なぜ50年ぶりに再参入するのか?
名古屋空港からほど近い小牧にある三菱重工の工場において、2015年春の試験飛行、2017年の実用化に向け、いま着々と製造が進められているのが「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の1号機だ。これは三菱航空機が開発を進めている民間ジェット機で、日本にとっては実に半世紀ぶりの国産航空機プロジェクトとなる。
いま日本が沈黙をやぶって、この分野に参入するのには理由がある。
もともと航空機産業の規模は自動車産業に比べると小さい。2009年の調査によると、ワールドワイドでの自動車の出荷額が40.5兆円であるのに対し、航空機は1.2兆と40分の1程度。しかも日本は米国の16分の1、英仏の3~4分の1ほどの規模しかない。しかし、現状は小さなパイでも、右肩上がりで伸びているという。
「世界の旅客機市場は今後20年間で3倍以上の伸びを示すといわれている。そのうちジェット機の約4分の1が、リージェナルジェット(席数が50~100席クラスの小型ジェット機)で運航され、新規需要として5000機以上の機体が見込める」(岸氏)
実際に米国では、この10年間で運航路線が5倍近くも伸びた。また米国のみならず、欧州、中東、アフリカ、アジアでも需要が高まっている。
さらに航空産業や宇宙産業で利用される要素技術は、さまざまな分野での転用もできる。「たとえば飛行機のボディは、内側に柱を利用せず、外形形状のみで強度を強くする技術が用いられている。これは自動車などに応用が利く」(岸氏)。またコックピットや、ブレーキ系統などの技術も同様だ。機体材料に使われている高強度で高弾性な炭素繊維複合材料も、ゴルフクラブからレーシングカーのウイング、風力発電の羽まわりまで、幅広く転用されてきた。
「航空機のように人命に関係する機械では、第一に究極の安全性や信頼性が求められる。さらに経済性・快適性・環境性という制約条件も含めて、各分野の技術の摺合せが必要になる」(岸氏)
つまり航空機産業のハイテク技術によって、次世代の優れたモノづくりを伸ばしていけるというわけだ。日本では、環境についてはCO2削減など地球に優しいモノづくりを目指してきた。快適性という点でも乗り心地の良いクルマづくり技術が秀でている。グローバルで戦うためのコスト競争力も持っている。このような技術をジェット機にも大いに活用できるのだ。
「日本がリージョナルジェットのような民間航空機市場に参入するタイミングはもう今しかない。今がチャンスだ」(岸氏)
快適な客室、環境に優しい低排出・低騒音、優れた経済性が特徴
リージョナルジェット市場は、従来までカナダのボンバルディア(Bombardier)とブラジルのエンブラエル(Embraer)によって占有されてきた。ここにロシア スホーイ(Sukhoi)や、中国の中国商用飛機(COMAC)が新規参入し、新たな勢力地図が書き加えられようとしている。
| MRJ90 | CRJ900 | EMB190 | SSJ100-95 | ARJ21-700 |
製造国 | 日本 | カナダ | ブラジル | ロシア | 中国 |
メーカー | 三菱航空機 | Bombardier | Embraer | Sukhoi | COMAC |
運航開始 | 2017年予定 | 2003 | 2005 | 2011 | 2014年予定 |
エンジン | PW1217G(P&W) | CF34-8C(GE) | CF34-10E(GE) | SaM146 (PowerJet) | CF34-10A(GE) |
燃費性能 | ○ | △ | × | △ | 不明 |
客室快適性 | ○ | × | ○ | ○ | 不明 |
環境性性能 | ○ | △ | △ | × | 不明 |
三菱航空機では2017年の運航開始に向け、いま客員70席クラスの「MRJ70」と、90席クラスの「MRJ90」を開発中だ。さらに乗客数の多い100席クラスの「MRJ100」も計画されている。「すべての機体のパーツやエンジンが共通仕様なので、パイロットの訓練が簡単で、運航も容易になる」(岸氏)という。
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