- 2026/08/16 07:10 掲載
「叱ると人は育つ」は幻想か…研究で見えた危険な副作用と「注意指導」4つの基本(3/3)
不適切な発言は、なぜ「その場」で止めるべきなのか
叱りすぎはNGですが、叱るべき場面で周囲が「見て見ぬふり」をすることも、大きな悪影響を及ぼします。不適切な行為に対して周囲が何も言わないと、その行為に「無言の承認」を与えてしまうからです。その結果、「この職場ではこの行為は許される」という認識が広がり、行動がエスカレートする危険があります。実際に、差別的発言を咎めなかったり、セクハラ的な冗談を笑い飛ばしたりすると、その後の差別的発言が増えることが、複数の研究で示されています(注10・11)。他者が差別的意見を自由に表明しているのを見ると、自分も抑制する必要がないと感じて、差別的言動が増える傾向にあるのです。
そのため、周囲がすべきことは、たとえ些細な冗談に聞こえたとしても、相手を傷つける言動を行った人に対して、必ず「そういった発言はしてはいけない」と注意することです。「相手を傷つける可能性が1ミリでもあるなら、些細なからかいや冗談も絶対に許さない」という姿勢を打ち出し、早い段階で止めに入ること。それが、組織内のハラスメントの深刻化や連鎖を食い止めることにつながります。
多くの人は自分の発言をすぐ忘れてしまうので、「その場で」言うことが大切です。職場として理想的なのは、お互いに気になったことを対等な立場で指摘し合えることです。気を付けるのはお互い様であるという気持ちがあれば、不満をためすぎることもなく、健全な職場がつくられやすくなります。
信頼関係を壊さない「注意指導」4つの基本
注意指導を行う際には、相手に必要な改善を促しつつ、信頼関係を壊さないことが大切です。適切な対応をとるには、以下の4つのポイントを意識すると良いでしょう。- 決して人格否定はせず、行動だけに焦点を絞る
- 注意指導で最も重要なのは、「その人がした行動」だけを問題にすることです。「○大卒のくせに」「そのくらいわかるだろうが、馬鹿か」といった言葉は、行動ではなく人格や属性への攻撃であり、それ自体がハラスメントに該当する可能性があります。
たとえ正当な理由から注意を始めたとしても、途中で人格否定の言葉が混じった瞬間に、叱る側の正当性は大きく損なわれます。「あなたがした○○という行動は、△△という理由で問題だ」というように、具体的な行動とその影響に絞って指摘することを徹底する必要があります。
- 注意指導で最も重要なのは、「その人がした行動」だけを問題にすることです。「○大卒のくせに」「そのくらいわかるだろうが、馬鹿か」といった言葉は、行動ではなく人格や属性への攻撃であり、それ自体がハラスメントに該当する可能性があります。
- 短時間で終える
- 1つの問題行為に対する注意は、5~10分程度で終えるのが望ましいです。1つの行為に対し、長時間にわたって一方的に叱り続けることは、業務上の必要性があるとしても「相当性」(社会通念上相当な範囲)を超えていると判断される場合があるからです。
また、長時間の叱責は、相手を委縮させるだけで行動変容にはつながりにくいことも、研究から明らかになっています。端的に、具体的に、そして短く。これが有効な注意指導の基本です。
- 1つの問題行為に対する注意は、5~10分程度で終えるのが望ましいです。1つの行為に対し、長時間にわたって一方的に叱り続けることは、業務上の必要性があるとしても「相当性」(社会通念上相当な範囲)を超えていると判断される場合があるからです。
- その場は「注意だけ」で終え、対応策の話し合いは別日に
- 注意した後、そのままの流れで「では今後どうするか」という対応策の話し合いに移ってしまうと、最初に行った「注意」の印象が薄れてしまいます。相手の中で「注意された」という事実が、その後の建設的な対話の記憶に上書きされてしまうからです。
注意はあくまで注意として完結させ、「今後の対応については、改めて時間を取って話し合いましょう」と伝えるにとどめましょう。注意と対話を別の機会に切り分けることで、それぞれの目的が明確になります。
- 注意した後、そのままの流れで「では今後どうするか」という対応策の話し合いに移ってしまうと、最初に行った「注意」の印象が薄れてしまいます。相手の中で「注意された」という事実が、その後の建設的な対話の記憶に上書きされてしまうからです。
- 褒めない、過剰に労わない、笑顔で行わない
- 注意指導の場では、場の空気を和らげようとして「いつも頑張ってくれているのはわかっているんだけどね」「本当によくやってくれているよ」などの言葉を添えたり、笑顔で話しかけたりしてしまうことがあります。しかし、こうした言動は指摘内容の深刻さを薄め、相手に「それほど大きな問題ではない」と受け取らせるリスクがあります。
注意すべき場面では、落ち着いた、しかし真剣なトーンで、率直に伝えることが適切です。
- 注意指導の場では、場の空気を和らげようとして「いつも頑張ってくれているのはわかっているんだけどね」「本当によくやってくれているよ」などの言葉を添えたり、笑顔で話しかけたりしてしまうことがあります。しかし、こうした言動は指摘内容の深刻さを薄め、相手に「それほど大きな問題ではない」と受け取らせるリスクがあります。
以上の4点を意識した注意ができれば、相手の尊厳を守りながら、行動変容を促す適切な対応が可能になります。不適切な言動にきちんと声を上げること、それが「この職場ではハラスメントを絶対に許さない」というメッセージを繰り返し発信することにつながり、健全な社会的規範の醸成につながります。そして、そのような規範が一度根付けば、その職場では、ハラスメントの芽が自然と育ちにくくなるのです。
| 注1) | 永田良太 & 三崎千尋. 子どもへの言葉かけに関する研究:「ほめ」と「叱り」に着目して. 学校教育実践学研究 11, 37-44(2005). |
| 注2) | 阿部晋吾 & 太田仁. 中学生の叱られ経験後の援助要請態度 ──自己愛傾向による差異──. 教育心理学研究 62, 294-304(2014). |
| 注3) | 遠藤由美, 吉川左紀子 & 三宮真智子. 親の叱りことばの表現に関する研究. 教育心理学研究 39, 85-91(1991). |
| 注4) | Saito, M., Tokuno, S. & Tsuno, K. The relationship between performance feedback from supervisors and subordinates’ work engagement among employees in elderly care facilities: structural equation modeling. Ind. Health 61, 329-341(2023). |
| 注5) | Mase, K.ほか. Impacts of being scolded at workplace on psychological distress among Japanese employees: A crosssectional study. Environ. Occup. Health Pract.(2026) doi:10.1539/eohp.2025-0009. |
| 注6) | 村中直人.〈叱る依存〉がとまらない.(紀伊國屋書店, 東京, 2022). |
| 注7) | de Quervain, D. J.-F.ほか. The neural basis of altruistic punishment. Science 305, 1254-1258(2004). |
| 注8) | Chester, D. S. & DeWall, C. N. The pleasure of revenge: retaliatory aggression arises from a neural imbalance toward reward. Soc. Cogn. Affect. Neurosci. 11, 1173-1182(2016). |
| 注9) | Arnsten, A. F. T. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nat. Rev. Neurosci. 10, 410-422(2009). |
| 注10) | Blanchard, F. A., Crandall, C. S., Brigham, J. C. & Vaughn, L. A. Condemning and condoning racism: A social context approach to interracial settings. J. Appl. Psychol. 79, 993-997(1994). |
| 注11) | Ford, T. E., Boxer, C. F., Armstrong, J. & Edel, J. R. More than「just a joke」: the prejudice-releasing function of sexist humor. Pers. Soc. Psychol. Bull. 34, 159-170(2008). |
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