「頻繁な打ち合わせ」という分業のデメリット
前回は、比較優位に基づく分業の威力がITを導入しても変わらず、マネージャーは、どんな場合でも、キーボードに向かうような資料作りをしないほうがよいことをみてきた。だが、この例では、分担された業務と業務との間に必要な調整(=コーディネーション)のための機会費用が考慮されていない。
どんなに統制の行き届いた組織であっても、分業が仕事の「分担」による「協働」である以上、各業務間にはそれらをコーディネートするための何らかのやり取り(=コミュニケーション)が必要だ。つまり、ある目的を持った組織内の分業には、作業を「分ける」だけでなく、それらを「束ねる」という二面性があるのだ。
「分ける」という側面にだけ焦点を合わせると、比較優位に基づく分業はいつでも威力を発揮する。しかし「束ねる」という側面に光を当てると、分業のデメリットも浮かび上がる。分担された職務の1つ1つは分業で効率的になっても、その一場面だけでは全体がどのように進行し何を達成しようとしているかが見えにくい。それを補い全体の成果を高める鍵が職務間の調整=分業のコーディネーションだ。職務間の調整に必要な時間と労力は情報費用のひとつといえるが、その仕組みこそが各社固有のしきたりや社風を作り上げる。
分業を細かく多段階にすればするほど、単純化、特化、専門化、機械化などが威力を発揮して効率化するが、その間を調整するための費用も高まっていく。これは、会議や打ち合わせが多過ぎて、本務に専念できないと嘆く企業人が直面する分業のデメリットだ。会議や打ち合わせは、情報の非対称性(=通信的不確実性)をなくすためのひとつの手段だが、度が過ぎると「人に任せるくらいなら自分でやったほうがよい」という状況に陥り、それはとりもなおさず「分業しないほうがよい」ということを意味する(
図表1)。