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  • 2016/10/05 掲載

モジュラーデザイン(MD)の基本を解説、IoT/インダストリー4.0時代の製造革新

トヨタやマツダ、日産らが実践

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日本の製造業が大きな転換点を迎えつつあります。消費者の嗜好は常に変化を続け、商品ライフサイクルも短期化。新興国からは新しいプレイヤーも台頭し、市場のグローバル化はさらに進展しています。現代のものづくりには「高機能化や柔軟性」と「コスト削減」という相反する要件の両立が求められているのです。こうした時代の要請に対応するものづくりの考え方が「モジュラーデザイン(以下、MD)」です。トヨタやマツダ、日産らもこぞって取り組んだMDは今、IoTやインダストリー4.0の時代にさらに重要さを増しています。そもそもMDとは何なのか、MDの第一人者、日野三十四氏に解説してもらいます。

モノづくり経営研究所イマジン所長 日野 三十四

モノづくり経営研究所イマジン所長 日野 三十四

モノづくり経営研究所イマジン所長。マツダに勤務後、2000年に独立。韓国の世界的な電機メーカーを皮切りに、日本の重工業、重電、産機メーカーなどにモジュラーデザインのコンサルティングを行ってきた。2011年、コンサルティング会社を中心とした「日本モジュラーデザイン研究会」を設立。主な著作に『トヨタ経営システムの研究』(2002年、ダイヤモンド社)。アメリカほか6か国で翻訳出版。2003年に日本ナレッジ・マネジメント学会から研究奨励賞受賞。2005年に米Shingo PrizeからResearch Award受賞。『実践 モジュラーデザイン』(2011年、日経BP社)。20012年に日本生産管理学会から学会賞を受賞。他論文多数。

モジュラーデザインとは何か

 モジュラーデザイン(以下、MDという)とは、売り上げ増大と原価低減を同時に実現することを目的として、製品を設計する前に限られた製造設備で造られる互換性が高いモジュール部品群を設計しておき、新モデルはモジュール部品群から顧客要求に合う部品を選択して設計する方法のことです(図1)。

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図1 モジュラーデザインと従来の設計

 玩具のレゴブロックが、何種類かのブロックの組み合わせを変えることで自動車、飛行機、船舶などの多様な“製品”を生み出すように、一般の製品でもレゴブロックを実現しようという発想です。

 従来の設計は、図1の下図に示すように、新モデルを設計するごとに製品に合わせて固有の新部品を産み、新部品を製造するための新製造設備を投資するというものでした。

 しかし、グローバル時代において世界の多様な顧客要求に従来の設計のやり方で対応すると部品の種類が無限に産まれて固定費が増大し、経営が破たんすることが懸念されます。部品の種類数は、設計費、試作費、調達費、製造設備費、物流費、販売費、補修部品管理費などの固定費の要因の半分を占めるからです。

 産業界は、固定費を下げるために人員整理をするのではなく、日ごろから部品種類を増やさない努力をするべきなのです。部品種類のさらに大きな問題は、製造設備の種類が激増するので地球資源の浪費による地球環境破壊が進むことです。21世紀末には地球は人類が住めない星になってしまうとの悲観的な観測もあります。

 MDで製品を設計すれば、部品を共通化できるので部品レベルでは大量生産(マス・プロダクション)が可能になり、製品は多様な顧客要求に適合したカスタマイズができるので “マス・カスタマイゼーション”(マス・プロダクションとカスタマイゼーションの合成語)を実現でき、「原価は安く、売上は多く」という製造業にとっての理想形を実現できます。UNEP(国際連合環境計画会)は、産業界は製品をMDで設計することを強く推奨しています。

 一般の「部品共通化」は、製品との関係を考慮しないで「この部品を使え」と強制するので部品に合わせて製品を設計するようになり、変わり映えしない製品が産まれます。1990年のバブル経済崩壊後に自動車メーカーが固定費を削減するために取り組んだのがこれで、魅力に乏しい自動車をたくさん産み、その後の「失われた10年」のきっかけになりました。MDは単純な部品共通化ではなく、互換性の高いモジュール化された少ない部品種類で魅力的な製品を設計する方法なのです。

モジュール/モジュール化とは

 モジュールとは、部品の互換性を高めるために工夫された「製品諸元の単位」です。

 モジュールという言葉の起源は古くギリシャ時代にさかのぼります。ギリシャ建築では、建築物の天井と土台と円柱の三者間の互換性を高めるために、円柱の上・下端の径に一定の比率で変化する数値を適用する「モジュラス」という規格を制定しました。

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図2 古代ギリシャ建築

 それまでは、建築物を設計・生産する都度、天井と土台と円柱の三者間の嵌め合い(はめあい)を、時間をかけて相談・調整していました。モジュラスの制定により、事前に三者間で適用するモジュラスを合意しておくだけで三者を並行的に設計・生産することができるようになり、生産性が飛躍的に高まってギリシャ建築の華が開いたのです。

 西洋のレンガ建築においては、レンガブロックの縦×横に4×8インチという倍数の数値を適用することによって、1つのブロックと半分のブロックの2種類のレンガを準備するだけで多様な建築物を設計できるようになりました。

 日本では、畳の縦×横に3×6尺という倍数の数値を適用することによって、1畳と半畳の2種類の畳を準備すれば多様な間取りを設計できました。モジュールの考えは、建築物を中心に生活の知恵として発展してきました。

 近世のメカ的な製品の代表的なモジュールは、図3に示す「歯車のモジュール」です。

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図3 歯車のモジュール

 ピッチ円直径(歯の高さの中心直径)を歯数で割った値をモジュール値といいます。モジュール値は歯車が噛み合うかどうかを判断する値であり、大きさが異なってもモジュール値が同じであれば噛み合います。モジュール化は「複数部品間のインタフェースの規格化」ともいわれる理由です。

 MDも、製品諸元に製品と部品のインタフェースを整合化する「モジュール数」を適用して部品をモジュール化します(第2回で詳細を説明)。

 なお、「モジュール」という言葉はほかのものをいう場合があるので混同しないように注意が必要です。製品を構成する部品の括り(サブアセンブリ)の範囲を大きくして、または複数部品をプラスチック化するなどしてひとつの統合部品にし、それらをモジュールと呼ぶ場合です。

 1990年代初めに最終組み立てラインの工程数を減らすためにこの“サブアセンブリ拡大モジュール化”が流行しました。拡大したモジュールの設計/製造を労賃が安いサプライヤに委託すればトータルとして低コストを実現できるとの考えです。

 しかし、このモジュールは複数製品間で共用できない個別製品固有の部品になるので、自動車のような多様な仕様の製品に適用するとモジュールの種類が激増し、最終組立工程数は減るが工程周辺の部品の置き場が増大するという逆作用が生じてトータルとして効果が出にくいことがあり、現在はすたれてきています。

【次ページ】自動車業界におけるモジュラーデザインの動向

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