メディアが変化にともない、タレントの趣向も変わってきた
国際大学GLOCOM客員研究員で、経済産業省の国際戦略情報分析官でもある境 真良氏。同氏は官僚でありながら、日本のサブカルチャーに精通する専門家として知られ、先日出版された書籍『アイドル国富論(東洋経済新報社)』も話題を集めている。
「日本のコンテンツビジネスとテクノロジーの未来予想図」というテーマをうけて、同氏は「アイドルと日本経済」を切り口にユニークな持論を展開し、メディア論と消費社会論と公共政策論の接点から、日本が目指すべき国家とはどのようなものか提唱した。
境氏は、まずメディア論的な観点からアイドルの変遷を追って、背後の時代を下記のように分析した。
「日本では、映画時代、テレビ時代、ネット時代というように、メディアが変化し、それにともなってタレントの趣向も変わってきた。映画時代は見た目も麗しい美人が主流だったが、テレビ時代になると顔のバランス的にはむしろ少し崩れた身近なアイドルが好まれるようになり、おニャン子クラブや女子大生などのアマチュア的な素材が受けるようになった。ところがネット時代になると、今度はモーニング娘。やAKB48のように、かなり訓練されて鍛えられたプロのアイドルが登場した」
同氏によれば、今のアイドルは“闘うアイドル”、ファンを“励ますアイドル”、ダンスなどを“究めるアイドル”に大別でき、それぞれの代表としてAKB48、ももいろクローバーZ、モーニング娘。があるというのだ。
「それぞれにウリがあり、ネットで評価されたアイドルがアンプリファイ(増幅)されてテレビに登場している」
消費社会論、さらに公共政策論的にアイドルをみる
また境氏によれば、これを消費社会論的な観点から見ると、従来の「古典的アイドル」と「現代アイドル」の差違が浮き彫りになるという。
「古典アイドルは単なる欠点や弱点のある女の子。一方、現代アイドルはアイドルなのだが紛れもないプロの面を持っている、どこか強い女の子だ。ただ、本来であれば小顔でスタイルのよい美少女スターが受けてもよいはず。しかし、実力派の強いアイドルが商品価値を持ち続けている。これは一体どうしてなのか?それは、彼らが競争社会を理解しているのに、ヘタレているからだ。彼らの理想は、『中産階級主義≒ヘタレ中心社会』すなわち、誰もが支配者になれる社会ではなく、誰もが他者を支配できないという社会だ」
同氏は「これを公共政策論的に捉えると、アベノミクスの誤謬に行き着く」と主張する。円安になれば、製造業は少し幸せになるが、現時点ではそもそも輸出向けの工場が多くないので、これをフル稼働しても輸出は伸びない。エネルギーコストも増大する一方で、収支が合わない。お客様に奉仕するサービス業は単純には伸びないし、伸びても、客や上司が横柄になれば収入以上に精神的圧迫を増大させる。こうしたなかでポイントになるのは、自分たちがいかに住みやすい環境をつくれるか、それを考えて政策を打つことだという。
そこで境氏は、OECD34カ国における所得のジニ係数に注目している。日本は競争が中くらいで、再分配所得と再分配による格差是正効果も「中くらいの不平等」というレベルだ。しかし、米国のように競争が大変激しく、日本以上に配所の再分配によっても格差が日本ほどにも是正できない不平等性の高い国もある。一方、韓国のように競争も中くらいだが、所得再分配がほとんどなく、中産階級の没落が放置されている国もある。
境氏は、講演の最後に「日本が目指すべきは『ゆるい国家』だと思う。自分たちの自信をどのように持つべきか?という最終的なアイデンティティを民族性や国民性に求めると、国の発展≒俺たち凄いという発想になってしまう。しかし、そういった国家主義は戦争につながる。むしろ皆でアイドルに萌えて、ハッピーになったほうがよい。つまりアイドルは国家と反対の概念であり、それは国際平和にも貢献する。世界中がアイドルに萌え、アイドルに励まされながら働き、楽しく食える社会を作ろう!」という独特の考えを開陳した。
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