• 会員限定
  • 2015/05/13 掲載

かつて外資系金融機関の取締役を努めた福原氏が語る、日本のエリートは哲学を学ぶべき

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
世界最大級の資産運用会社、バークレイズ・グローバル・インベスターズで日本法人取締役に就くなど、世界を舞台に活躍してきた福原 正大氏。高校時代に初めて哲学者のセネカの言葉に触れ、哲学の世界に目覚めた。それ以降、哲学をよりどころに知識と教養を身に着けてきたという。今福原氏は、小中高生のために「英語を考えるリーダー塾」を展開する「igsZ」と、グローバル人材を育成する「Institution for a Global Society」(IGS)の代表取締役を務めている。哲学に対する深い知識をベースに、世界基準のエリートの実態を説いた『世界のエリートはなぜ哲学を学ぶのか?』を上梓した福原氏に話をうかがった。
(聞き手は編集部)

「考える力」を磨く 世界のエリートは、哲学ベースの行動原理で動いている

photo
Institution for a Global Society(igsZ) 代表取締役社長
福原 正大氏

──ご自身にとって、哲学とはどういう位置づけしょうか? 哲学にはどんなメリットがありますか?

photo
(クリックでamazonへ)
『世界のエリートはなぜ哲学を学ぶのか?』
福原氏:自分はどういう人間か、それを見つめるのが哲学です。哲学によって、いろいろな思想に触れ、普段から考える習慣が身に着くと思います。あまり適切でない表現かもしれませんが、苦しいときに助けになるのが哲学。結局、世の中うまくいくことはそう多くありませんし、楽な道もないという、ごく当たり前のことに気付かせてくれる、それが哲学です。

 ですから、順風満帆のときには哲学はいりません。むしろ何か仕事に失敗したり、大切な友人をなくしたり、窮地に陥ったときに生きる因(よすが)となるものでしょう。いろいろなことに深刻に悩んでしまう人ほど、ロジカルな哲学が役立つかもしれません。ショーペンハウアー(注1)にしても、哲学者は本当にボロボロな人ばかりですよね(笑)。それでも人間は何とかなるということです。

 これまで個人的に多くの哲学書を読んできましたが、やはり高校時代に初めて触れた「人生は使い方を知れば長い」という、セネカ(注2)の『人生の短さについて』という一編に最も影響を受けました。とにかく失敗してもよいので、自分が考えたことを実行していくという感覚をセネカから学びました。

注1:アルトゥル・ショーペンハウアー(1788年-1860年):ドイツの哲学者。仏教精神とインド哲学の精髄を語り尽くした思想家。ニーチェなど多くの哲学者、芸術家、作家に重要な影響を与えた、実存主義の先駆者とも言われている。

注2:ルキウス・アンナエウス・セネカ(紀元前1年頃-65年):ローマ帝国の政治家、哲学者、詩人。皇帝ネロの幼少期に家庭教師を務め、治世初期にはブレーンとして支えた。ストア派の哲学者であり、多くの著作を有するラテン文学白銀期を代表する人物。

──金融のプロとして第一線で活躍されていた福原さんの根っこに、実は哲学があったというのは面白いですね。

福原氏:世の中には優秀な人が多いので、それならば自分は皆と違う道を選ぼう、ということを考えました。正直に言うと、私は自分が能力的にエリートだと思ったことは一度もありません。ただし、英語ではなくフランス語に没頭するなど、人と違う道を歩むタイプで、それに長けていたと思います。掛け算でいうと、フランス語×英語×哲学×金融×外資というように、全部を掛け合わせると対抗馬がいないくなるように人生のキャリアを積んできたのです。

 また、人間は努力すれば何とかなる。そう感じ始めたのが、東京銀行(現:三菱東京UFJ銀行)に入行してから2年目ぐらいです。世界トップ3に位置づけられる欧州経営大学院、INSEADに留学できたのですが、ここには世界中から選りすぐりの人々が集い、競い合っていました。自分は英語が得意ではなかったので、グループワークでさぼり気味だったのですが、そのとき仲間に「お前は逃げているだけだ」と指摘されました。「英語ができないのなら、せめて中身の勉強を100倍してこい。英語が話せないだけでなく、話す中身さえないじゃないか」と。

 そこで自分の甘さに気づき、そのころから発奮して、がむしゃらに勉強するようになり、その後は成績もどんどん向上していきました。INSEADを卒業した後、エリート教育の代名詞として知られるフランス・グランゼコールの商業系の最高峰HECに進み、そこで最優秀賞(mention: Très Bien)で卒業できたのも、INSEADで苦しんだ体験のおかげです。

 また30歳のときに、世界最大級の資産運用会社であるバークレイズ・グローバル・インベスターズに入社しました。もちろん社員は全員が優秀な方々ばかりです。そこで私は最高のリーダーに出会い、彼の下でいろいろなことを学びました。ここでも人と違う部分で勝負することで、一番下のアソシエートから、最短の5年でトップのマネージメントダイレクターに昇格し、全体をみることができるようになりました。

──著書に「自分は無知である」と知るのが重要とあります。

福原氏:まず、自分が何でも知っていると思うことは大きな勘違いだと思います。たとえば、死について怖いという人がいます。しかし、誰も死ぬまで死を経験することはありません。死に至る過程は怖いかもしれませんが、ソクラテスの弁明では「無知の知」から、人間の生死に関わる深い洞察を導き出しています。「死は人間にとって最大の幸福であるかもしれない。夢一つさえ見ないほど熟睡した状態、まったくの虚無に帰ることを意味するものかもしれない」ということです。

 人が無知なのは当然のことで、実は真理が何であるかも分かりません。自然科学ですら「反証可能性がある中で、いまだに反証されていないことを真理と考える」というカール・ポパー(注3)の考え方に基づいています。科学理論は、あくまで論理的な推論に基づく演繹的な仮説の総体でしかありません。自然科学のように、真理に近いと考えられる解がない根源的なテーマを哲学では扱っています。簡単に解決できない問題について自問自答するのが哲学なのです。この問いかけこそが「考える力」を磨く最高のトレーニングになるわけです。

注3:カール・ポパー(1902年-1994年):反証可能性を基軸とする科学的方法を提唱したイギリスの哲学者。科学理論は、論理的推論に基づく演繹的な仮説の総体で、科学はそれを実験で反証する。科学は基本的に間違い探しであり、絶対的な真理を探求しているわけではない。反証可能性がない理論は、真理と無関係に科学的仮説から除外される。

【次ページ】 日本のエリートと欧米のエリートは何が違うのか

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

~人的資本の最適配置をどう実現するのか?~ サイバーエージェントの人員計画を大解剖

サイバーエージェントの人員計画の作り方を徹底解剖 ・このような方におすすめ ・サイバーエージェントの人員計画に興味のある方 ・人員計画の作り方について、他社事例を学びたい方 ・サイバーエージェントの抜擢人事の極意を知りたい方 ABEMAをはじめとするB to C領域での存在感も高め、破竹の勢いで成長するサイバーエージェント社。 同社が次の時代を捉えた戦略的な積極投資で事業領域を広げていることは周知の事実です。 ?しかし、同社の躍進はカルチャーの浸透を軸に、事業計画に連動する適材適所の人員計画と人事制度なしには語れません。 人的資本開示が義務化されて初の決算を終えた今、改めて最先端をいく同社の人員計画の作り方や人的資本に関する取り組みを解剖するセミナーを開催いたします。 ?今回はサイバーエージェント社を初期から支え、CHOとして同社の人事領域を形作られてきた曽山氏をお招きし、同社の人員計画の極意に迫ります。 ?当日のテーマは以下です。 ・良い人員計画と悪い人員計画 ・サイバーエージェント社の人員計画の作り方のポイント ・抜擢人事の極意 ?人員計画に関わる全ての人事の皆さま、そして事業計画との最適化を経営目線で見る経営企画の皆さまにとって学びのある60分を提供いたします。 ぜひご参加ください。

オンライン

~P&G・マクドナルド・レノボ出身のFP&Aアドバイザーが語る~ 自社に合ったFP&Aの始め方

明日から取り掛かる、FP&Aの始め方 このような方におすすめ ・P&G/マクドナルド/レノボ出身のFP&Aプロフェッショナルによる事例解説に興味のある方 ・明日から取りかかれるFP&Aの始め方を知りたい方 ・グローバル基準のFP&Aを自社に合った方法で取り入れたい方 ・直近5年間で、日本企業においてもFP&Aや経営管理体制の構築の重要性についての理解が深まっています。 一方でその実行となると、「全社を巻き込むのが難しい」「どこから取り組めばよいか分からない」「取り組み事例を知りたい」といったお声を多く頂戴しており、ロールモデルに対するニーズが高まってるのが現状です。 そこで、今回はP&G・マクドナルド・レノボといったFP&A先進企業で日本子会社のCFO・FP&Aをつとめ、現在はFP&Aアドバイザーとして数多くの日本企業のFP&A実装に尽力されている池側氏をお招きし、事例をベースに「明日から何に取り組めばよいか」をご理解いただけるセミナーを開催いたします。 当日のテーマは以下です。 ・P&Gなど先進欧米グローバル企業のFP&Aとは ・FP&Aを実装している日本企業の事例 ・自社に合った形でFP&Aを始めるには 他社のFP&Aのお取り組みを知りたい方、FP&Aの高度化を推進したいマネージャー・経営層の方にぜひご参加いただけますと幸いです。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます