- 2026/09/18 06:10 掲載
オリンパスはなぜ10年以上も損失を隠せた? 約960億円を“飛ばし”た驚きのカラクリ(2/3)
「飛ばし」で隠し、のれんに化けた損失
第三者委員会の報告書によれば、経営トップらは、金融商品会計基準の適用に合わせて「自社が抱える金融資産運用損を簿外に分離する損失処理スキーム(飛ばし)」を考えました。簿外とは、この場合、オリンパスの連結決算に映らない場所のことです。連結決算(親会社と子会社などを1つのグループとしてまとめた決算)に取り込まれない受け皿ファンドへ、含み損を抱えた金融資産を、時価ではなく簿価で売却するのです。簿価100億円・時価40億円の資産を簿価の100億円で引き取らせれば、売却損は出ず、オリンパス本体の決算書から含み損は見えなくなります。
報告書は、受け皿ファンドの購入資金には、自社の預金を担保とした銀行からの融資金などが充てられていたと認定しています。つまり、損失が消えたのではありません。会社が資金面で支えたまま、決算書から見えない場所へ移しただけなのです。
しかも、飛ばした先の金融資産は「ほとんど無価値」と報告書は認定しており、いつかは受け皿ファンドの穴を埋めなければなりません。そこで使われたのが、M&A(企業買収)でした。
オリンパスは、英国の医療機器メーカー・ジャイラスの買収(約2,117億円)に絡み、FA(買収の条件交渉などを助言する専門家)への報酬などとして、報告書が「常識を超えた巨額のフィー」と呼ぶ資金を支払います。また、国内のベンチャー3社を総額約734億円で買収し、2009年3月期に約557億円の減損処理をしました。
報告書はこの構図をこう説明しています。通常よりはるかに高額な買収代金やFA報酬の支払いを装って、資金を受け皿ファンドに流し込む。その支出を連結貸借対照表上の「のれん」に計上し、10~20年間かけて少しずつ費用にしていく(償却する)仕組みだった、と。要するに、損失の穴埋め資金を、買収代金やFA報酬の支払いに見せかけて受け皿ファンドへ流し込んだのです。
「のれん」とは、買収の対価が、買収先の識別可能な資産・負債を時価で数え直した正味の額(のうち取得した持分に対応する額)を上回った部分のことです。たとえば会社の全株式を100億円で買収し、時価で数え直した正味の純資産が60億円なら、単純化すれば差額の40億円がのれんです。
相乗効果や将来の収益力への期待など、個別の資産としては切り分けられない部分を表すものとして、資産に計上されます。のれん自体は通常のM&Aでも生じる正常な勘定科目です。日本基準では、その効果の及ぶ期間(20年以内)にわたって規則的に償却し、収益性の低下などの兆候があれば、所定の判定を経て簿価を切り下げます(減損処理)。
オリンパスの場合は、この仕組みが逆手に取られました。損失の穴埋め資金を「買収コスト」に見せかけてのれんに変え、償却や減損を通じて、過去の運用損失を後の年度の費用へと置き換えていったのです。
こうしてオリンパスの決算書は、実態より大幅にきれいに見えていました。証券取引等監視委員会(市場の不正を調べる金融庁の機関)の告発によれば、2007年3月期の純資産は実際には約2,322億円だったのに、約3,448億円と記載されていました。約1,126億円の水増しです。
損失隠しは、2000年前後のスキーム構築から2011年の発覚まで、実に10年以上にわたって続いたのです。
「経営中心部分が腐っており」第三者委員会が断じた統治不全
第三者委員会の報告書には、経営の状態を厳しく批判した、よく知られた一文があります。「経営中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成ともいうべき状態であった」
損失隠しは、社長・副社長ら経営トップと、本来は取締役の職務執行を監査する立場であるはずの常勤監査役の主導で、その周囲の一部幹部によって秘密裏に行われました。報告書は「取締役にはイエスマンが多く、取締役会は形骸化していたと認めざるをえない」とし、問題案件が15分程度の会議で処理されていたことも指摘しています。さらに疑念を提起した社長を解任してしまう。その経緯そのものが、取締役会のチェック機能が働いていなかったことを物語っています。
ルールが整う前に膨らんでいた巨額の含み損。それを連結の外へ飛ばし、さらにM&Aの支払いを装って、中身の見えにくいのれんへと置き換えた二段構えの手口。そして、止めるべき取締役会の形骸化。10年以上も隠し通せた理由は、この3つの重なりにありました。
その後、東証は2012年1月、オリンパス株の上場維持を決定し、内部管理体制の改善を特に求める「特設注意市場銘柄」に指定しました。同年には金融庁が、決算書に重要な虚偽がないかを独立した立場から監査する役割を担っていた新日本・あずさの両監査法人に対し、監査法人交代時の引き継ぎの不備などを踏まえ業務改善命令を出しています。
2013年6月に特設注意市場銘柄の指定は解除され、同年7月、東京地裁は菊川剛元社長に懲役3年(執行猶予5年)、山田秀雄元常勤監査役・森久志元副社長にもそれぞれ執行猶予付きの有罪判決、法人としてのオリンパスに罰金7億円を言い渡しました。
事件が突き付けた「社外の目」の必要性
これまで見てきた粉飾の手口や開示の問題に加えて、オリンパス事件が鮮明にしたのは、「トップが主導する不正を、誰が止めるのか」という企業統治(コーポレートガバナンス)の弱さでした。報告書の公表当時、すでに会社法改正の議論が進んでおり、報告書自身も社外取締役の選任義務付けなどの検討に言及しています。その後、オリンパスを含む一連の企業不祥事も背景の1つとなって制度整備が進みます。
2014年に成立した改正会社法(2015年施行)では、対象となる上場会社等が社外取締役を置かない場合、「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明する仕組みが導入されました。2015年には、上場会社の企業統治のあり方を示す原則集であるコーポレートガバナンス・コードの適用も始まります。
さらに2019年の会社法改正(2021年施行)では、対象となる上場会社等について、社外取締役を置くこと自体が義務になります。独立した社外の目で経営を監督する。オリンパス事件は、この考え方を制度として強める必要性を、社会に突きつけたのです。 【次ページ】医療に集中、再生への道…どん底から過去最高益へ
財務会計・管理会計のおすすめコンテンツ
財務会計・管理会計の関連コンテンツ
PR
PR
PR