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  • 2016/03/07 掲載

介護業界の売上高ランキング、2位に躍進する損保ジャパンが「本気度」大の理由

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「一億総活躍」「介護離職ゼロ」政策に後押しされ、大企業の介護事業参入が2000年の公的介護保険制度開始時の「第1のブーム」以来の「第2のブーム」を迎えている。その中で今年、業界第2位への躍進が確実なのが損保ジャパン日本興亜ホールディングス(損保ジャパン)だ。2015年10月にワタミの介護事業を買収し、続いて12月には上場企業のメッセージの買収を発表している。大企業が介護事業に参入する狙いとしては、介護機器や介護保険など「関連商品の販売促進」や遊休不動産の有効活用もあるが、損保ジャパンでは介護事業を経営の第4の柱に位置づけると表明し、純粋に業界の将来の成長に期待して大型のM&Aに踏み切った。その点、他社とは「本気度」が違っている。
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介護事業は「政策の行方次第」だったが…

ワタミの介護、メッセージを買収。投資利回り最大約20%の「いい買い物」

 保険大手の損保ジャパンは2015年10月、居酒屋チェーンのワタミ(本社:東京)の介護事業関連会社「ワタミの介護」の全株を買収すると発表し、12月に買収を完了して社名を「SOMPOケアネクスト」と改めた。

 それに続いて12月18日、介護大手のメッセージ(本社:岡山市/ジャスダック上場)をまるごと買収すると発表した。株式の公開買い付け(TOB)を実施して出資比率を51%以上に引き上げ、3月中に連結子会社化する予定。6月の株主総会で会社名をメッセージから「SOMPOケアメッセージ」に改めるが、ジャスダック上場は維持する。

 2015年3月期決算で、ワタミの介護は売上高354億円で介護業界の売上高ランキング6位。メッセージは売上高789億円でランキング3位だった。単純合計すると売上高は1143億円で、ランキング2位のベネッセホールディングス(シニア・介護事業領域)の872億円を抜き、損保ジャパンは一気に介護業界の第2位に入る。

介護業界大手の売上高ランキング
順位社名
(セグメント)
売上高
(前期比)
営業利益
(前期比)
売上高
営業利益率
1ニチイ学館
(介護・ヘルスケア事業)
1486億円
(1.3%増収)
118億円
(6.9%減益)
7.90%
2ベネッセホールディングス
(シニア・介護事業領域)
872億円
(9.6%増収)
56億円
(4.4%減益)
6.40%
3メッセージ789億円
(6.4%増収)
73億円
(10.4%増益)
9.30%
4ツクイ
(単体決算)
614億円
(6.9%増収)
34億円
(22.3%減益)
5.60%
5ユニマットそよ風425億円
(4.7%増収)
13億円
(22.2%減益)
3.10%
6ワタミ(介護事業)354億円
(1.0%増収)
23億円
(34.0%減益)
6.70%
7セントケア・ホールディング332億円
(5.7%増収)
15億円
(8.0%減益)
4.70%
注:セコムの介護事業は大きいが、医療関連と同じメディカルサービス事業のくくりで決算を発表しているため除外した。同事業は2015年3月期は売上高601億円(11.9%増収)、営業利益44億円(3.4%減益)
(出典:各社IR、日経ヘルスケア)

 果敢なM&A戦略で昨年、介護業界に彗星のように現れた損保ジャパンだが、買収した2社は過去にイメージを損なう出来事があったものの、業績数字などを総合的に見ればけっこう「いい買い物をした」と言える。

 ワタミは以前から「ブラック企業」視され、ワタミフードサービスは2013年の「ブラック企業大賞」に“輝いた”。そんな社名のイメージの悪さも災いしたのか、ワタミの介護事業は前年度、既存施設の入居率が77.9%に悪化し、営業利益は34.0%の大幅減を喫した。それでも収益力を示す売上高営業利益率は6.7%あり、業界上位7社中3位で売上高ランキング2位のベネッセを上回っている。

 その売上高営業利益率で、7社中トップの収益力の高さを誇ったのがメッセージだ。子会社が運営する川崎市の有料老人ホームでは3人の入所者が続けざまに転落死した事実が昨年9月に発覚し、厚生労働省から業務改善勧告を受けた。そして今年2月、この事件で職員が殺人容疑で逮捕されている。

 しかし、メッセージは2015年3月期決算では大手7社唯一の増収増益で、サービス付き高齢者向け住宅の入居率は約90%と高水準。有料老人ホームの入居率も、訪問介護分野の採算も改善して、売上高は2012年の訪問介護のジャパンケアサービスの買収をはさんで5期連続増収。営業利益は10.4%の2ケタ増益。ROE(自己資本利益率)も2ケタを維持し、業績も財務状況も良好である。

 その2社を買収して損保ジャパンは業界第2位に浮上する。撤退したコムスンの介護事業を吸収し介護・ヘルスケア事業が8期連続増収のニチイ学館には売上高で343億円の大きな差をつけられているが、売上高営業利益率は7.9%対2社単純合計8.5%で、収益力では業界大手でトップに立つ。

 介護大手はメッセージ以外は軒並み営業減益で、首位のニチイ学館も在宅介護の利用者が減少し6.9%の営業減益だった。介護事業に参入した企業の多くがその収益性の悪さに我慢を強いられていることを思えば、損保ジャパンは210億円(ワタミ)と最小260億円(メッセージ)の合わせて最小470億円の投資額で前期の営業利益97億円、年間投資利回り最大約20%という、いい買い物をした。

 2社のトップは損保ジャパンから送り込まれる見通しだが、本業が保険会社なので、リスク管理、コンプライアンスや、「タブレット端末」「見守りセンサー」「GPS」「ロボットスーツ」などICTを駆使した業務の効率化、生産性の向上、コスト管理などはお手のもの。

 大企業ならではのスマートな労務管理や教育研修も現場から歓迎されるだろう。また、損保ジャパンの介護保険の契約者は将来、有力な見込み客になる。買収した2社から事業運営とマーケティングのノウハウをうまく吸収すれば、「金融の企業に介護サービス業の経営ができるのか?」という懸念は払拭されるはずだ。

 M&Aをこれで打ち止めにしたとしても、損保ジャパンは収益力だけでなく売上規模でも近い将来、介護業界のトップの座に立つ可能性はあるとみていいだろう。

【次ページ】一時は「焼け野原」になったが、希望が芽生えた介護市場
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