型モデルこそが、再集中化を促す大きな要因となる。
他方、企業が特定クラウドへの依存を強めることへの懸念も根強い。データ主権やコスト透明性の確保など、検討すべき課題は多い。生成AI後の世界では、クラウド事業者が提供する価値は従来以上に高度化し、企業の競争戦略に直接結びつく。AWSが描く計算地図の全体像をどう読み解くかが、企業の次の成長を左右する可能性が高い。
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