• 会員限定
  • 2011/01/20 掲載

【新春特別号】IT化とグローバル化の潮流変化を読む:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(26)

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
TPP(環太平洋経済連携協定)を巡る政策論争から社内公用語として英語を採用する動きまで、日本でもこのところグローバル化の機運が一段と高まっている。今回は、新春にふさわしく、やや長期の時間軸で情報化(=IT化)の潮流を振り返りながら、それをとりまくグローバルな政治・経済の枠組みの変貌を俯瞰して、2011年がどのような年になるのか、思いを巡らせてみよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

平和の配当がもたらした「IT革命」と「グローバル化」による産業構造の変化

 日本経済が停滞に陥ったのは、冷戦が終結し、情報化とグローバル化が本格化した1990年代以降のことだ。今からちょうど20年前の1991年は旧ソ連が解体し、20世紀初頭に現れた社会主義という壮大な「仕組み」が崩れ去った年でもある。一見するとITには無関係と思えるこの出来事が、実は、今日に至る情報経済の歩みにも深く影響している。第一に、冷戦終結による「平和の配当」で技術開発に関わるヒト、モノ、カネなどの経済資源が軍事関連から民生部門のIT関連にシフトしたこと、第二に、旧社会主義諸国が市場経済へ移行したことによって、人口比で2割程度に過ぎなかった市場経済圏が一気に広がったことだ(図表1の左)。

photo
図表1 1990年の世界の人口(左)と一人当たりGDP(購買力平価)(右)

(出典:Angus Maddison Historical Statisticsより作成。西欧圏にはオーストラリア、ニュージーランドが含まれる)

 コンピュータやインターネットなどのITは、軍事関連での取り組みが技術開発の大きな原動力であったことは否定しようがない。世界最初の電子式コンピュータについては諸説あるが、そのひとつとされるENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)は、砲撃兵器の弾道計算を目的に開発され、インターネットの前身であるARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)は、旧ソ連の核攻撃に備えて、有事の際にも全体がダウンしないようなネットワークの開発を目的に進められたものだ。

 こうした背景で発展してきたITが1990年代に経済領域で開花したのは、冷戦終結にともなう技術資源の軍民転換(Defense Conversion)が米国でドラスティックに起きたからに他ならない。米国のGDPに占める国防支出の割合と民間企業投資の割合を1990年と2000年で比較すると、前者は2.2%ポイント低下し、後者は逆に2.0%ポイント上昇しているが、そのうち1.8%ポイントがIT投資で占められている。

 1992年に発足したクリントン政権の下で「情報ハイウェイ構想」が掲げられ、IT分野の将来性が脚光を浴びたことも手伝って、ヒトの面では国防関連から新興ハイテク企業へ技術者の移動が、モノの面ではIT関連の企業投資やR&D投資が、カネの面ではベンチャー・キャピタルなど民間資金の流入がわき起こったのだ。

 しかも、その活動舞台は、グローバルに拡がった。冷戦が終結した当時の世界総人口53億人のうち、いわゆる西側陣営で市場経済に属していたのは、日本、米国、西欧、豪州に東南アジア諸国を含めて約12億人で、全体の4分の1以下であった。そこへ旧社会主義経済圏が新たに「市場化」したわけだが、これらの国々は人口規模が大きい(当時の中国は11億人、インドは8億人、旧ソ連・東欧は4億人)反面、一人当たり所得はかなり低い水準にとどまっていた(図表1の右)。

 重要なのはその経済的な影響だ。新たに市場化した経済圏の安くて豊富な労働力をうまく活かせば、大きなビジネス・チャンスが生まれる。実際、1990年代をふり返ると、パソコン製造・直販のデルや小売大手のウォルマートなど、ITを駆使してグローバルに拡がるサプライ・チェーンを巧みに構築した企業が事業を急拡大させた。

 その一方で、新たな課題も突きつけられた。「冷戦に勝利」した先進諸国は、価格競争の激化に直面し、より付加価値の高い産業構造への転換が迫られたのだ。新しく市場経済化した国々からふんだんに供給される領域にヒト、モノ、カネを張り付けていたのでは、賃金が同じ水準に引き寄せられてデフレ圧力がかかり続ける。これを国際経済学では「要素価格均等化定理」というが、この陥穽(かんせい)にはまらないためには、ネクスト・マーケットに向けて経済資源をシフトさせることが不可欠だ。

 今話題の電子書籍やスマートフォンをみてもわかるように、ハードウェアの製造だけでなく、デザインや操作性などを考案するアイデアとハードウェアに搭載するアプリケーションやコンテンツといった上位レイヤー・サービスのクリエイティブな活動が一段と重要性を増している。これは、連載の第11回でみたように、梅棹忠夫(1963)が約50年前に展望していたことだが、冷戦終結後のグローバル化でその潮流が一段と加速したようだ。

【次ページ】大型バブルの連鎖と情報化の大潮流

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

仮想化戦国時代再び

 パブリッククラウドやプライベートクラウド、仮想基盤、コンテナ基盤など、様々なサービスやツールが提供され利用可能となっている現在、それらをどのように組み合わせて利用するか、そして、その環境を如何に効率的に運用管理していくのか、IT管理者にとっての大きな課題です。  慎重に検討し最適と考えた環境を導入したが、パブリッククラウドのコスト高騰やベンダーの突然のポリシー変更によるプライベートクラウド環境の再検討など、外的要因も含め色々な問題が発生し、都度、対応が求められている。そんなお客様も多くいらっしゃるかと思います。このような様々な問題への対応が必要な今こそ、個々の問題への対策にとどまらず、新たなITの姿を考える良いチャンスではないでしょうか。  変化による影響を受けやすい現在のIT環境から脱却し、ITインフラに依存しない柔軟な運用環境を実現する。ITインフラを意識する事なくマネージメントできるニュートラルな運用環境へシフトする。サービスやツールの導入・変更にもスムーズに対応でき、求められるユーザーサービスをタイムリーに、そして安定的に提供できる、そのような変化に強く、かつ進化に対応する次世代運用プラットフォームの実現が、今、求められていると考えます。  本セミナーでは、次世代運用プラットフォームを実現する2つのキーソリューションをご紹介します。1つ目はMorpheus Cloud Management Platform。セルフポータルサービスに代表されるように、シンプルでありながらパワフルかつ柔軟な統合運用環境を実現します。もう1つはOpsRamp。AIOpsやオブザーバビリティなど個々の機能にとどまらず、多様な要素で構成され様々な要件が求められるハイブリッドクラウド環境にニュートラルに対応する。真にエンタープライズレベルの統合監視環境を実現するソリューションです。 HPEの考える次世代の運用環境をぜひご体験ください。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます