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  • 2015/03/13 掲載

片岡剛士氏インタビュー:データから読み解く、増税延期後の日本経済の実態

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2014年後半は、消費税の再増税をめぐって激しい議論が巻き起こった。その議論の真っ只中に刊行された『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎)は、データを駆使して、実証的かつ多面的にアベノミクスを検証したうえで、消費税増税の延期を主張し、話題を呼んだ。増税時期の先送りが争点となった衆院選を経て、著者の片岡剛士氏は現在の経済情勢をどのように見ているのか、話をうかがった。

消費税の影響とアベノミクス再起動

──『日本経済はなぜ浮上しないのか』は、消費税再増税をめぐる議論が加熱していた、2014年11月に刊行されています。いま、その時期を振り返ってみて、どう思われますか?

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『日本経済はなぜ浮上しないのか』

片岡氏:確かに2014年4月に消費税を8%にしてから、その影響や再増税の是非も含めた議論は、大変盛り上がっていました。私も、2015年10月に10%へ再引き上げをするか否かをめぐってメディアで発言する機会も増えたため、体力的にも精神的にも追い詰められながら執筆を続けていました(笑)。この本を書き終えた2014年10月は、10%への再引き上げについての議論がもっとも白熱している時期だったと思います。

 当時のマスコミ報道などを振り返ると、「増税やむなし」という雰囲気はかなり強かったですね。ただ、他方で政府の周辺には、デフレ脱却を進めようと考えている、浜田宏一さんや本田悦朗さんなどがいらっしゃいました。その方々も私も2015年の段階で8%から10%への引き上げをした場合、この国は大ダメージを受けるという認識を持っており、先送りを強く主張しました。

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──2014年に、消費税を5%から8%とした増税の影響については、どう見ていましたか?

片岡氏:データ(内閣府「四半期別GDP速報(2014年10-12月期・1次速報)」)を確認しますと、駆け込み需要となる増税前の2014年1-3月期の実質GDPは535兆円、反動減となる増税後の2014年4-6月期の実質GDPは526兆円でした。駆け込み需要と反動減がそれぞれ同程度のインパクトならば、2014年7-9月期の実質GDPは、真ん中の530兆円に戻るはずです。しかし7-9月期の実質GDPは522.8兆円と-1.6%の成長率でした。その後、2014年10-12月期の実質GDPは525.8兆円と、2.2%の成長に戻りましたが、530兆円には戻っていない。つまり8%への引き上げは、駆け込み需要と反動減が生じたというだけではなく、実質所得の低下を通じて消費を低迷させ、そのことが実質GDPの低迷にもつながっているということです。

 現在、多くの経済評論家やエコノミストが、2014年10-12月期のデータを見て、「増税の影響は一息ついた」と評価しています。しかし、私自身はとてもそこまで楽観的になれない。民間消費も前の期と比べて0.3%しか伸びていません。これは7-9月期の動きとほとんど変わらないのです。耐久消費財はようやくプラスに回復しましたが、増税後の落ち込みを取り返すほどではなく非常に弱々しい。食料品など非耐久財や衣服などの半耐久財、サービス消費もほとんど横ばいです。

──相当に大きなダメージを受けたわけですね。

片岡氏:実際、増税前の2013年は、堅調に消費が増加していました。しかし、2014年の増税後は、アベノミクスが始まった当初の株高・円安によって資産効果が働き、家計消費を盛り上げるという消費のトレンドがまったく違う方向に向かってしまった。また、2013年の非製造業の設備投資はそれなりに活発になっていましたが、製造業の設備投資はほとんど横ばいでした。おそらく株高・円安になってはいたものの、投資を行えるほどの余力がなく様子見をしていたのだと思います。そして、2014年の増税後には消費が一気に落ち込んでしまった。需要がないところに新たな設備投資をしようとは思わないでしょう。唯一、輸出は増加基調にあります。これはアメリカ経済の安定と円安傾向によるところが大きいです。

 第2次安倍政権が始まった直前期である2012年10-12月期のデフレギャップ(実質GDPが潜在GDPを下回る状態、及びその落差)は、およそ14兆円でした。徐々に総需要と総供給の差は縮まっていたにもかかわらず、2014年になって2四半期(4-6月期と7-9月期)連続でのマイナス成長となり、再び差が広がっている。2014年10-12月期のデフレギャップは、12兆円程度です。こうした状況ですから、アベノミクスを再起動させなくてはいけません。

──再起動のために、まず何が求められるでしょうか?

片岡氏:いま、政府と日銀(日本銀行)は、態度を問われていると思います。もともと安倍政権は、デフレ脱却に積極的な態度を示し、それを受けて日銀も大規模な金融緩和を行うようになりました。ただ、その一方で消費税の増税も行っている。つまり、一体どの方向に進もうとしているのかが、わかりにくくなってきています。

 2013年は、前年の第2次安倍内閣の登場を受け、金融緩和によってデフレ脱却を進めるほうに強く振れていたと思います。しかし、2014年は消費税増税と物価の上昇があり、アベノミクスを不安視する声も強まっています。最近では、再び「円高・デフレが良い」という主張も出てきていますよね。

 ただ、そこで姿勢をぐらつかせて、円高・デフレの時期に戻ってしまうと、「失われた20年」をさらに延長させてしまうだけです。そうではなく、政府と日銀のスタンスをはっきりさせ、より強化することが必要です。たとえば、2013年1月に両者が出したデフレ脱却と持続的な経済成長に関する共同声明を、日銀法に紐付けるような形で法的根拠を持たせることも有効でしょう。共同声明そのものはただのお約束事ですから、それをより実体的なものするわけですね。政府が目標をしっかり定め、日銀がそれに基づいて政策を発動するという形にすべきだと思います。

【次ページ】財政、社会保障、累進課税の実態は?

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