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  • 2016/05/23 掲載

羽生名人が将棋AIと戦う日――その先の未来で人間は何を思考すべきか

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AIと呼ばれているものの進化によって、マインドスポーツである囲碁や将棋のAIが人間を凌駕する時代になった。これらは共通して、パターン認識、論理的推論、知識データベースの活用、といった、人間の思考形式が部分的に機械化されたものの組み合わせで成り立っている。しかし、その人間たる思考法が、一体どういう形式の思考なのかということは、最新の認知心理学、脳科学、計算機科学、哲学、あらゆる知恵を結集してもいまだに解明されていない。将棋界のレジェンド、羽生 善治 名人がコンピュータ将棋ソフトと対局して、勝ったとしても負けたとしても、人間はその先にある未来を見据えなければならないのだ。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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AIブームの中の本質をつかむ

羽生 善治名人がコンピュータ将棋ソフトと対戦か

 ついに、将棋界のレジェンド、羽生 善治 名人が、コンピュータ将棋ソフト、いわゆる将棋AIと対局する日がくるかもしれない。

 きっかけは、AIをテーマに製作された、NHKの番組取材会見であった。記者からの質問に対して、「いまはまだ詳細を明かせない」とのコメントをしただけで、SNSは色めき立ち、ニュースサイトには「ついに対局へ」との気の早い記事が並んだ。

 コンピュータ将棋ソフトは、何年も前からすでに、「レーティング」と呼ばれるゲームの強さを測るスコアでは、もはや人間には達成不可能な数字を叩き出している。それでもやはり、「いや、実際にトッププロが対局したら人間に分がある」という見方が優勢だったが、「電王戦」という画期的なイベントにて、数々のトップ棋士がすでに敗北を喫し、その強さは公に認められることとなった。

 もはや「コンピュータ将棋ソフトはプロ棋士よりも強い」という概念は、当のプロ棋士にとっても常識的な話となっている。追い打ちかけるように、つい先日、グーグル子会社のDeepMindが開発したコンピュータ囲碁ソフト「AlphaGo」が、トップ棋士のイ・セドル九段を下した。

 もはや、この状況においては、将棋ファンの中で「とうとう羽生も敗北する日がくるのか」という見方が優勢である。またその裏腹には、「プロ棋士界でまさしく人間離れの偉業を達成してきた羽生名人なら、まだワンパンチを入れてくれるはないか」という淡い期待もある。

コンピュータソフトと戦う前に「事前研究」をするということ

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 人間とコンピュータソフトとの対局の中で必ず争点になってきたのが「事前研究」である。

 事前研究とは、相手の過去の棋譜を研究することだ。人間同士の対局においても実施されていることであり、対戦者が「こうきたら、ああする」という考え方の傾向を探ることによって、勝率を高めるのである。

 人間の場合は、どれだけ過去の棋譜を研究しても、「本番になったら、相手がどうでてくるかわからない」という面があり、どれだけ研究をしたとしても、それが必ず勝ちにつながるというわけでもない。これが逆に、プロ将棋観戦の醍醐味、妙味となっている。

 しかし、ことコンピュータソフトになると、「事前研究をやってもいいのか、だめなのか」ということが大きな争点となってきた。それはなぜかというと、コンピュータソフトの場合は、「事前に研究することで必勝法を突き止めることができる」、という事情による。

 なぜ人間は事前研究をしても、その相手への必勝法は見いだせないのに、コンピュータソフトに対してはそれが可能なのだろうか?

 それは、コンピュータソフトは本質的に一定のアルゴリズムで指し手を生成しているからであり、その傾向を掴むことができれば、「こうすれば、ああする」という対策が立てやすくなるからである。

 極論すると、それは、勝てるとわかっている方法を衆人環視のもとで再現するだけの話だ、ということになる。

 そんなことをやっても、プロ棋士の凄さを証明することにはならない。「ああすれば、こうする」ということが形式知化されていて、それを再現するだけであれば、初心者でも誰でも同じことができるからだ。

 だからこそ、事前研究をせずに真っ向勝負で戦うべきだ、という考え方は、観客のなかにもあるし、棋士のなかにもある。プログラム開発者にもある。

 2015年に行われたプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトとの対局「将棋電王戦FINAL」において、強豪プロ棋士の阿久津 主税八段が電王戦の場において、ファンの間で有名だった必勝法を選択し、その直後に、元奨励会員の開発者が投了したことはさまざまな議論を呼んだ。

 一方、コンピュータ将棋ソフト側にも、人間の事前研究に対して対抗する方法が存在する。それは、「指し手にランダム性を持たせる」ということがある。毎度毎度、同じアルゴリズム、ロジックで計算すると、毎回同じ挙動をすることになるが、要所要所で乱数を仕込んでおくことで、予測不可能性を持たせる、というわけだ。

 実は、コンピュータ将棋ソフト同士の対局においては、これをやると勝率が下がることが判明している。

【次ページ】将棋AIは幼稚園児のようなもの

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