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  • 2017/01/13 掲載

日本将棋連盟と新聞社は、将棋界の泥沼から抜け出せるか

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2016年12月26日、将棋プロ棋士 三浦弘行 九段の竜王戦出場停止処分について、注目の的であった第三者委員会による調査結果が公表された。翌27日、この発表を受けて日本将棋連盟、三浦九段の両サイドがそれぞれ別の場所で記者会見を行った。今後の融和にむけての道筋がこれでつくのではないか、と思いきや、三浦九段サイドの記者会見では日本将棋連盟側に対する驚くべき内情暴露もあり、依然として泥沼の状態が続いている。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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将棋界で続く不祥事、スポンサーの新聞社は何を思うか

将棋ファンと日本将棋連盟の溝は、さらに深まってしまった

 第三者委員会による調査結果が公表されたことで、竜王戦騒動は沈静化する――。将棋ファンやスポンサーである新聞社、日本将棋連盟、将棋村に暮らす誰もが望んでいたことだろう。

 しかし、それ以降の日本将棋連盟の対応や情報公開がなされるたびに、ファンには動揺と失望が駆け巡るという、なんとも残念な展開が継続してしまっている。さまざまなメディア等で指摘されている通り、日本将棋連盟への「ツッコミどころ」は数限りなく、いちいち挙げ連ねるのもばかばかしいほどである。

 ともあれ今回の件によって、あらためて強烈に印象づけられたのは「日本将棋連盟の幹部は、ファンの心理や棋士の名誉以上に、スポンサーの顔色を大切にしている」ということであった。

 三浦九段の処分決定とその後の対応については、日本将棋連盟ではおよそ常識的とは言い難い意思決定が短い期間で次々と繰り返されていた。「トップ棋士のカンニング疑惑」という事案がいくら刺激の強いものであったとはいえ、挑戦者変更を決定した当時の事実確認はあまりにも不十分であったし、挑戦者変更の手続きも不適切であったことは認めざるを得ないだろう。

 なぜ、そこまでのことをせざるを得なかったのかといえば、「タイトル戦の途中で週刊誌にカンニング疑惑を報じられるわけにはいかなかった」ということである。これは、第三者委員会による記者会見においても指摘されている通りだ。

 しかし単純な疑問として、現在進行している「将棋ファンからの日本将棋連盟へのバッシング」については、スポンサーは問題にはしないものなのだろうか。常識的には、こちらのほうが一棋士のスキャンダルよりも、スキャンダラスな話であるように思われる。

将棋のスポンサーである新聞社はいま何を思うか

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 日本将棋連盟による常識的でない(ように見える)意思決定が下された背景には何があったのか。ファンの納得感や、棋士の名誉よりも、竜王戦のスポンサーである読売新聞の「面子」と「機嫌」を優先したということは明らかである。

 そのスポンサーは、将棋界に対して何を要望していたのだろうか。今回の疑惑が持ち上がった際、正しい挑戦者の決定のため、真っ先にスケジュールの変更をなぜ要求しなかったのだろうか。また現在においても、「紳士協定」の名の下にぬるい管理体制が敷かれている棋戦一般のあり方に対して、なぜ根本的な解決を求めないのだろうか。

 もしかしたらスポンサーにとっては、将棋のプロ棋戦とは「真に最高の棋譜を残し、棋士に名誉を与えるための場」というよりは、「余計なゴタゴタが発生せず、スケジュール通りに執り行われればそれで問題ない、儀式のようなもの」という存在なのだろうか? という風にも思えてしまう。

それでも新聞社が将棋界のスポンサーを降りないワケ

 将棋界と新聞社の関係について考察していくと、どうもいたたまれないプロ棋戦とスポンサーである新聞社の苦しい現状が見えてくる。

 筆者自身はあくまで一将棋ファンであり、いわゆる業界関係者ではないため、あくまで一般的な経済状況を踏まえた考察しかできないが、常識的な範囲で現在の状況を俯瞰すると、まず下記については間違いがないかと思う。

・インターネットをはじめとする新たなメディアが急速に発達し、人が新聞を読むために割く時間は減少する一方であること
・上記の理由から、新聞社の広告収入が伸び悩んでいること
・新聞発行部数が、今後伸びていく可能性は極めて低いこと
・棋戦の盛り上がりと新聞発行部数の伸びとの相関は失われつつあること

 そもそもプロ棋戦とは、新聞社にとっては広告宣伝活動の一環であった。将棋が盛り上がると、新聞が売れる。だからこそ新聞社がスポンサーとなり、資金を提供する。きわめて明解な話だ。

 しかし昨今の状況にあって、それが継続できる理由が見当たらない。いまや、将棋情報の主な情報源が新聞だ、などという人は皆無である。そのことを考えるにつけて、生まれる疑問は、逆に「どうして新聞社はさっさとプロ棋戦を放棄しないのか」ということである。

 一つは、将棋のスポンサー料は、あらゆるプロ競技の中で比較的低コストであることがあるだろう。何しろ、将棋に必要なのは盤と駒しかない。東京ドームでナイター中継をするような、大掛かりな話ではないし、ひとつのゲームに何十人もの人が関わるわけでもない。

 他のプロ競技と比較すると、桁違いの低コストで運営ができる一方で、紙面上の価値としては、引けを取らないコンテンツ力がある(あった)。こうしたことを考えると、新聞社の経営者にとってみれば「切ってしまうには惜しい」という感じではないだろうか。

 中でも今回の騒動で注目された竜王戦は、将棋界の七大タイトルのうち、最も賞金の高い「最高棋戦」というブランドがついたものである。新聞という商品の最大の強みは「権威」であるわけだから、そう簡単に手放せるものではない。

 大ざっぱな構図だけで見ると、プロ将棋界とは新聞社にとって「本業における本質的な旨味はないが、付加価値つけるためには都合がいいため、やめた場合のデメリットも大きい、コストセンター」というような位置づけかもしれない。

 さらにうがった見方をすると、これを一体いつまで持っていられるか、競合紙同士のチキンレースとなっているのかもしれない。最初に音を上げるのは、どこの新聞社なのか、と。最も面子がつぶれてしまうのは、競合紙が継続しているなかで、真っ先に棋戦を廃止した新聞社なのである。

【次ページ】将棋界と新聞社の「勇気ある決別」が必要かもしれない

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