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  • 2015/06/09

MRJ(三菱リージョナルジェット)が日本産業界へ示す問い、そして希望

6月8日、名古屋空港で地上走行試験を行った国産小型旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)。本格稼働へ向けての期待はいよいよ高まりつつある。旅客機を、国産してみせる――MRJは、日本のものづくり業界にとって悲願とも言える目標の達成だ。今後のMRJがどんな動きを見せるのかは気になるところだが、ひいては産業界全体が、MRJによってどんな動きに誘われることになるのか。MRJという「念願成就」が、あるいは「商品」が、日本ビジネス界へもたらす効果とは?

ハイテクアナリスト 杉山勝彦

ハイテクアナリスト 杉山勝彦

東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。

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日本の技術の粋がつまった国産旅客機、
MRJ(三菱リージョナルジェット)

環境対応技術とデジタル化技術で後れをとっている!?

 航空機産業からのものづくり復活の処方箋を述べている(前回)が、自動車産業は航空機などからの技術波及が大きく、何といっても60兆円市場という規模を誇る。日本のものづくりの屋台骨を支える産業なので、今回は自動車産業の将来について述べてみたい。

 自動車産業で今後ポイントとなるのは、環境対応技術とデジタル化技術、さらにはボリュームゾーンをめぐる異業種企業やベンチャー企業の参入とソフトウェア開発だ。

 たとえば現在、ヨーロッパでは低環境負荷の自動車として注目されているのは、クリーンディーゼル車だ。エンジン技術の進歩によって有害物質はほとんど出なくなっており、燃費も安い。日本でディーゼル車といえば、有害物質をまき散らす悪者のイメージが定着していることもあり、製品化で大幅な遅れをとってしまった。国内メーカーではマツダがクリーンディーゼル車に取り組んでいるが、世界的な市場で見れば欧米メーカーに大きく水をあけられている。

 さらに、自動車においてもデジタル化、つまりカーエレクトロニクス化が進んでおり、製品技術が要求されるようになってきている。高速道路で一定速度を維持するクルーズコントロールもドライバーの習熟度に応じて柔軟な調整ができるなど、センサーとソフトウェアを組み合わせたデジタルデバイスとしての側面が強い。

「走るスマートフォン」が自動車業界に地殻変動をもたらす

 電気自動車や燃料電池車といった次世代自動車では、その傾向に拍車がかかる。それを象徴するのが、テスラモーターズだ。同社の電気自動車は、モーターの加速性能や走行距離といった性能に優れるだけでなく、タッチスクリーンによるコントロールや自動運転などの機能を実現した「走るスマートフォン」ともいうべき製品だ。バッテリーとモーターさえあればどこの企業でも電気自動車は造れるようになる。

 パソコンが短時間で誰にでも組み立てられるようになったのは、ソフトウェアを駆使したデジタル回路技術の進歩により、ハードウェア(装置)の負担が大幅に軽減され、ハンダによる接続の良し悪しなどに左右されることなく、部品と部品の接続が標準化されたコネクタで済むようになったからだ。

 電気自動車や燃料電池車でも、電池モジュールや燃料タンクのデファクト化が進めば、これまで自動車の製造に縁がなかった異業種企業やベンチャー企業でも自動車部品、あるいは自動車の完成品にも気軽に参入してくるようになるのは間違いないだろう。ちょっと前まで夢にも思わなかったことが起きているのだ。

マスマーケットを相手に戦う日本企業が陥りがちな罠

 他方、現在、新興国の自動車市場が急速に拡大しており、その需要の取り込みが各メーカーにとって至上命令になっている。しかし、そうしたボリュームゾーンを獲得するためには、安価な自動車を薄利多売せざるをえず、コストの高さが大きな障壁になり、不利な展開を強いられることになる。そこで、この低価格市場でクリーンディーゼル車や次世代自動車の技術をウリに勝負しようとするなら、コストダウンを実現するためのソフトウェアを含めた別次元の新たな製品技術が必要になってくる。

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 これは一朝一夕でできる話ではない。本の中では別に詳しく述べているが、日本はソフトウェア分野において完全に周回遅れの状況になっており、これから人材育成を進めたとしても効果が出てくるのは10年後、20年後ということになるからだ。

 ボリュームゾーン、つまり巨大なマスマーケットを相手に戦っている企業がいつの間にか「自社の品質の高さ」を誇らしく主張し始めたら、その企業は衰退が始まったと考えてよい。低価格のマスマーケットに見合った製品とコストダウン技術の開発をあきらめ、既存の成功体験の技術の高さに救いを求める。過去何度も見聞きしてきた日本企業敗北のストーリーである。

【次ページ】 日本の製造技術の強みは2つ

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