- 2026/08/16 07:10 掲載
「叱ると人は育つ」は幻想か…研究で見えた危険な副作用と「注意指導」4つの基本(2/3)
叱ることで“快感”を得る、脳の危険な仕組み
叱ることによって得をするのは、叱られる側ではなく、叱っている側だという指摘もあります(注6)。叱ったり、相手のできていない点を指摘したり、指導したりすると、脳内でドーパミンが出て「気持ちよさ」を覚えるからです。このメカニズムは、脳画像研究によって裏づけられています。PETスキャンを用いた実験では、ルール違反者に制裁を与えるとき、脳の「報酬系」と呼ばれる領域が活性化することが示されました(注7)。つまり、「誰かを正す」行為そのものが、脳では快感として処理されるのです。
これには、2つの心理的メカニズムが関係しています。
- 影響力行使による自己効力感の上昇:相手のできていない部分を指摘できる=自分は優位に立っている、と認識することで自己効力感が上がる
- 処罰感情の充足:ダメな相手を望ましい方向に促しているのだという自負に、快感を覚える
このメカニズムは、喫煙や飲酒への依存と類似した心理的なループが働くとも言われており、一度始まると抜け出しにくくなります。ケンタッキー大学の研究(注8)は、報復・制裁行動のときに活性化する脳の部位が薬物依存と共通していることから、「依存症の治療モデルを攻撃的言動にも応用すべき」と論文内で述べています。叱ることが習慣になりやすく、やめにくいのは、意志の問題ではなく脳の構造的な問題でもあるのです。
「叱ると人は育つ」という幻想に加え、「苦労しないと人は成長しない」もまた幻想です。苦労しなくても、人は十分に成長できます。むしろ、しなくていい苦労はさせないほうが、精神的余裕を保ちながらモチベーション高く仕事できる傾向にあります。
「今日も叱られるかもしれない」「怒られるかもしれない」と常に頭に置きながら生活すると、それだけで脳のリソースを消耗してしまい、他のことが手に付かなくなるからです(注9)。ストレスにさらされると、判断・集中・記憶を担う前頭前野の機能が急速に低下することも、多くの研究で示されています(注9)。
成長を促すために本当に重要なのは、何よりも安心して働ける環境をつくることです。そして、相手が進みたいキャリア像を明確にし、今の仕事がそれとどう関わっているのかを言語化することです。そうすると自然と主体性が育ち、モチベーション高く仕事に取り組めるようになります。
それでも「叱るべき」3つの場面とは
叱ることは基本的にネガティブな影響が大きいのですが、もちろん、叱ることが問題ない場面もあります。それは、次の3つの場面です。- 誰かの命を助けるためである場合(特に緊急時)
- 相手が人権侵害行為を行った場合(誰かを傷つけた、あるいは傷つける恐れがあった場合)
- 相手が不正行為・犯罪行為・深刻な規則違反行為をした場合
たとえば、下記のような場面です。
誰もが「それはやってはいけないことだ」と明確に同意できるような行為をやった人には、毅然と叱る。これをしないと、「それは絶対にやってはいけないことなのだ」という規範を示すことにつながらないからです。逆に言えば、そうでない人・場面では、「叱責」という選択肢は基本的に手放す。この切り分けが求められます。 【次ページ】不適切な発言は、なぜ「その場」で止めるべきなのか
- 建設現場で動いている重機に向かってぼーっとしながら歩いていく従業員に対し、「何やってるんだ!危ないだろ!」と叱る
- 同僚のことを「デブは仕事もできないんだなあ」と馬鹿にした従業員に対し、「容姿をいじるのはやめなさい」と叱る
- 会社のお金を着服した従業員に対し、「自分のしたことをわかっているのか!」と叱る
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