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  • 2018/11/14

斎藤哲也氏インタビュー:哲学の入り口は「センター倫理」がちょうどいい

『試験に出る哲学』著者

センター試験を入り口に、西洋思想を学ぶ――そんな画期的な本が生まれた。『試験に出る哲学 「センター試験」で西洋思想に入門する』(NHK出版新書)は、高校公民科目「倫理」のセンター試験から、古代ギリシアから20世紀前半までの著名な哲学者のエッセンスを学べる話題作。ベストセラー『哲学用語図鑑』(プレジデント社)の監修で知られる斎藤哲也氏、初の書き下ろし新書だ。「センター試験の問題は、西洋思想へのよき入門になる」と語る斎藤氏に話をうかがった。

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斎藤哲也氏

なぞの社会科科目「倫理」

――「ヒットの裏に斎藤哲也あり」と言われるくらい、人文・社会科学に関する数々の書籍を編集・構成している斎藤さんですが、ご自身が書いた一般書は初めてなのですね。

斎藤氏:そうなんです。いざ自分の本を出してみると、編集や構成をした本以上に売れ行きが気になって……。自分の小物ぶりがよくわかりました。

――高校の公民科目である倫理に注目したのはなぜでしょうか。

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斎藤氏:『哲学用語図鑑』の監修をしたとき、著者の田中正人さんと高校倫理の参考書について話をしたのがきっかけですね。「倫理」という科目の存在は知っていたけれど、ぼくは高校の授業で習っていないし、周囲の人に聞いても「習ったかなぁ」とぼんやりした反応が多かった。

 実際、倫理は入試科目としては人気がないんです。というのも、センター試験の科目にはあるけれど、国公立大学の二次試験や私大の入試で出題される大学がほとんどないからです。そのせいだと思うんですが、文系の多くがほとんど倫理をまともに勉強しない。センター試験の受験者数も、地歴・公民のなかでは一番少ないんです。

 でも、倫理の教科書や参考書、資料集を読み漁ってみると、これがおもしろいんですよ。宗教や中国思想、西洋思想、日本思想が凝縮されていて、社会人が読んでも勉強になる。西洋哲学にかぎっても、門外漢が哲学の歴史のあらましを理解するうえで、ちょうどいい難易度でつくられているのです。

 ただ凝縮されているがゆえに、説明も駆け足にならざるをえないという難点もあります。たとえばある教科書では、ウィトゲンシュタインの説明はたったの15行(笑)。それではいくらなんでも煮詰めすぎでしょう。そこで、高校倫理の内容から西洋哲学の部分を抜き出し、もう少し手厚く解説するような本があれば、大学生や社会人が哲学に触れる最初の1冊になるんじゃないかと思ったんです。
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『試験に出る哲学―「センター試験」で西洋思想に入門する』
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――高校倫理の内容は「ちょうどいい難易度」なんですね。

斎藤氏:哲学史の本はたくさん出ているけれど、プロの書いたものの多くはかなりハードルが高い。ある程度哲学に触れたことがある人でないと、読み通すことが難しいんです。

 一方で、見開きでデカルトを解説するような、単純化しすぎた入門書もけっこうある。印象としては難しすぎるか、簡単すぎるか、両極端なんです。その点、高校倫理は、難易度としては、西洋哲学の流れを概観するうえでちょうどいい塩梅の難易度なんですね。

――各パートの最初にセンター試験の問題が出てきますが、それに答えられなくても大丈夫でしょうか?

斎藤氏:むしろわからない方がいいぐらいです。わからない状態をつくったうえで、問題を道標としながら読んでいくと、内容も入ってきやすいと思っています。

「劇場のイドラ」に囚われているのは誰?

――「哲学」という響きと「試験」の間には、隔たりがあるように感じます。

斎藤氏:実際のところ、倫理のセンター試験は暗記科目になっているのが現状です。暗記だけでいいのかという問題意識は、出題者も共有していると思います。

 ただ、20年分のセンター試験の問題に目を通してみると、哲学者の原典を引用したり、会話形式にしたりと、さまざまな工夫を凝らしていることがわかってきました。出題者もデカルトやプラトンのことをマークシートのようなかたちで答えさせたくはないのでしょう。また、センター試験は複数の大学教員が丁寧にチェックしているので、概念の解説もよく吟味されている。だからこそセンター試験の問題は、哲学のための良き入門になっていると思っています。

――印象に残った問題はありますか?

斎藤氏:センター試験には哲学上の概念を具体的に考えるような問題が出るのですが、中でもフランシス・ベーコンの「劇場のイドラ」について答える問題文が印象に残りました。こんな家族いるか! と思わず突っ込みたくなります。ちょっと見てみましょうか。

問:ベーコンは、正しい知識の獲得を妨げるものとして四つのイドラを挙げた。次の会話において、「劇場のイドラ」に囚われていると読み取れるのは誰であるか。(1)~(8)のうちから一つ選べ。

妹(中学生):たまたまテレビをつけたら、大学の先生がしゃべってたわ。なんだか面白くて、最後まで見ちゃった。その先生はねえ、プラトンという哲学者を研究してるんだって。そして、イデアというものが存在しているって言ってたよ。お兄ちゃん、プラトンやイデアなんて知っているの?

兄(高校生):プラトンというのは、有名な古代ギリシアの哲学者だよ。イデアってのは、一口で言うとねえ、事物の本質としての理念的な実在、とでもいうとこかな。倫理の時間に習ったよ。

母:お兄ちゃんは事物の本質としての理念的な実在なんて偉そうに言うけど、わかってんのかな。ところで、その大学の偉い先生、ほんとうに自分でもイデアが存在していると思っているのかしら? わたしたちのふだんの生活では、イデアなんて意味があるとはとても思えないわ。

妹:じゃあ、お母さん、プラトンは間違っているの? お父さんはどう思う?

父:お父さんは、イデアかどうかは知らないけど、何か理想的な本物の世界というのは、あってもおかしくないと思うよ。

母:そう思うのはお父さんの性格からじゃないかしら。昔から何事も理想化しないと気がすまない性分だったからね。

兄:お父さんもイデアみたいなものはあるって言うし、倫理の教科書や高校の先生の説明も分かったな。やっぱりイデアはあるんだよ。

母:そうかしら。

妹:みんなの話を聞いてたら、なんだかよくわからなくなっちゃった。せっかく面白い考えだと思ったのに。

(1)兄 (2)妹(3)父(4)母(5)母と兄
(6)父と妹(7)母と妹(8)父と兄


(1999年・センター本試験 第3問・問3)※答えは『試験に出る哲学』でご確認ください


――「昔から何事も理想化しないと気がすまない性分だったからね」という母のセリフを読むと、父の過去になにがあったのか気になりますね。ほかに注目した問題はありますか?

【次ページ】危機の時代に哲学が生まれる

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