• 会員限定
  • 2009/09/30 掲載

クラウドの導入検討は時期尚早か?今、企業が考えるべきクラウド・ガバナンス--ITR 冨永裕子氏

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
クラウド・サービスの導入について、アイ・ティ・アール(以下、ITR)シニア・アナリストの冨永裕子氏は「企業は、エンタープライズITベンダーに加え、プレゼンスの高まるコンシューマーITベンダーの活用も本格的に検討する時期に来ている」と指摘する。冨永氏にオンプレミスとクラウドの違い、プライベート・クラウドとパブリック・クラウドの違いについてそれぞれ解説いただいた。

丸山隆平

丸山隆平

経済ジャーナリスト。1972年日刊工業新聞社入社、以降88年まで第一線の経済・産業記者として活躍。経団連、NTT、通産省、郵政省、労働省、東京商工会議所、各記者クラブ所属、米国特派員を経験。情報通信、コンピューター・ソフトウエア産業草創期から取材。コンピューター・OA、情報通信、経営問題関連の執筆・著作多数。1989年から投資家向け広報(IR)コンサルタントとして内外の企業IR・PRをサポートしている。

クラウドサービスの導入済み、導入予定は合わせて5%にとどまる

アイ・ティ・アール シニア・アナリスト 冨永 裕子氏

アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
冨永 裕子氏

──海外市場でのクラウドサービス導入の現状について教えてください。

冨永 ITRと提携している米調査会社Forrester Researchが、北米・欧州の2,700社を対象として行った調査によると「クラウドサービスを導入済み」の企業はまだ3%で、「12ヵ月以内に導入予定企業」を合わせても5%にとどまっています。また、「導入済み」、「導入予定あり」、「関心がある」と回答した“積極派”を対象に、「どのような分野にクラウドサービスを利用したいか」を尋ねたところ、データベース、Webサーバ、Webベース・アプリケーション、メールなどが指摘されています。

図1 北米・欧州市場に見るクラウドサービス導入の現状


──日本の企業はどうでしょうか?

冨永 ITRの「IT投資動向調査2009」(調査対象410社)からみると、「クラウド・コンピューティングの利用」そのものの重要度は最下位になっています。ただし、関連する「仮想化技術の導入」「ASPサービス・SaaSの利用」と合わせると、重要度は第2グループとなり、実施率も高く、今後伸びていくと予想されます。

図2 「IT投資動向調査2009」に見るクラウド関連技術の現状


クラウドサービスの価値は「コア業務に集中できる」こと

──現在、経済環境は厳しい状況が続いており、ユーザー各社は新規投資に極めて慎重な姿勢をとっています。その中でクラウド・コンピューティングに経営層が求めるものは何でしょうか

冨永 最大の関心事はコスト削減です。ユーザー単位で毎月の利用実績に基づき課金されるという経済性が、クラウドサービスの価値です。また、短時間で技術導入が可能な点、高度な基盤をユーザー自身が管理する必要がないこと、自社の経営に応じて柔軟な契約形態が選べることなどをクラウドサービスの価値として挙げることができます。これらをまとめて一言で言うと、クラドサービスのユーザーにとっての価値は「コア業務に集中できる」ことでしょう。

 クラウドサービスとはIT分野の管理を外部に委託するアウトソーシングの一種だと考えることができます。クラウドサービス・モデルと従来からあるオンプレミス(社内所有)・モデルが財務に与える影響の比較を下表に示しましたが、“持たない”クラウドサービスをうまく使えば、ROA(総資産利益率)の改善も見込めます。

オンプレミス・モデルクラウドサービス・モデル
支出タイプ資産計上の対象となる支出と費用処理する支出の両方費用処理する支出
キャッシュフローサーバソフトウェアの事前購入が必要サービス提供開始時点から支払いが発生
財務リスク投資に見合うリターンが不確実な場合でも、開発完了後に支払いが発生毎月の支払い時に、利用実績相当分の支出が発生
P/L(損益計算書)への影響システム資産の減価償却費の計上と毎年の保守費の計上保守費の計上
B/S(貸借対照表)への影響多年度にわたり、ハードウェア資産とソフトウェア資産を計上(資産を持たないため)影響なし
出典:ITR,2009

──オンプレミスとクラウドを比較すると、コストの点では具体的にどのような違いが出てきますか

冨永 クラウドサービスではセットアップやカスタマイズの初期費用をかなり安価に抑えることができます。また、使用料金が変動的で、ユーザー数、トランザクション量に応じて費用が決まるため、これまでのオンプレミスの利用状況を精査してコストメリットが出る支出計画を決めることができます。

 ただし、クラウドサービスには課題も残されています。まず、セキュリティに対するユーザー企業の心理的な不安があり、これを払拭することが課題です。そのほか、ユーザー企業が期待しているサービスレベルが保証されないこと、クラウドの“向こう側”にあるデータの安全性やベンダーの選択肢が限られていること、社内のIT部門が効果的な統制を効かすことができない資産が存在することなどの課題があります。また、簡単にスタートできる反面、IT部門に関係なくユーザー部門で始めてしまうこともあり得ます。クラウドサービスはアウトソーシングの一形態と言え、ユーザー側でサービス品質をコントロールできないという根本的な問題も残ります。

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

Cloud Security Day 2024

企業の経済活動の中心がWeb上へと移行しクラウド化が加速している中で、今やクラウド活用は企業の成長に欠かせない「インフラ」になっています。その一方で、急増するサイバー攻撃によりクラウド環境のセキュリティ対策の必要性がますます高まっています。 事業成長の拡大を図る中で、クラウドセキュリティ対策は多くの企業にとって避けては通れないどころか”最重要優先項目”となってきています。 そこで、本イベントでは、AWSに精通したメンバーによる「事業の成長に繋げるためのこれからのAWS セキュリティ」をテーマに語ります。 異なった企業規模・業種・事業フェーズにおいて、それぞれどのような優先順位・組織体制でセキュリティ強化に対応していったのか、AWSをどのように活用したのか、直面した壁や課題をどう乗り越えていったのかなど実際の事例をもとに赤裸々にお伝えいたします。 企業のミライに繋がるこれからのセキュリティを築いていくためのエキスパートたちのベストプラクティスを大公開! セキュリティ管理者、サービス・プロダクト開発を担当している方、IPOを目指している企業の方、AWSの構築や運用の担当している方などにお役に立てる情報が満載です。 ぜひこの機会にご参加ください!

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます