• 2009/01/19 掲載

杉原 佳尭の「ICTによる選挙新時代」(1)なぜオバマは選挙に勝ったのか(2/2)

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日本で進まない“選挙のICT化”

 2009年は、日本でも選挙イヤーである。衆議院選挙は間違いなく10月18日までにあり、千葉県知事選挙などをはじめ、すでに一部で盛り上がりを見せている。

 日本で選挙対策というと、地盤(じばん)、看板(かんばん)、そしてカバンの3つがある。地盤とは、基礎票であり、親戚、縁者、後援者そして、支援組織や団体などで、その組織票のことを指す。看板とは、知名度であり、政党からの公認などもこれに含まれ、浮動票を取るための1つの手段であると考えられる。また、選挙運動とは、浮動票を固定票に変える作業である。そのために必要なのが、カバンつまりお金である。

 選挙にはお金がかかるという。しかしそれは、有権者を買収するために掛かるのではない(そんなことをすれば、公職選挙法により罰せられる)。選挙にお金がかかるのは、知名度を上げるためである。知名度が高ければ高いほど、浮動票が固定票に転換され、当選につながるからである。その知名度を上げ、有権者の共感を得る作業を政治活動と言い、選挙運動の前では、政策提言などもある意味、有権者の共感を得るための手段でしかない。

 それでは、知名度を上げ、有権者の共感を得るためには具体的にどのようにすれば良いだろうか。この点、直接触れ合う機会を持つことが手っ取り早い。 駅立ちや街頭演説、盆踊りや運動会などの地域のイベントは、絶好の機会だろう。ただ、直接触れ合う機会を持つのは、どうしても人数が限られてしまう。小さな自治体の首長や議員ならまだ可能だとしても、国会議員や知事では到底行えるものではない。

 もちろん、有権者の目に触れる機会を増やすためにテレビ・新聞・マスコミに登場すると言うのもある。実際、昨今の知事にはテレビのタレント出身の有名人も多い。しかし、マスメディアに取り上げられることは、「誰でも」というわけにはいかない。

 そこで、登場するのが「個人メディア」というわけだ。政治や選挙における個人メディアとは聞き覚えの無い言葉かもしれないが、後援会入会のしおり、議会便りをはじめとする後援会報、政治団体の新聞、後援会の看板などである。

 しかし、この個人メディアには、実は大きな障害がある。それは、発信しつづけると、莫大な費用がかかるということである。たとえば標準的な衆議院の選挙区では30万世帯に個人メディアを発信する必要があると言われる。その印刷代や配布費用負担は莫大で、たびたびできるものではない。そこで、影響範囲が大きく、費用が比較的廉価なインターネットメディアの可能性がクローズアップされているのである。

 しかしながら、インターネットメディアにはまだまだ数多くの問題が山積している。インターネットが使えない高齢の有権者をどうするのか、また洪水のようにあふれるインターネットの情報の中でその候補者のサイトをどのように知らせるのか、掲示板などを設置した際に書き込みなどの第三者の事実に即さない、あるいは、心無い情報をどのように制限するのか、著作権やプライバシー、そもそもそれが公職選挙法に抵触していないかなど、数え上げれば切りがない。現状、ブログやホームページといった比較的簡易な取り組みしか見られないのはこうしたことが背景にある。

 さらに、政治学な視点でみると、対象となる影響力の範囲が大きくなればなるほど、メッセージを単純化する必要性が生じる。たとえば、争点を白か黒に限定したり、大衆が認識しやすいステレオタイプに落とし込む必要性も生じる。この点、オバマ新大統領は「Change」というキーワードをうまく駆使していたが、実は時として個人メディアとしては矛盾する傾向も見て取れるのである。

 ICTをどう政治・選挙に用いるのか、それは、まだ模索の段階である。今後、デジタルサイネージなどによる新しい選挙ポスターや、インターネット広告やSNS、そろそろ導入の始まる無線ブロードバンド(WiMAX)などにより、政治家の生の姿、メッセージを有権者の手元まで届けるようになれば、選挙カーで走り回るあのスタイルが大きく変わるかもしれない。

 ビジネスツールとしてのICTは、極めて有効になりつつあり、しっかりとしたビジネスモデルさえあれば、一挙に花咲くこともある。同様に、選挙事務や政治献金の利便性や透明性の向上、有権者のマーケティング活動、そして、投票の利便性の向上にICTが役立つことは間違いない。しかし、こちらは「透明性の高い方が、評判が上がる」「投票率が高ければ当選する」と政治家自身のマインドセットが変わることが前提であり、従来の日本の選挙には見られなかったものだ。

 今後、本連載では、ICTを通して政治・選挙がどう変わるのか、そしてそれに対して国民はどのように受け止めていくべきかを考えてみたい。

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